お名前変換




ここに1つの林檎があったとしよう。

この林檎はどこで育てられたのか、清潔なのか、甘いのか酸っぱいのか分からない。ここにあるのは自分の体1つと林檎が1つ。ナイフなんかの刃物の類は持っていない。さぁその場合、どんな行動をするだろう?

林檎は放置する?

素手でどうにか割って食べる?

遠くへ投げてみようか?

それとも、歯をたてて瑞々しい果実を味わうだろうか?






【 自殺願望 04 】






月人は目の前にあった真っ赤な林檎に牙を立てる判断をした。空き教室で一人泣いていた早苗に声をかけても無反応で、過呼吸を起こしていた彼女にこれ以上息を吸わせないためと。心のなかで言い訳をして唇を貪った。
くちゅくちゅと唾液が混ざり合う音が大きくなるにつれ、早苗の呼吸は落ち着きぎゅっと月人の制服を握りしめていた手は少しずつ力が抜けていった。名残惜しいと感じるが、口実がなくなってしまったので唇を離し、最後に糸を引かぬよう早苗の唇をぺろっと舐めて終わりにした。


「月人さん…なんで……」

「泣いて呼吸を乱している君を放っては置けませんでした。」


そう言えば、早苗は小さな声でありがとうございますとだけ言うと、ふらふらと立ち上がった。またトトの元へと戻ってしまうのだろうかと不安になり、月人は思わず歩き去るその手を掴んでしまった。
何がしたいのか自分でもよく分からない。そもそも、早苗がトトを慕っていてトトも彼女をとても気にかけて−−−−惚れていることは傍から見て分かっていることだ。月人にはバルドルのように無理やりに奪う気はサラサラないし、ロキのように傍観して引っ掻き回そうとたくらむ気持ちもない。
ただただ、彼女が幸せであってほしいと願うだけだ。そのために邪魔になりうるのならバルドルでも自分自身でも排除しようと思っている、はずだった。


「月人さん?」


泣き終えたばかりの顔でこちらを見上げる人間の少女に、月人はどうしようもない昂ぶりを感じた。それが女性に対する情欲なのか、妹や娘に対するような保護欲なのかは分からない。


「……戻るのですか、トト・カドゥケウスの元に」

「はい、私はトト様のものですから。」


迷うこと無く返された言葉は五月雨のようだ。
切なく侘しい気持ちになるのに、どこか情緒的で感傷に浸らせる力がある。己の発言が月人にどんな影響を与えたのかさっぱり分かっていないらしい早苗は、離してもらえない手を不思議そうに見つめている。


「矢坂早苗、君は幸せですか?」

「はい、もちろんです。私は死にたかった。けれどトト様のものになることで新しい私になれる。けれど謎ですね、他の男性に触れられるのは吐き気がするはずなのに、月人さんは嫌な感じがしません」

「…俺は、困ったことがあれば何でも相談にのりたいと思っています。俺に出来ることがあれば、なんなりと言ってください」

「ありがとうございます」


早苗はふわっと微笑むと、緩んでいた月人の手を振り払って図書室の方へと走り去っていった。

結局、彼女がなんで泣いていたのか分からない。あの混乱っぷりでは、早苗は月人とキスをしたことすら覚えていないのかもしれない。
それでも、今少しだけでも彼女の役に立てたのならそれで嬉しい。月人は無理にそうなっとくして自分の寮へと戻ることにした。





 ◇ ◇ ◇





早苗は図書室に駆け込むなり、読書中だったトトに抱きついた。バルドルの匂いなんて分かるはずもないものが自分の体を包んでいるような気がして、それを掻き消すために抱きついた。
トトもいつもの精神不安定だと思っているのか、邪険にすることはせずに本に栞を挟むと早苗の背中にぎゅっと腕を回してくれた。


「トト様…」

「何があったのか簡潔に説明してみろ」

「その、バルドルさんに絡まれて…」


放課後、結衣と共に少しだけお喋りをしているうちにトトはゼウスに呼ばれて行ってしまい、その隙を狙ってなのかバルドルに話しかけられた。結衣が庇おうとしてくれたものの頬にキスをされてしまい、気持ち悪さから脱走した。
過呼吸で苦しんでいるところを月人に助けられたが、バルドルに与えられた倦怠感が限界にきて逃げ出してきた。と、起こったことを簡単に説明した。
するとトトは深くため息をつくと早苗に浅くキスをし、それから横向きに膝の上に乗せて抱きしめる。


「自傷癖がなくなったのは良いことだが、私の側を離れて行動することは制限したほうがよかったようだな」

「もう離れません。明日から四六時中おそばに居ます」

「あぁ、それがいい」


タイが外されて、首元にキスをされる。噛み付くようにして歯型を付けられ、吸い付いて内出血をつくられ、トトの所有物である証が体に増える度に下半身がうずく。早苗はトトの首後ろに腕を回し、もっと跡をつけてくれと強請った。
自分で刃物を持ちださなくなったのは、自傷したくなる前にこうしてトトが小さな傷をたくさん付けてくれるからなのだと、早苗は薄々感じていた。こうしてトトが構ってくれる、愛してくれる証が増える度に心が落ち着くのだ。
胸の頂を吸い上げられて我慢できずに高い声をあげれば、図書室の机に押し倒され、スカートがまくり挙げられる。


「随分と調教してしまったようだな」


全身どこでも、しっかり開発さえすれば快楽を覚えるようになる。その証拠に、トトに執拗に攻められていた乳首は、吸われ舐められするだけで簡単に蜜を零す敏感すぎる場所になっていた。
外気のせいでひんやりする股間が、早くトトに触れてほしいとひくついているのが自分でもよく分かった。


「さぁ、愛してやろう。せいぜい良い声で啼くのだな」







END




2014/08/22 今昔
報われない月人さん。ヒロインの自殺願望がなくなるまでシリーズが続けばいいな…。むしとヤンデレなトト様に愛されたいという気持ちがすでに自殺願望な気も…。




_