鳴上くんの背中に隠れて彼のブレザーを軽く握る。
「あらあら、泉ちゃんだいぶ嫌われちゃったわね?」
わたしの反応に鳴上くんは楽しそうに笑った。
笑い事じゃないよ。
「ちょっとぉ、その態度チョ〜うざいんだけど?なるくん、話があるからそこどいて」
「ごめんなさい。うちの大切なクラスメートを簡単には差し出せないわ?」
クラスメート、と言われて握りしめる手に力が入る。
わたしのこと、クラスメートだと思ってくれてるんだ。
「俺を珍獣か怪物と勘違いしてるんじゃない?いいからでてきて」
「……」
「返事ぐらいしたら?ちびゴリラ」
ちびゴリラ?
もしかして、わたしのことだろうか。
だとしたら、そんな呼ばれ方したの初めてだ。
「泉ちゃん?女の子に向かってゴリラなんて言い方はさすがにないわよ?」
先輩でさえもわたしのことを怪力女だと思っている。
たった一度扉を壊しただけなのに。どこまで噂が広がってるんだろう。
「もう、泉ちゃんが話があるっていうからつれてきたのに、これじゃあ名字ちゃんをこわがらせるだけじゃない」
鳴上くんが困ったように腰に手を当てた。
わたしは彼の背後からそっと、先輩の顔を覗き見る。
あ、目があった。
「そうだよ、あんたに話があんの。時間の無駄だから、さっさとでてきてよねぇ。聞いてんの?」
わたしだって早く家に帰りたい。
お腹が空いて限界に近いし、この先輩はわたしのトラウマになりかけている。
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