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※ ヒロインちゃんがヤンデレ
※ トト様が鬼畜と独占欲の塊
※ バルドルが病んでて報われない





「ねえ早苗さん。早苗さんは、わたしのことは嫌いかな?」

「嫌いじゃありませんが、どうされました?」


昼休みの教室で、早苗は読みふけっていた日本神話の解説書から顔をあげることなく、頭上から降ってきたバルドルの声に答えた。
バルドルは光の神。性格も朗らかで明るいが、その明るさが早苗は得意ではない。何より彼に早苗や結衣が近づくとロキが怖い顔をする。うちの息子に悪い虫が着く!とでも言いたげな様子に、近頃は自分から接点を持たないようにしていたほどだ。

ところがどうしたことか、その当たり障りない程度に避けていたのがバレたのかバルドルはちょくちょく話しかけてくる。今までは様子を伺うような控えめな話題だけだったのに、今日はとても積極的なようだ。


「それなら、わたしのことが好き?」

「えぇ、とても素敵なクラスメイトだと思いますよ」

「いや……その、そうではなくて…」


クラスメイトとして以外にどんな「好き」という感情を持っていてほしいのだろう。以前の早苗であれば「殺してくれ」という形での愛情表現は出来たかもしれないが、今は体も全てトトのものである。他の人には生かすことも殺すこともさせない。
早苗がさっと身を引こうとするのを見計らってか、バルドルの手が肩に乗ってくる。見かけによらずギュッと強く捕まれ、骨がきしみそうだ。そのまま顔を寄せられて、唇同士が軽く触れ合った。


「こういう意味で、わたしのことは好きになっては…くれないかな?」


早苗は勢い良くバルドルを突き飛ばすと、残り少ない昼休みのことは気にせずに教室を飛び出した。






【自殺願望02】






トトが午後の授業のために教室へ向かうと、いつもならノートと教科書を準備して陰鬱な顔で座っているはずの早苗が居なかった。この教室の配置は厄介なことにバルドルが早苗の隣の席だ。その席は早苗が以前ポツリと気持ち悪いと呟いた席であり、他人との関わりが苦手な彼女にとってあの隣人は苦痛でしか無いだろう。
肝心の天然隣人はいつも以上にニコニコと微笑んで、教壇へあがったトトを意味深に見つめてくる。


「…草薙、矢坂はどうした」

「はい……それが、その」


あえて結衣に問いかければ、困ったような顔でバルドルを見やる。避けたというのに結局はあの天然に聞かなくてはならないらしい。


「おい天然、貴様何をした?」

「怖いなぁカドゥケウス先生。わたしはただ、好きな女性と両思いになるべく、思いを告げたまでだよ」

「てめぇ、相手の許可なくせ…っ…接吻すんのが思いを告げた"だけ"ってなんだよ!!あいつ嫌がってただろうが!!」


尊が立ち上がり、椅子が盛大な音を立てて倒れる。それでもバルドルはニコニコと、否、挑戦的なほほ笑みでトトを見ているだけだ。様子を見るに、尊も早苗のことは並々ならぬ思いを持って気にかけていたらしい、目尻に涙が溜まっている。
トトは1つ大きくため息をつくと、教壇をおりた。


「あの、トト様?」

「自習していろ。…天然、貴様は首を洗って待っていろ」

「酷いなぁ…取られたくないのなら、首輪でもつけておけば良いのに」


すっと据わった目が細まった。トトはバルドルをひと睨みすると教室を出て、早苗が居そうな場所を探して駈け出した。

保健室も、寮の自室も居ない。空き教室も覗いてみる限り居ない。残るはと考えて、学校の外を流れる川辺へと向かった。
案の定、少し湿った土に足あとが残っており、転びそうになったのか擦ったような後が各所にある。トトは歩みを早めると、川辺に広がる広場へと足を向けた。

広場につくと、まず鉄の匂いが鼻をついた。川の水が赤い。明らかに血だ。頭が痛い。トトは上流に少し向かったところで、早苗がうつ伏せに倒れているのを見て、今度は顔色を青くして駆け寄った。


「早苗!」


うつ伏せになった彼女の左腕は川に浸かっており、そこから止まることなく血が流れている。それなりに深い傷があるらしく、水に拡散されているからという以上に出血量は多く見える。腕だけでなく足や頬にも切り傷があり、彼女の側には果物ナイフやカッターが数本転がっていた。
トトは早苗を抱き上げると腕に彼女のハンカチを巻きつけ、頬や足の傷は自分の袖口で軽く拭った。青い顔をしている早苗をぎゅっと抱きしめると、まだ生きていることに安堵する。いくら体が完璧に残っていれば復活出来るとしても、神がたった一人の人間にそれを行えば禁忌に触れる。
出血と川の水で冷えた体に上着を掛けてやり、トトはあぐらをかいて座った自分の足の上に早苗を座らせた。授業を放り出してきてしまったが、そんなことよりもこちらが大切だ。


「早苗、目を開けろ。」


軽く揺すると唇が何か告げようと動いたが、瞼は震えるだけで開かない。口元に耳を寄せると、どうにか彼女の言葉が聞き取れた。


「ごめ、ん…なさい」

「…何を謝る必要があった」


思い当たるのは、先ほど教室で尊が言っていた「相手の同意なしにキスをした」という話だ。昼休みの教室で、バルドルが早苗に告白すると同時にキスをした。結衣が気まずそうにしていたのは、恐らくそういうことなのだろう。
改めてそう考えると妙にむしゃくしゃとやりきれない思いが募り、トトは眠ったままの早苗に口付けた。冷たい。自分の熱を分け与えるように下唇を吸い、丹念に舐めていく。舌先を軽く吸い上げてやると、甘い吐息とともに早苗が目を開いた。


「トト様…」

「目が覚めたか」

「っ!!……すみません、私、もうトト様に触れていただく資格がっ!」


青ざめていた顔を更に青くして、早苗はびくりと体を震わせた。逃げようともがく彼女をぎゅっと抱きしめて、耳元で落ち着けと言葉を落とす。


「駄目です!私…っ、バルドルさんに触れることを許してしまいましたッ!!他の男に触れられた私なんて、トト様のものでいる資格がない!!自分で気持ち悪いんです、あんな奴に触られたことが!!嫌なんです!気持ち悪い!!死んでしまいたい!!」

「落ち着け!その程度で汚れる程、貴様の心は安いのか?私以外のものが体に触れたとて、心まで惑わされてどうする!…私のものであるという自覚があるのなら気高くあれ」

「ごめんなさいっ……ごめんなさい!」


暴れる早苗の足を片足で押さえつけ、両腕でしっかり抱きしめて頭を固定すると、それ以上喋らせるまいと唇を塞ぐ。ゆっくりと甘く歯列をなぞり蹂躙していくと、暴れていたはずの彼女の体から途端に力が抜ける。
そのまま離れるのも名残惜しくてより深く口付けていくと、早苗の手もまたトトの背中に回された。口だけでなく、頬の傷を端だけ少し舐めてやると途端に両肩が跳ねる。痛みであがった小さな声に、加虐心が刺激された。


「貴様は私のものだ。他人に触れさせることは許せぬ。だが、私以外に心を乱すことはもってのほかだ。良いな、早苗?」

「はい、心得ました、トト様。…ぅあっ」


太腿の傷に触れると、再び声があがる。情事のそれとはまた違う色の悲鳴に、トトは彼女への加虐心と執着心が抑えられなくなっていくのを感じた。それと同時、これ以上傷に触れてはいけない。ここで勢いで抱いてはいけない。と理性が完全に制御していく。
この歯止めさえ無ければ、心にも体にも消えない跡を残せる。そうすれば彼女もこうして他の男に心を揺らされることも無いだろうに。働き過ぎの理性に最後の抵抗と、トトは早苗の首筋に食らいついた。


「あっ…ゃ、トトさま……なにを……やっん!」


吸い付いて薄い跡を残し、歯を使って内出血の跡を付け、軽く噛み付いて噛み跡も刻みこむ。制服に隠れない位置にも残しながら、痛みと快楽に喘ぐ早苗を強く抱きしめた。


「身も心も全て私に捧げたと思うのなら、他の男に惑わされるな。良いな?」











【 自殺願望 02 】







バルドルは自習になってしまった午後の授業中、ずっと早苗の空いた席を見ていた。そこに座るべき彼女は、バルドルを見てもまるで変わらない。地獄の底から出てきたように暗い光を灯した目でこちらを見るだけだ。
それがたまらなく愛おしいと思った。光に引き寄せられない強い闇。彼女の側に居ることは自分のためになるはずなのだ。それなのに、彼女が選んだのは…


「バルドル・フリングホルニ。何を…しているのですか」

「え?どうしたんだい、戸塚さん。わたしが何かしたかな?」

「……そのような目で…危うい目で矢坂早苗の席を見ていたようだったので。」

「まさか…あなたもわたしの邪魔をするの?」

「君が矢坂早苗に恋い焦がれているのなら。俺は彼女を縛り閉じ込め薬や道具を使ってでも、他人の手から守ります」


静かに睨み合う二人をハデスが後ろから見つめていることに、この時の二人はまだ気づいてはいなかった。











FIN









2014/06/26 今昔
まて、続かせるつもりは特に無かった!まだトトVS月人、トトVSハデスとか書けそうな気がしてきました。僕の手にかかると神々が皆病んでいくっす。




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