「シャイニング・メイデンの第一ドール、水銀燈です。」





▼2.プリンス・ゲーム






「すいぎんとう?」

「えぇ、ですがそれは型番に過ぎません。製作者から与えられた名前は、一ノ瀬トキヤと申します。」

「あ、どうも、私は白崎早苗です」


優雅にお辞儀をした人形に、早苗も条件反射的にお辞儀を返す。人形が喋り、浮いて、しかもなにやら自己紹介を始めてしまい、正直なところ思考回路はショート寸前である。今すぐ会いたいよである。
(※分からない人はお家の人に聞いてね!←)


「昼間は随分と兄弟たちを気に入ってくださったようで、ありがとうございます。」

「兄弟…?あ、他の人形?」

「ええ。あの家に仕舞い込まれていたのは私、第一ドールの水銀燈、それから第3ドールの翠星石、第5ドールの真紅、第6ドールの雛苺。」

「待って待って、私、あなたについて何の予備知識も無いんだけど、少なくとも6人居るっていうのは把握した。で、あなたたち何者?」


水銀燈----トキヤは、早苗の机の上に降り立つと勝手にノートパソコンを開いてマウスを操作し始めた。某先生の検索画面から「シャイニング・ドール」と入力し、検索結果の上から数番目にあったサイトを開く。


「見ながら聞いて下さい。というよりも、一度読んでいただく方が良いかもしれません。」


早苗はなんとなく冷たく高圧的なトキヤの台詞に大人しく従うことにした。どうやらそのページはファンの人が作ったらしく、製作者の情報や史実から得たその人の見解も合わせて記載されている。






▼シャイニング・ドールとは?
かの有名な人形師、シャイニング早乙女が作ったとされる7体の人形。
それらはそれぞれにトレードカラーと楽器が与えられ、観賞用として作成された。
しかしながらその人形は販売されず、一部をシャイニングの知り合いへ譲ったのみである。
ドールにはそれぞれに型番として下記のような名称が与えられている。
第1ドール:水銀燈
第2ドール:金糸雀
第3ドール:翠星石
第4ドール:蒼星石
第5ドール:真紅
第6ドール:雛苺
第7ドール:雪華綺晶

▼特徴
それぞれが黒地にトレードカラーを挿し色にしたゴシックな雰囲気の
スーツ(または燕尾服)のような衣装を着こなしている。
ゼンマイ式であるとされているが、非売品であったためにどのように動くのかは不明。
シャイニングの残した資料には「soul」と表記されたイラストが残っており、
それは小さな宝石のような形をしているが、詳細はまったく不明である。

▼所在
シャイニングの死後、ドールたちは遺族の手によって一体ずつケースにしまわれ、
ある時は生家の蔵で鞄の形をしたケースを見たという証言もあるが、
現在どこにドールがあるのかは不明である。

▼ドールの謎
シャイニングの残した資料からは「7体のドール」という記載が見受けられるものの
実際に確認され写真や絵画が存在するのは6体のみである。
第7ドールは雪華綺晶という名前が公開されてはいるものの、実物を見た者は居ない。
また、このシャイニング・ドールが遺作であることから、
製作予定はあったものの完成前にこの世を去ったのではないかと思われる。





「それが、一般的に知られている私達ドールの生い立ちです」

「ソウルって書いてるけど、人形師はガチでソウル入れちゃったわけか…」

「その通りです。そして、私たちはシャイニングから遺言を受け取っているのです」

「遺言?」

「『プリンス・ゲームを行え』と」










「プリンス・ゲーム?」

「はい、そうですよぉ〜」


キーアの膝の上で、第6ドール雛苺・那月は言った。結局のところ、ゼンマイが気になったキーアは若干の気味悪さもあったが、詳細が分からなければ埒があかないと、思い切ってゼンマイを巻いてみたのだ。
すると、ピンクと黄色のフワフワした衣装を身にまとった雛苺こと那月は自分たちが"シャイニング・ドール"と呼ばれる人形のシリーズだと名乗った。

後はパソコンだいすきっ子であるキーアの領域で、ググってウィキって調べたところ有名な人形師の作品であることが判明した。そして何より驚いたのは、その名前が自分の身内のようだったからだ。そのせいなのか、彼の性格なのかは分からないが、那月は異様になついてくれた。


「那月、どうしてそんなに…その、友好的なんですか?」

「キーアちゃんは、僕を真っ暗闇から出してくれました。だからずーっと一緒に居たいんです。」

「真っ暗?」

「鞄の中はとっても落ち着くんです。
 僕達ドールはあの中で眠らないと本当の意味では肉体的疲労が回復しないんです。でもあの中は真っ暗だから……何年も何十年もずっと暗闇…」

「そうか、怖かったんだね。大丈夫ですよ、これからは毎日、この家の中でなら自由にしていて構いません」

「ありがとう!キーアちゃん、大好き!!」


膝の上に立ち上がった那月はそっとキーアの唇を撫でると、際どい場所にちゅっとリップ音を立ててキスをした。随分と西洋育ちなお人形さんである。


---- 〜♪


と、キーアのスマホが音をたてた。寝室に置かれているデュアルモニタのデスクトップPCの影から最新より1世代古いスマホをとると、今日アドレスを交換したばかりの早苗からだった。


「どうしたんですかぁ?」

「今日来ていた子からですよ、早苗さん。どうやら彼女も水銀燈のゼンマイを巻いたようです」


メールの返信を打っていると、更にメールが届きさっそく覗いてみれば予想通り友千香と七海からのメールだった。
4体のドールが同時に目覚めてしまった。キーアは先程那月から聞いた話に、若干の不安を覚える。


「プリンス・ゲームはお互いが持っているソウル、動力部と呼ばれるローザミスティカを奪い合うゲームです」

「ローザミスティカ?さっきsoulって書かれていた、あの宝石?」

「はい、シャイニーはこう言っていました。『7つのローザミスティカを1つにしたドールは、至高の男性"プリンス"になれる』と」

「で、そのプリンスになるために、ローザミスティカを奪い合う?」

「はい…でも僕はプリンスにならなくても良いから、みんなと仲良く暮らしたいんです」


確かに、世界にたった7人の家族なら、仲良く暮らしたいと思うのは当然だろう。ではなぜシャイニング、恐らくキーアのご先祖様である彼は「7つを1つに」などと無理難題を押し付けて亡くなったのだろうか?

分からないことだらけなので、キーアは一旦、明日学校へどうにかしてドールを連れてこれないかと3人へメールを入れて、那月の鞄を枕元へ置いた椅子に載せると、二人で仲良く眠りについた。




翌日のお昼休み。
4人は学校指定のバックにお昼ごはんとドールをどうにか入れて屋上へと忍び込んでいた。キーアのバックがもぞもぞと動き、チャックの隙間からポンと頭が飛び出した。


「キーアちゃん、僕も一緒にお昼食べたいです!」

「はい、今出してあげますからちょっと待って」

「なんか、ドールってみんな超フレンドリーなのね…」


友千香も呆れたようにバックからドールを出すと、赤髪のドールは嬉しそうに友千香へ抱きつき
俺もお昼食べるーと手足をばたつかせている。

七海が連れて行ったドールの方は大人しいタイプなのか、彼女の腕のなかでちょこんと座っている。


「真斗さん、小さいタッパの方が真斗さんの分ですよ」

「ありがとう、もう少し調理器具が小さければ料理も手伝えるのだが…」

「気にしないでください、私がやりたくて作ったので」


4人は丸くなって座ると、当然早苗もドールを連れてきたのだろうと視線をやるも、
早苗は自分のぶんのお弁当だけを取り出した。


「あれ、早苗、あんた連れてったドールは?」

「もしかして、早苗ちゃんのだけ起きなかった…とか……」

「いや、起きたよ」


早苗はキーアの首に抱きついて頬ずりをしている那月を見やると羨ましいとつぶやいて溜息をついた。キーアはその反応に、彼女が連れて行ったのが水銀燈であると思いだした。


「そうか、早苗さんのところに行ったのは水銀燈でしたね」

「そうなの。真紅や雛苺に翠星石ってドールが来るよって言ったら逆効果。絶対行かないって言い出しちゃって」

「なに、水銀燈が……一ノ瀬が目を覚ましているのか?」


七海の膝の上で子供用のお箸を器用に使っていた第5ドール真紅・真斗が苛立ったように言った。キーアは昨夜那月に聞いた「真紅と水銀燈は仲良しさんじゃないんですよぉ〜」という言葉と、更に水銀燈ことトキヤはあまり他のドールたちと一緒に行動しないのだという性格を思い出す。
ただでさえツルむのが嫌いなのに、そこに苦手な真紅が居たのでは来たくは無いだろう。


「俺たちのゲームについては各自が主人に話しているだろう。…四ノ宮、きちんと伝わっているのだろうな?」

「はい〜キーアちゃんはとぉーっても頭が良いので、自分で全部調べてくれましたよぉ〜」

「あー、むしろ俺のほうが心配かも…」

「一十木…お前はまた主人に苦労をかけるつもりか?」

「まさか!俺だって友千香と一緒に頑張ろうって思ってるんだよ!だから頑張って説明はしたんだけど…」

「安心なさい、音也。半分くらいは分かったから」


友千香に呆れたように言われると、音也は悔しそうにコンビニのおにぎりにかぶりついた。
どうやらまともに話がわかっていないのは友千香だけのようなので、
キーアは昨夜プリントアウトしておいたドールたちの資料を全員に見せることにした。

簡単に説明すると、友千香も大分非現実的なことを受け入れる頭になっていたようで
ドールが動く理由も戦う訳も、そして穏健派についてもよく分かってくれたようだった。



第2話、終。








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2013/08/23 今昔







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