※ローゼンメイデンのパロディです。
※↑を知らなくても楽しめるよう配慮しております。











「転校生を紹介するわよー」


相変わらずうちの副担任、月宮林檎は女子力が高いなぁ…などと、白崎早苗はぼんやりと考えていた。

私立早乙女学園の音楽科。
時折こうして、全国から優秀な実力者が転入してきたり、海外留学から帰ってくるタイミングで入学したりすることがあるらしい。そんな話を隣の席に座った男子生徒が話している。
ぶっちゃけ誰が増えようとあまり関係ないなと思っていた。


「キーア・シャイニングです。よろしくお願いいたします。」






▼1.アンティークドール






「キーアさんって確かシルクパレス出身の歌手だよね…?」

「そうそう、しかもアグナパレスの血も混じってるって、テレビで超レアものって紹介されてた」


転校生の日本人場慣れした見た目と、その有名過ぎる名前にクラス中が湧き上がってこそこそと囁きあっている。転校生は苦笑いして若干居心地が悪そうだ。


「ねぇ、早苗、あの子のことどう思う?」

「友千香も物好きだね、放っとけば良いのに」


前の席からぐるっと後ろを向いて話しかけてきた友人に、早苗は溜息をついた。渋谷友千香は真っ赤な髪の毛が綺麗な子で、早苗と同じ部活の女の子だ。楽しいこと好きで何にでも首を突っ込むのが悪い癖だと認識している。


「だって、本物にしても偽物にしても、そろそろ止めて上げたほうが良いんじゃないかなって」

「無駄でしょ。林檎ちゃんが止めるわけないし」


普通の高校ならここで担任が止めるのだろうけれど、生憎とここは"早乙女学園"、音楽に特化した実業高校。芸能高校に近い校風のためか、各クラスに副担任という形で現役のモデルやアイドル、歌手なんかがついている。

そんな学校の中で教師に助けを求めているようでは将来厳しい音楽界を生き抜いてはいけないということで、林檎のように割りと放任主義な教師が多い。

流石にそろそろ教室を静かにさせたほうが良いだろうと早苗が呆れ始めた時だった。



----- 〜♪



しずかにピアノが流れ始める。教室に備え付けられたピアノに、転校生が座って演奏していた。


「これって確か、美風藍の新曲…」

「戦国LOVERSの主題歌だよ」


転校生の中性的な歌声に、教室の女子がうっとりと黙り込んだ。


----- 〜♪


「ありがとうございました。」


演奏と歌が終わってお辞儀をすると、教室から惜しみない拍手が贈られた。林檎に促された転校生は、早苗の真後ろの席へと腰掛ける。一番廊下側の最後尾、なかなかの立地条件だ。



そしてショートホームルームが終わると同時、早苗の目の前で友千香が勢いよく立ち上がり振り向いて転校生の両肩をがしっと掴むと、


「軽音楽部に入らない?」


小悪魔のような怪しい微笑みで言い放った。


「けーおんがくぶ?ですか?」

「そう、軽音部!あたし、今福部長やってるんだけど、ボーカルやってた先輩がやめちゃってね、あたしたちのチームのボーカルやらない?」

「はぁ、僕が軽音のボーカルですか…」

「あんたなら、すっごく良いと思うのよね。ちなみに、あたしはギター、そこの早苗がドラム、隣のクラスの春歌って子がシンセ」


あまり乗り気で無さそうなその様子に、
早苗はさっさと諦めて自分たちで歌ったほうが良いんじゃないかと思い始めた。

転校生----キーアはちょっと考えるような素振りをすると、
なるほど、と手をポンと打ち合わせ、


「もしかして僕、エレベも出来た方が良い感じですかね!」







その日の放課後。
親睦会という名の下に、早苗、友千香、春歌はキーアが暮らすことになるという小さな洋館へとやってきていた。どうやらキーアの保護者である伯爵が、日本で適当な物件を買い取ったらしく閑静な住宅街にある、古いがよく手入れの行き届いたお家だ。


「わー、可愛いお家ですね!」

「まだ片付いて無い部屋もあるので、リビングだけですが…」


春歌はさっそく歓声をあげて、キーアを苦笑いさせている。3人は玄関へ入ると更に歓声をあげた。
それこそここが日本であることを忘れさせるような、クリスタルの彫刻などが飾られている。上からは小さなシャンデリアが下がっている。まさに女の子の憧れといった感じの造りだ。


「さて、キーア、申し訳ないけどお皿とコップお願いして良い?」

「はい、リビングはそこのドアですよ」


一番に靴を脱いだ友千香がリビングのドアをあけ、再び感嘆の声をあげた。


「わー凄い、このバック可愛いわね!」

「バック?」


キーアには心当たりが無かったのか、友千香の肩から部屋を覗くと気味悪そうに呟いた。リビングの床とソファの上に、全部で4つの鞄が置かれている。


「僕、こんな鞄持ち込んだ記憶がありません」

「宅配されたの?」

「まさか、日本の治安が良いとはいえ、流石に鍵はかけて出かけてますよ」


確かに、家全体の雰囲気がアンティークなこともあってか、その茶色い皮で出来ているであろう鞄は、キーアの持ち物なのではないかと思わせる。
けれど当の本人は不気味そうに鞄を見つめるばかりで、動きそうもない。早苗は「ちょっと失礼」と言い放ち部屋に入ると1つの鞄を開いてみた。

そこには、外ハネの黒い髪の毛、紺色のゴシック調のスーツのような衣装、そして背中には小さな黒い羽をつけた、人形が一体眠るように収まっていた。ゼンマイでどこか動くのか、片隅にネジも入っている。


「お人形ですね」


怪しいものではないと分かったのか、春歌も早苗の隣で一つの鞄を開いて、今度は青い髪の毛に泣きぼくろのある人形を抱き上げた。


「春歌、よく抱っこできるわね…」

「友ちゃんも開けてみて下さい、とっても綺麗なお人形ですよ!」

「え…キーアは、この人形に心当たり無いの?」


突然友千香に振られたキーアは驚いたように両肩をびくつかせると、そういえばと恐る恐るといったようすで口を開いた。


「実はこのお家、僕もまだ入ったことのない部屋がたくさんあって、その部屋、ネズミか何か居るのか時々ガサガサって音がするんです。」

「ちょっとやめてよ、ホラーじゃない…」

「僕の出身国は……この国でオカルトと呼ばれるものを信じてる人が多いんです」


早苗は春歌と同じように人形を抱き上げると、そっと頬を撫でてみた。60cmくらいある人形は、人間の赤ちゃんと同じくらいの大きさで、肌も本当に作り物なのか疑いたくなるほどに綺麗だ。


「友千香、開けてみたら良いんじゃない?日本だと呪いとかって信じてなきゃかからないって言うし」

「それはあんたの持論でしょ!」


二人が抱き上げても何もなかったためか、友千香も諦めたように残りの鞄2つの蓋をあけた。それぞれに赤髪の人形と金髪の人形が横たわっていて、やはり同じようにゼンマイを巻くためのネジが入っている。

友千香は赤い方を抱き上げると、先程までの怯え方はどこへやら。可愛いと連呼して頬ずりをしはじめた。


「え、え、なにこれ、僕もその黄色い子抱き上げて頬ずりしたほうが良いんです?」

「誰も無理にしろとは言わないよ。…でも、この子たち、どうする?置いて帰っても良いんだけd

「持って行って下さい!!是非!!」

「ま、そうなるよねー」


結局早苗たちは全員、一番気に入った一体をお持ち帰りすることになった。キーアは最後までどうしたら良いか分からないといったふうにソファに腰掛けさせた金髪の人形を見つめ続けていた。
普通ならば、見知らぬ人形を手元に置きたいだなんて思うはずがないのだ。この時既に、4人が4人とも少しばかり日常から足を踏み外していたのかもしれない。






早苗は夕飯もお風呂も宿題も全て終わらせると、自分の部屋に篭った。ずっと気になっていたあの人形のゼンマイを巻いてみようと思ったのだ。
ベッドの上に茶色の鞄を乗せ、そっと開くと早苗は人形を抱き上げ、ゼンマイを巻く。




---- 巻きましたね




誰かが言ったような気がした。無視して、カリカリカリと音を立てながら回していく。っく、とゼンマイがそれ以上巻けなくなった時。


ばさり


目の前で何かが羽ばたいた。


「は?」


空っぽになった手を呆然と見ていると、目の前に黒い羽が降ってくる。


「あなたが、私のゼンマイを巻いたのですか?」


声に見上げれば、そこには先程まで自分の手の中に居たはずの人形が居て、大きくなっている羽は羽撃いてはいないのに、空中にふんわりと浮いていた。


「私が巻いた…あなた、何者?」

「私は……水銀燈」

「水銀燈?」

「シャイニング・メイデンの第一ドール、水銀燈です。」






第1話、終。





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2013/08/23 今昔





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