▼12.衰弱
早苗の部屋はありがたいことにそこそこ広い。ので、ネット通販で自分が横になれるサイズのソファを買ってみた。何故かと言えば、単純にトキヤのためだ。
昔買ってもらったちょっと古い電子ドラムで、文化祭の曲を口ずさみながら叩く。その背後に置かれたベッドでは、トキヤがうつ伏せに寝そべって休んでいるはずだ。
「早苗…」
小さく呼ばれて振り向けば、起き上がったトキヤにヘッドフォンをはずされる。引き寄せられるままに腕の中に飛び込むと、少し息が荒いことに気づいた。
「羽根、もう仕舞えない?」
「すみません、ベッドまで占領して…」
「良い、気にしないで。やっぱりゲームが終わるまで、奪った魂は別保存出来れば良いんだけど」
辛そうなトキヤを抱きしめて頭を撫でてやる。彼は恐らく早苗から魔力を吸い取っていない。キーアがレンのフィールドで言っていたように、トキヤが他人のローザミスティカを奪うのには理由がある。
ゲームではなく、早苗から魔力を奪わないためという。
キーアは平然と3人のドールを手元に置いて、それぞれに力の供給をしているようだ。
七海や友千香も手元にふたりのドールが居るが、どちらも力を分け与えているのは片方だけでキーアが異常な程の魔力を持ち合わせていることは確かだ。
「ねぇ、トキヤ。私トキヤのこと好きだよ」
「っ…、どうしたんですか、突然?」
もしかしたら早苗は4人の中で一番そういう魔力と呼ばれる力が弱いのではないか?
そう思うこともある。
けれど、それとこれとは別問題で。やはり彼に勝って欲しいと思うし、何より自分を頼って欲しい。
「だから、私の力、使って欲しいんだ。」
「いけません!」
はっとして顔を上げたトキヤの唇を奪う。
「じゃぁ、人形に戻るのに必要な分で良い。一晩しっかり鞄で眠って、ちゃんと休もうよ」
「ですが…君の体を酷く傷つける可能性があります」
「そんなに、私って力が無いの?」
自分は本来ドールのマスターになるべきでなかったのかもしれない。キーアのように魔力があり落ち着いた心を持つ、選ばれた人間がマスターになるべきで…。
「いいえ。早苗は4人の中で言うのならばキーアさんに続いて魔力が強いはずです」
「へ?そうなの?」
「ただ、他のドールたちに比べると、私は魔法が高威力である分、必要となるエネルギーの量も多いのです。レンや四ノ宮さんも同じ傾向にありますが、キーアさんが尋常でない魔力の持ち主であるが故にどうにかなっているようですね。」
トキヤに気兼ねなく魔法を使ってもらうためには、その「尋常でない」キーアと同じくらいの魔力が必要なのだろうか。
早苗から力を奪えば早苗の負荷が大きい。だから、他人のローザミスティカを奪うことで枯渇しがちなエネルギーを補給しているのだろうか。
「でもね、トキヤだったら多少私の体調が悪くなっても私のちからを使って欲しい。…ただの独占欲みたいなものだけど、駄目?」
「早苗…」
はぐらかされるのが嫌で、トキヤのシャツをぎゅっと握って訴える。見つめすぎて目がジンジンして涙が出てきた。
「君という人は…本当に可愛らしい……」
言いながら、口を吸われた。軽い触れるだけのキスと共に、左手の薬指にハマった指輪が少し熱を持った気がした。途端、体中に力が入らなくなり、トキヤの胸の中へ大分してしまう。何事かと瞬くも、顔を上げて問いかけることさえ億劫だ。
「すみません、加減はしたのですが…」
「なるほど…確かに、これは…トキヤが遠慮するわけだ」
優しくベッドに横たえられ、トキヤの手の甲が頬を撫でていった。ささやかな触れ合いに背中が少しだけうずいた。そのままトキヤの少しだけ冷たい手が、頬を首筋を撫で肩から脇腹へそして腰の後ろへと回っていく。
切なげに額を合わせられ、早苗の視界には恋しさに焦れる黒い翼の男性が広がった。純粋に綺麗だと思った。
「君は、もう少し我が儘になるべきです」
「我が儘言ったら、私から力を吸ってくれる?」
「そういう意味ではなく、私に愚痴くらいこぼして良いのですよ。私たちはこのゲームのパートナーで……そして、それ以上の関係でもあると私は思っています」
胸がぎゅっと締め付けられるとは、こういうことを言うらしい。嬉しいのに苦しくて、本格的に涙がこぼれてきた。
「うん。ありがとう…でもトキヤも、私にたくさん頼って甘えて良いんだからね」
「ありがとうございます。…んっ」
「ちゅっ…んん…」
「んぁっ……正直、ローザミスティカを制御するのも限界でした…君の力が流れ込んでくるのが、堪らなく幸せです…」
舌を吸われて溢れ出てくる唾液が、トキヤに吸い取られていく。代わりに早苗の口にはトキヤの唾液が入り込み、口内が慣れない味で満たされた。
背中側に回っていた手が服の中に入ってきてブラのホックを外した。開放感に、足の間が水気を帯び始める。
「体に、負担ではありませんか…?」
「大丈夫、続けて」
首や鎖骨、胸元、お腹。脱がされながら、露出した場所に唇を落とされる。くすぐったさに耐えるためトキヤの背中に手を回すと、黒く大きな羽根は少しずつ小さくなって消えた。遠慮無く抱きつくと、そのまま全身を愛撫されて更に全身から力が抜ける。
胸の頂を吸われて体がしなる。パジャマも下着も脱がされて、秘部に直接トキヤのそれが触れた。既に質量を持ったそれが入り口にあることに、早苗からも液体が溢れ出る。
「こんなにしてしまって、君は本当に私に愛されるのが好きですね」
「言わないで!…って、あのちょっともう怒鳴ると体力が…」
「良いのですよ。そうして抵抗せずに…ただ私にされるがままで…」
陰核を指先で押される。尿意にも似た感覚が走った。体力的に動けずただ反応を示すばかりの早苗に気をよくしているのかトキヤは下に指を入れ込んだ。中指がやすやす入ると分かるとすぐに人差し指も入ってくる。
くちゃくちゃと音を立てながら内壁を撫でるその感覚を感じるうち、早苗は盛大に愛液を吐き出して小さく達した。
「可愛らしい…んっ……じゅるっ…はぁ、甘いですね」
「トキヤ、なめちゃ…」
「何を言うのですか、私にとっては甘味も当然…味わいたいのです」
「そうじゃ…っんあぁ…」
蜜が舐め取られる度に陰核が刺激され、恥じる余裕もないほど更に蜜が溢れだす。トキヤにもそれが通じたのか、じゅぽっと音をたてて指は抜き取られ、代わりに男根の先端が入り口に宛てがわれた。
「快楽に身を委ねる君も、とても素敵です。さぁ、もっと見せてください」
「ん、トキヤ…」
もう慣れてきたその感覚に、先端が勢い良く入ってきたことを感じ、早苗も無意識に蕾を締め付けて早く精を搾り取ろうとする。
トキヤの形を覚え始めたそこは、指でよく慣らされたわけではないのに、特に違和感を感じることもなく彼の全体を包み込み、早く動いてほしいと強請るようにうねり、締め付ける。
「あぁ、早苗…どうして欲しいのか……たまには口にしてください」
「おね、が……もっと動いて…」
「良い子です」
ちゅっと額にキスをして、またトキヤの根が出入りを始めた。そのままもたらされる快感のままに、早苗は幾度目か分からない行為に溺れた。
夜、早苗がふと目を覚ました時トキヤはまだ熟睡していた。寝る支度を全て整えてから部活の作業にとりかかって正解だったようだ。魔力を分け与えたことと行為の余韻で動くどころの騒ぎではないし、何より素肌で背中から抱きしめられて眠るのは心地よい。
そしていつも苦しそうに無理矢理眠っている彼が、今はとても穏やかな息であることが幸せだった。
青いバラが咲き誇る庭園のような場所。そんななかポツンと作られた座敷で、真斗は一人お茶を楽しんでいた。
nのフィールドに作られた彼専用の空間。早朝にここでお茶をするのが日課になっている。本来であればドールは夜の9時から朝の7時まで眠りにつくものだが、最近は各自が好きな時間に寝て好きな時間に起きるようになってきた。
レンに至っては夜遊び歩き明け方眠りにつくことも多いと以前様子を見に行った時に聞いている。おのれ神宮寺、けしからん。
「しかし、良い人に巡り会えたようだな」
レンがゲームに対して不真面目なのはいつものことだが、今回初めてパートナーを見つけそして誓いまでした人間。キーアという存在は彼の中でとても大きいようだ。
かくいう真斗も、七海を守りぬくという信念は持ちあわせているし、男子たるもの女子を守って当然とも思う。が、放っておけない理由もちゃんとある。
あくまでも人間とドールが共にいるのは、ドールがゲームにおいて魔法を駆使するためであって決して思いを通わせあい愛しあうためではない。
にも関わらず、那月もレンもまるっきりキーアに骨抜き状態で彼女に身の危険が迫ったら他の何を捨ててでも助けに行くだろう。それはシリーズ外部の砂月とて同じだ。
ドールと人間は相容れない。何故なら子を成すことも出来なければ、老いる速度が違う。まして人間の姿になるためには若干面倒でもあり、添い遂げるということはなかなかに難しいのだ。
「そして一ノ瀬もか…まったく、今回は皆、てこずりそうだ」
レンよりも重症であろうのがトキヤであり、彼の場合ドールと人間が一対一で、そしてセシルのローザミスティカのお陰で
ほぼ一日を人間の姿で居ることが出来る。
もちろん肉体的な負担も大きいだろうが。
「せめて、二人の幸せが長く続くと良いのだが」
真斗はまたお茶に口をつけて、恋に、愛に難儀する兄弟たちを思うのだった。
第12話、終。
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2013/09/12 今昔
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