※長編「悪魔の子」第1章のネタバレ?があります。
※若干の痛々しい表現あります







キーアの生まれ故郷は日本から遠く離れた雪国、半分鎖国状態にあるシルクパレスという国だ。
精密機械の生産が盛んで、その国の女王候補としてキーアは生まれてきた。シルクパレスの女王は他国に比べて特殊で血統でもなければ民衆からの支持でなるものでもない。
その身に魔力を宿していることが条件だ。








▼10.恋心







レンは偶然にも「雪華綺晶」という型番としてこの世に生を受けた。そして更に偶然は重なり、ほとんど時間の流れが無い、というよりも自分の意思で体感時間が変わるnのフィールドに生まれ落ちた。
幸か不幸か、先に生まれた兄弟たちが人間相手に四苦八苦しているのを見てきたレンは、自分は最初のパートナーをしっかりと選びたいと願っている。故に現実世界の人形に宿り様々な国を旅してきた。


(そろそろ飽きたな。)


とあるアンティークショップでレンは思う。何故見た目麗しいというだけで人形を選んでいくのだろうか。人間には聞こえていないかもしれないが、その人形は自分が可愛いと理解して周囲の人形たちに散々罵詈雑言を吐いている。


(オレに実体はない。あるのは自分のローザミスティカだけ)


そんな時だった。
久々にnのフィールドに帰ると、誰かの夢の扉が空いているのを見つけた。そこを覗いてみれば、寝室のような場所でまだほんの5歳程度の女の子が脂ぎった中年の男性の手によってベッドに押し倒されていた。


「ほらどうした悪魔の子、喘げ。俺が満足するまで啼け」

「………」

「聞こえなかったのか?」


少女にムチが当たる。ミミズ腫れが出来て痛々しい。
よく見ればその傷の下にも治りかけの傷が残っているようだ。

気持ち悪い。

瞬間そう思った。
艷やかな黒髪に猩々緋の瞳、幼さもあってか陶磁器のように綺麗な肌。そして実体を持たないレンだからこそ分かることだが、彼女の心は夜空のように澄み渡っていて、暗いもののとても美しい。
そんな美麗という言葉を具現化したかのような少女を、そのただの人間である男に触れられるのはとても嫌だった。

こっそりと能力を使って、毎夜毎夜、彼女を愛でに来る男性たちを、レンはnのフィールドから手を出して阻止する日々が始まった。


---- 〜♪

futtaycerielalaferie
(これは二人のための歌)
orakusha-nacollolaferie
(とても美しい貴方の歌声)

jutenutemptatalliinou
(古から続く世界の中)
roomoaccelllionacollo
(道は向かう 愛しい貴方へ)
agenalamoonychessta
(神聖な月明かりの天使)
futtaymorennlionafool
(二人は永久の恋に落ちた)

futtaycerielalaferie
(これは二人のための歌)
orakusha-nacollolaferie
(とても美しい貴方の歌声)
futtaycerielalaferie
(これは二人のための歌)
orakusha-nafuttayliona
(とても美しい二人の愛)



虐待を受けている少女はよく歌を歌っている。
それは彼女が作った歌のようで、どの曲も自分を救う天使に捧げるものだった。そして毎日それを聞いていて分かったことは、彼女がレンの存在に気づいているらしいことだった。
レンはその少女に興味を持った。くだらない人間ばかりだと思っていたけれど、その娘だけは違うとおもった。レンは大人たちの居ない間を見て、茨の束を彼女の部屋へと侵入させた。


「ねぇ、レディ。君の名前は?」

「…!?」


突然現れた茨と、その中から出てきた男性のドールにビックリしたのか少女は固まり、次の瞬間にはレンが毎日助け船を出している存在だと気づいたようだ。


「あなたが…天使様?」

「オレが天使ね…うん、それも悪くないぜ。でもオレの名前は雪華綺晶…レンと呼んでくれると嬉いな」

「レン…?私はキーア。」

「キーア、良い名前だ。」


その日から、キーアはレンの初めての人間の知り合いになった。もしかしたら彼女ならマスターになってくれるかもしれない。そんな期待の中で、レンは少しずつドールのことやプリンス・ゲームのことを聞かせて、彼女もまた少しずつ自分の生い立ちを聞かせてくれた。


「レンの目に咲いてる薔薇は綺麗ね」

「ありがとう。キーアも薔薇が良く似合いそうだ」

「何色が良いかな?」

「出来るなら、オレの色を身につけてほしいな。もちろん、瞳の色に合わせた真っ赤な薔薇も似合うだろうけれど」

「うーん、赤とオレンジならオレンジが良いわ。レンとお揃いだもの。レンと一緒が良い」


彼女と会って話すことが、キーアとともに居ることがとても幸せだと感じた。
けれどある日、キーアの部屋に降り立つと、そこは焼け焦げた木材が転がっていて、レンは彼女との別れを悟った。
キーアの生死は分からない。人間の寿命は女性なら80程度だろうか。ならば生き延びていればその間に探し出してもう一度で良いから会いたい。
出来るなら会って抱きしめたい。人間の姿で。



街中で、キーアに少しだけ似た女性を見つけた。髪の毛の色はこの国のものだったが、なんとなく纏う空気が似ていた。


「おはよう、可憐なレディ」


容姿は同じドールの中でも整っている方だし、何よりnのフィールドで生きる者としての特権で人間の大きさにはなれる。
彼女の夢の中に入り込んで、唇を奪ってみた。柔らかった。キーアの唇もふわりと柔らかく暖かいのだろうか。そんなことを思いながらその女性を抱いた。

実体が無いレンは抱けば、心を相手が寄せてくれれば力を吸い取れる。何も力尽きる心配は無く、簡単に心を開く女性ばかりだった。
こうして手当たり次第に女性の体を奪っていれば、そのうち、キーアにめぐり会えるのではないか。もしキーアが生きていなくとも、キーアにそっくりな人間が居るのではないか。


「そのように女性を扱うなど……神経を疑うぞ神宮寺!」

「真面目にゲームに取り組んではいかがですか?今のあなたを見ていると痛々しい」


何度か真斗やトキヤが叱りにやってきたけれど、知ったことではない。
自分はただただキーアに会えればそれで満たされる。ゲームなんて関係ない。

そして、レンはnのフィールドからキーアを探し続けた。現実世界を見下ろしながら、女性たちを媒体としながら。心は奪っても、決して体は奪わない。
ドールにとって肌を合わせる行為とは神聖なもので、そう簡単に行うものではなく、レンはキーア以外としたいとは思えなかった。体を求めてきた女性は力を全て吸い上げて手放した。


そんなある日だった。
生まれ故郷から遥か遠く離れた土地で、次々とドールが目覚めた気配を感じた。最初に那月が、トキヤが。そして音也と真斗。更にはその4人の気配を察知したのか、セシルや翔までもがこの土地にやってきた。
気にならないはずが無い。4人が目覚めた時点でその土地を調べていた。

そして気づいた。「Shining」という表札の付いた家があることに。自分たちの製作者の血縁者だろうかと、興味で中を覗いた。


「そうか、怖かったんだね。大丈夫ですよ、これからは毎日、この家の中でなら自由にしていて構いません」

「ありがとう!キーアちゃん、大好き!!」


自分が居たいと、そう10年間願っていた場所には那月が収まっていた。翌日、無理に契約させられているのを見た時は流石に苛立ったけれどキーアが不思議と幸せそうに見えて、武力介入は控えていた。





けれど今。


白い茨で作られた台座の上で、赤いバラの蕾が開いた。丸まって眠っていたキーアが、そっと上体を起こし、レンの姿をその瞳に映した。たったそれだけのことで、レンは自分が満たされていくことを感じた。


「レン…?」

「久しぶりだね、ハニー」

「どうして…ここに……?あぁ、レンが、第7ドールの雪華綺晶…同じ名前だとは思っていたけれど、同一人物だったのね」

「オレのことを、覚えていてくれたのかい?」

「忘れるはずが無いでしょう?あれだけ私のことを助けてくれた、命と誇りの恩人よ」


すっと、喜びに任せてキーアに近づき、そして気づく。他のドールの"匂い"。


「レンが第7ドールだったということは、もうずっと私のこと見つけてくれていたんでしょう?もっと早く会いたかった…」

「ねぇ、キーア」

「どうしたの?」

「もしかして…誰か他のドールに……『守りたい』と言われたのかい?」


キーアの頬がふっと染まった。今の彼女からは2つの黄色い気配を感じる。恐らくも何も、那月と那月にそっくりなドールの気配だ。


「言われた…。誓ってくれたの、守るって」

「今のハニーは、二人のナイトを連れたプリンセスだ。1つだけ聞かせて。キーアの傍にはまだ、オレの居場所はある?」


もしかしたら、自分はもう必要とされていないのかもしれない。そうしたらどうしようか。
ローザミスティカを持ったままでnのフィールドに閉じこもってしまおうか。
そうすれば6この魂を手に入れてもそのドールはプリンセスになれないし、その様子を眺めるのはきっと気分が良いだろう。
それに、キーアはもう那月か砂月を一番だと思っているのかもしれない。


「あたりまえでしょう?」


想定外。


「確かに、那月と砂月の『守りたい』という誓いを生半可な気持ちで受け取ったわけじゃない。でも、ずっとレンに会いたいと思っていたのも事実なの」


数歩の距離を駆け寄り、人間の体に変じて抱きしめた。
背中にそっと、暖かい手が回される。
レンの肩に載せられたキーアの頭が、こてんと傾いて頬に唇を添わせた。


「また、見つけてくれてありがとう、レン」


優しいキスに、こちらからも唇を奪い返す。時折離れる唇からこぼれ出た、言葉にもなっていない喘ぎ声はひどく扇情的でレンは有無をいわさずその花びらのベッドの中へとキーアを押し倒した。
ブラウスのボタンを外し、胸元に顔を埋めてキスマークをつける。


「レン、くすぐったいです…」

「ハニー…オレにも誓わせてくれるかい、キーアを守りたいと」

「私も、レンに守られたい」

「ありがとう、キーア」


優しく口付けてから、レンはそっとキーアの服を脱がせ始めた。もうこの世が終わっても悔いはないと思えるほど、その瞬間幸せだった。







第10話、終。








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2013/09/06 今昔
書いてる自分が一番興奮してるなう。
レン様流石。






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