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音もなく静かにその日はやってきた。


べつにわたしはすることもないし、いる必要もない存在だ。でも少しとはいえ関わったからには、その行く末ぐらい見届けてもいいかなと思って。

ここにきた。

講堂に足を運んだのは初めてだった。
こういう、人がたくさん集まる場所は嫌い。

講堂にはすでにたくさんの観客が集まっていて、わたしは壁をつたってゆっくり移動した。背中に壁があると後ろだけは守られている気がして落ち着く。
照明が暗いせいでわたしの不審な行動に目を移す人はいなかった。
このまま壁際で観覧しよう。


凛月にはステージ裏まで来るように言われていたけど、本番前にわたしを捕まえる余裕はなかったようだし、わたしが行って先輩の機嫌を悪くするわけにもいかない。

適当に居場所を見つけてそこに立ち止まると、急にステージの照明がついた。
心臓が飛び出そうになったところで、ステージに立っている人を見てさらに息が止まる。

あの人。


「ついに『ジャッジメント』の当日だ!わははは☆」


月永先輩がなぜここに?
そもそも今日ここで何が行われるかも知らない。だれも教えてはくれなかったし、知ろうとも思わなかった。

凛月たちは一体ここで何をするの?
どうしてそこに月永先輩がいるの?

――あいつらがおれのこと探してるらしいんだよ。
――いきなり『あいつ』が帰ってきたせいで、急に仕事も増えたし。


全部つながっていた?
内輪揉めだとか、内乱だとか、不穏な単語が耳に飛び込んできて、頭の中が混乱する。


そうこうしている間に見慣れた姿が目に入る。瀬名先輩?と鳴上くんだ。よく見たら保健室の悪魔もいる。
別々に知り合ったはずの人が同じステージに立っているこの状況がよくわからない。

頭の中を整理できずにいると、月永先輩と目が合った、気がした。


「お!名前だ〜!見えてるかー!?おまえも来てくれたんだな!!待ってたぞ!!」


ぶんぶん手を振ってくる。
気のせいじゃなかった!

まさか自分の名前が呼ばれるなんて思っていなかったので焦る。
右に左に視線をさ迷わせて隠れる場所を探したけど安全な場所はどこにもない。
途端に周りがざわざわし始めて、薄暗闇の中なのに、無数の視線がこちらに集中する。

あの人、なんでこんな遠くまで見えるんだろう。視力がおかしい。
月永先輩のせいで今日は平穏には終われそうになかった。


「名前じゃないのか!?名前だよな!きょろきょろしてどうしたんだ?」
「叫ばないで……」


思わず耳を塞いでその場にうずくまる。
それ以上名前を呼ばないで。
こんなに視線を浴びたのは初めてだ。
いまなら本当に視線だけで死ねる気がする。

とにかく小さくならないと。客席に隠れるぐらい小さくなれば視線から逃れられる。
……でも、今回はうまくいきそうにない。
もう隠れる場所なんてどこにもないし。


「なに、王さまあいつと知り合いなの?」
「むむ、名前はセナの味方だったな!!おれじゃなくてセナを見に来たんだ!!この裏切り者!!いいけど!!そのほうが面白いから!!」


耳を塞いでも周りの声が消えない。
近くに座っている人が「大丈夫か」と声をかけてくれたけど、わたしは返事をする余裕もなくて勢いよく立ち上がると、その場から走り去った。