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「愛する人が目の前で傷つくのは嫌だ。」とか「泣くのはオレの前だけにしろ」だとか。本当にくだらないと早苗は思っている。所詮それらは大切な人を守れなかった己が傷つくのが嫌なだけだし、泣き顔を見られたくないという気持ちを理解していない証拠だと思う。
もちろん、泣き顔を見せられること、守ってほしいと思うことは大事かもしれない。けれどそんな軽い関係に満足してしまった時点で、その人間たちはオシマイだ。



【 自殺願望 03 】



早苗はカッターを右手に持って、右太腿に突き立てた。痛みがはしる。当然ながら血が流れ出し、赤いとも黒いとも言える色の液体が太腿を伝って床へと落ちていく。寮の自室が汚れようと全く構わない。
流れ出る血の色はエジプトで忌み嫌われる色だ。ただ、トトの守護色でもある。そのことを考えるだけで感情が高ぶった。自分が彼の色に染まっていくような気がする。染まるために、切る、えぐる。


「トト様…」


トトが助けてくれるのは決まって早苗が傷ついていたり困っていたりする時で、きっと彼が気にかけてくれているのはこうして狂っている早苗なのだ。普通の早苗に興味は無いのかもしれない。
血も体も心も全てトトのものだというのに。トトが気にかけてくれるのは心が不健康な時の早苗だ。どんな状態であってもトトのものであることに変わりはないのに、どうして普段の自分を相手にしてくれないのか。


「トト、様……来てくださ、い」


こうして血を流していれば。失血で気を失って早苗が明日学校へ行かなければ、様子を見に来てくれるだろうか。

こんなことをしたらトトに愛想を尽かされてしまうかもしれない。けれど、全身に刃物を突き立てていなければ、心を正常に保つことなどできなかった。


「殺してください…」


傷だらけになった右足を放置して、今度は左足にカッターを走らせる。このままお風呂に両足をつけておけば、朝には失血死できるだろうか?
あなたの側に居られないのなら、今度こそ私に存在価値はない。そう思い、一際大きく振り上げたカッターが、何かに遮られた。


「何をしている」


だいすきな、低い声。
のろのろと顔をあげると、無表情に近い中に怒りを浮かべたトトが居た。


「川の時の傷が癒えていないのに何をしている。」

「トト様…来てくれた。トト様…!」


カッターを取り上げられたのを良いことに、ぎゅっと抱きつく。とても暖かかった。トトが拒否しないのを良いことに、しばし抱きついたままで居る。図書室の本とトト本人の匂いを堪能する。
そう、今ここで自分を抱きしめてくれているのがトトなのだと、実感するために抱きしめて匂いを感触を堪能する。


「世話を焼かせるな。ともかく座れ」


トトはそう言って早苗を抱き上げると椅子に座らせ、救急箱を取り出すとテキパキと手当を始める。医学の神らしく、その処置は的確だ。両足に包帯を巻いた状態で、お礼を言いながらまたトトに抱きつく。
彼は呆れたようなため息をつくと、早苗の膝裏に腕を入れて抱き上げるとベッドに落とした。あうっと変な声が出るが、それでも構ってもらえることがとても嬉しくて、早苗の顔から笑顔が消えることはない。


「私の気を引きたいのなら、もっと別のことを考えろ」

「…でも、トト様が一番一緒に居てくれるのは、こういう時だけです」

「黙れ。好いた女が自傷行為をしているのを見て、冷静でいられるわけがないだろう。」

「つまり、私が自分を傷つけたら、飛んできてくれるということですか?」

「貴様の脳みそは空なのか?」

「じゃぁ逆に、私がトト様のおそばに居ても遠ざけたりしませんか?」


そう聞くと、トトは早苗に跨がる形でベッドに膝をついた。そして軽い音をたててキスをすると、服を脱がせていきながら、首筋、胸元、胸の谷間に頂、腹とキスの場所を下げていく。最後にスカートと下着も脱がせられ、足の付根にキスをされた。


「遠ざける?馬鹿を言え。貴様に死なれでもしたら、私は禁忌をも犯しかねん。」

「…っ、嬉しい…」

「拒否はしてくれるなよ、早苗」


優しく呼ばれた名前と共に、トトの指が秘部へと這った。

そうだ。こうやって心にも体にも、もう後戻りの出来ない烙印を押してくれればいい。そうすれば今度こそ、あなたは私を手放さない。








【 自殺願望 03 】






2014/07/02 今昔
過保護トト様とメンヘラヒロインちゃんシリーズでした。
続きはネタが出てきたら書かせていただきます。




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