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※ トト様に関する神話ネタ(可能性もある、程度で言われている説)が入ります
※ 登場する神あそ以外の神様(セシャト、ラー、イザナミ)が居ます






「ちょっと!兄さんってば何してるのよ!!それはシャナの分でしょう?」

「? そうなのか?足りなければ追加すればいい」

「そういう問題じゃないわよ!恋人だっていうのにちょっと配慮が足りないわ!見知らぬ土地に来ているんですもの、兄さんが全力でサポートしてあげなくってどうするっていうのよ。はぁ、駄目だわ、シャナ。やっぱり私がもっといい男紹介してあげるわよ。マヤ神話のアフ・プチなんてどうかしら?それとも身近なアマテラス様の方がいいかしら?」


早苗は目の前で繰り広げられたマシンガン兄妹喧嘩に苦笑いを零すしか無かった。
テーブルの向かい側に恋人であるトト、その隣にはトトの妹セシャト、それに二人の上司である太陽神ラー。更にこちら側には日本の黄泉代表イザナミ、日本の太陽神である陽、そして早苗が座っている。
楽しげな会食であるはずのその場所は、今やトトとセシャトによる兄妹喧嘩で賑わっていた。この喧嘩はいつものことであるらしく、ラーも特に気にした様子は見せず、それを見習ってかイザナミも陽も談笑を楽しんでいる。


「シャナはもっとガツンと言ってやらなくちゃ駄目よ!いくら好きだからって、遠慮しなくていいところまで遠慮するなんて、日本人はちょっと控えめすぎだわ」

「大丈夫ですよ、セシャトさん。私もそんなにたくさんは食べられませんから…」

「だーめ!じきに元気な赤ちゃん産んでもらわなくちゃならないんだから。わたしに可愛い姪っ子の顔を見せてもらうためにも、今からスタミナ付けて!」


どさっと、大量の肉料理が早苗の目の前に置かれた。







【 04:犬も歩けば鬼コトメ 】







早苗は目の前に置かれた肉の山を見て絶望しており、トトとセシャトは相も変わらず早苗に関することで言い争いをしている。言い合っているというよりも、セシャトが一方的にトトを叱り、トトは面倒そうな顔でそれを聞き流しているという方が正しいかもしれない。
陽はその様子を見てはぁと溜息をついた。
陽から見て早苗は、とても優秀な補佐官であると同時に、箱庭で弟達を変えてくれた恩人でもある。そしてなによりも女性としてもとても魅力的だと気づいたのは、つい最近のことだ。陽が早苗と出会った頃にはすでに早苗はトトと恋人ではないものの思い合っており、陽が入り込むなんてことは全くもって考えられなかった。


「だーから!どうしてシャナにもっと優しくしてあげないのよ!兄さんの足のことだって、何も文句言わずに一緒にいてくれるなんて、そこらのミーハーな女子じゃ同じ土俵にも立てないくらいよく出来た子なんだから!」

「セシャトさん…そろそろ落ち着いて……」

「無理!だいたいシャナもシャナよ。文句の1つくらい言ってやらなくちゃ兄さんは分からないわ!」


陽はセシャトの言葉にふと顔をあげた。「足のこと」とは一体なんだろうか?早苗からは恋愛相談の類は全くうけたことはなく、良くも悪くも上司部下の関係を保っている。
特に陽とトトが只ならぬ関係であると察しているのか、トトに関する情報は早苗から伝えられることは一切無い。このエジプトへの5カ国会議へやってきてからは、セシャトについて少し聞いた程度だ。


「足、というのは何じゃ?トトは足が悪いのかぇ?」


イザナミの発言に、陽は内心で悲鳴をあげた。つっこんで聞くべきではないと分かってはいたが、ラーとの会話を楽しんでいる様子であったイザナミが発言するとは全く予想していなかった。
その質問で気づいたのか、セシャトははっと驚いた顔を一瞬見せてからいつもの気の強そうな笑顔に戻った。


「いいえ、少し事情があるだけですわイザナミ様」

「セシャト、隠すことでも無いだろう」

「兄さん…言ってもいいの?」


苦い顔をしてセシャトの文句を聞き流していたトトは、手にしていた酒の入ったコップを置くと、イザナミの方へ向き直った。住まう国が違うからと席順に上座も下座も関係はなく、トトとイザナミは丁度対角線上に居たため、自然と全員が聞くような姿勢になった。
ただトトの正面に居た早苗はすでに知っているようで、寂しそうな顔をして微笑んだ。


「私は生まれつき足が完全に自由というわけではない。生活で不自由することはないが、過度の運動は避けたいところだ」

「なんじゃ、早苗はそのような些細なことを気にするのか?」


イザナミは妖艶な視線を早苗へ向けた。


「まさか。イザナミ様もご存知でしょう?私はそのことを知っていてトト様をお慕いしているのです。私達人間のなかにも、トト様が自ら生まれたことで足を患ってらっしゃるという話は伝えられていました。」

「妾も聞いたことがあるのぅ、岩の中から誰の手も借りずに自ら生まれでた神であると」


なるほど、と陽は内心で手のひらに拳をぽんと押し当てた。
そういえばそんな話をイザナギもしていた気がする。早苗が嫁いでしまう、嫁ぎ先の男はエジプト神話の男神で岩から生まれたらしい。そんなどこの馬の骨とも知れぬ男に早苗を取られるとは…!!と、人間の父親のように泣きながら酒を煽っていた。
どうもイザナギは高天原に住んでいるくせに、人間のドラマというものに惚れ込んでいていけない。


「トト様はお強い方ですから、私がその分支えていなくては」


強すぎると折れやすいですから、と照れながらも微笑んだ早苗に、トトが少しだけ驚いたような嬉しそうな表情を見せた。本当に自分の部下は可愛らしい。しかしこんな男に譲らねばならぬなど、誰が納得出来ようものか。


「強いだけでは折れる、か。トトのくせに生意気だ」


トトの好物らしいモロコシを使った料理を大量に奪ってやれば、トトが小さく息を呑んだ。


「アマテラス…貴様は私に喧嘩でも売りたいのか?」

「足りなければ追加で持ってこさせれば良いのであろう?私がこれを食べたいだけだ。」

「随分下手な演技だ。私への幼稚な嫌がらせを隠すつもりもないようだな」


同じ料理を更に取り皿へ移そうと取り分け用の匙に手を伸ばせば、取られまいと思ったらしいトトと手が重なる。何故こんな男に手を握られねばならぬのか!陽は内心で盛大な舌打ちをした。


「黙れ、トト。うちの可愛い早苗を連れて行くんだ、ちょっとくらい不幸にならなくちゃ釣り合いが取れないだろう?」

「貴様こそ弟へ冷たくした分、不幸になるべきだと思うがな」


スプーンの上でぷるぷると料理を奪い合う二人を見て、セシャトが盛大なため息を零した。


「シャナ、やっぱり兄さんもアマテラス様もやめて別の男探しましょ」











【 熱砂の大地へ 04 】








2014/09/03 今昔
トト様は岩の中から自力で生まれたとされていて、その誕生の際に足を悪くした。という説があります。
ゲームの恋愛ENDで能力発動したままヒロインを消してしまったのは、神の姿に戻ったことで足が完全な自由ではなくなり、駆け寄ることも光から出してあげることも出来なかった。とか、そういうことなのかなーと僕は邪推しています。




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