【 Reality 】


美風藍というのは自らが創りだした、二足歩行ロボットでシャイニング早乙女の言葉を借りると「ミュージックロボ」なんていう名前になってしまう自慢の作品だ。もはや作品と言えず息子のように思っている。

なので、毎晩こっそり行なっているメモリのチェックも、罪悪感が無いと言えば嘘になるし、子供が大きくなってきて「もう父さん近寄らないで」と言われるのはこんな気持ちなのかと…
それでも自分の両手はそのルーティン作業を黙々とこなしていく。


『藍ちゃん藍ちゃん、ここの4小節、2種類弾いてみるからどっちが良いか選んでね?』

『わかった。……………全体的に先のほうが良いけど、後のほうの3小節目は雰囲気が良い。だったら、むしろ両方合わせて……こんな感じでどう?』

『なるほど…』


来栖という少年のパートナーだった彼女は今、藍と来栖、そして四ノ宮という少年たちのユニットソングを作成しているそうで、メモリの内容もそればかりだ。


白崎早苗。
シャイニング事務所所属の作曲家で、最近はドラマのBGMで才能を発揮。本人も歌うのが好きだそうで、藍がたまにボイストレーニングを見ているようだ。
今日はそんな彼女の珍しいメモリが残っていた。


『届かない 君への思いだけが
 僕のただひとつのreality
 叶わない 願いは叶わない
 分かっているけれど会いたくなる』


早苗が歌ったのは、愛音の、曲だった。
聞いた瞬間、胸の奥をぎゅっと捕まれ、揺すられ、抱きしめられたように、切なく苦しい愛おしさに襲われる、そんな歌。

藍の"天使の歌声"と呼ばれるあの声とはまた違い、早苗は早苗なりの何かしらの思いを込めてこの曲を歌っていると分かった。音楽に関してはほぼ無知な自分にでも、そう伝わってきた。

そして藍がその時に思考した内容は


「愛情ねぇ…まさか、この子が教えてくれることになるとは」


その時藍は、確かに彼女を世界で一番大切なものだと認識し、自分の秘密を守ることよりも優先事項を上に持っていった。けれどその思いも、


「藍はロボだからね。彼女に気づかせてしまったら、辛い思いをさせるだけだよ」


ならいっそ自分が----------


なんて、自分の中に出てきた感情に、戸惑った。
ただ「博士」という通名しか教えていない彼女に、気を取られるだなんて。恋だ愛だなどという非科学的なことに振り回されるだなんて。それこそ「博士」失格だ。


「これは、来栖くんに頑張ってもらわないといけないかな…」


そう、藍のためにも、僕のためにも、ね。



届かない君への思いだけが。僕のただひとつの




【 Reality 】





お願いだから、藍がこの感情に気づく前に。彼女の気持ちを他所へ持って行ってしまってくれないか。
じゃないと僕は、藍に嫉妬しなくちゃならない。






END




2013/01/31 今昔
藍ちゃんの曲を作っている彼女が気になる博士。可愛いです。




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