▼11.5 裏側



憎い。


と、これほどまでに思ったことはありません。


「これでレンもお家に居られますね。」

「ありがとう。シノミーたちもすまない。」

「レンくんと一緒に居られるのは僕も嬉しいです!
 でもキーアちゃんに抱っこしてもらうのは交代ですよ?」


つい先程までボディを持たないただのジャンクだったはずのレンが
キーア・シャイニングの手によって体を得た。

たかだかジャンクでしかなかったのに、
自分たちドールと同じ立場にのし上がったのです。
しかもキーアという貯蔵庫のように魔力を持った人間をパートナーにして。

早苗と比べるなどくだらないとは思いますが、
私がパートナーから魔力を吸おうものなら
彼女はあっという間に力尽きてしまう。

決して早苗の力が弱いわけではないのです。
七海春歌という聖川さんのパートナーよりも余程強い魔力は持っているのですが
私の使う能力が特殊である分、負荷に耐えられないようでした。

しかも。
他のドールに万が一手をつけられるのが嫌だからと
左手の薬指に指輪を嵌めてしまった。
ここは一番魔力を吸い取りやすい。

最初は殺すつもりで力を奪う予定だったのに、
こんなにも、人間を愛おしいと思ってしまう自分が憎らしい。


「トモチカ、今日はナツキたちも疲れているようです。」

「そうね、キーアもゆっくり休んだ方が良いだろうし。
 あたしたちはお暇しましょうか」


愛島さんも。
ローザミスティカが無いのだから人間と居る理由なんてないはずなのに
ああやって渋谷さんのもとで暮らしている。

何も考えず、何の心配もなく人間のもとに居る他のドールたち。



憎い。



ちょんちょん、と、袖口を引かれた。


「私たちも帰ろう?トキヤもそろそろ休んだほうが良いよ」


いつも通りの、少し茶色くも見える
この国の人間特有の瞳がこちらを見上げていた。


「そうですね。では、私たちもこれで失礼致します」


我慢ならない、と。
私はまた早苗を抱え上げて薄暗くなった空を飛び、
恐らく彼女の部屋に帰ったらその場で唇を奪い
そして"誓い"という名前の行為に身を染めるのでしょう。

人間とドールではその行為が指し示すものは異なりますが、
ただ互いがそこに居ると認識できるということは同じです。

今はただ早急にゲームに切りをつけて、早苗の傍に
人間として居られるようにすること。

私が望むのは、ただそれだけ…






第11.5話、終。






2013/09/11 今昔








_