ヨナガは残りのチャクラを振り絞って、浮かせた球体の水を人間の涙に近い成分へと変える。眼球を取り除いて持っている間に入れておけるものを考えると、必然的に涙になったのだ。

上手く移植できたカカシの左目は消えることの無い写輪眼になった。発動したままの写輪眼を無理やりうちは以外の肉体へ埋め込んだからだろう。これは里へ帰ったらだれか上忍に報告しなくては。
はじめてとは思えぬリンの手際の良さに、ヨナガは感謝しながら、チャクラを使いすぎたせいで意識を飛ばした。




意識を失ったヨナガを抱いて大きな木の枝へ乗り移ると、カカシは千鳥の印を組んだ。まだ近くに敵が居る。オビトを失って、これ以上リンやヨナガまでも傷つけさせるわけには行かない。
ヨナガがほとんどすべての情報収集という名の拷問を引き受けていたらしく、幸いにもリンは自力で動ける状態だ。


「ほうほう…こんな状況でまだ戦う意志をmしえるとは…敵地後方までコソコソ潜り込んでくるだけはあるな…気が強い」

「リン…こいつらはオレが足止めする…その隙にヨナガ連れて逃げろ…」

「でも…」


ヨナガを運べない、ということではないだろう。きっとリンは自分の身を案じている。なぜなら、オビトがリンを思っていたようにリンもカカシを思っているから。
いつからか気づいてしまった自分への好意がこんなにも申し訳ないと感じる日がくるだなんて、思ってもいなかった。


「オレはオビトにお前を頼まれたんだ。だからお前は死んでも守る」

「カカシ…!」

「リン……オビトは思えのことが好きだったんだ…大好きだった…大切だった…だから命がけで守ろうとしたんだ」

「なら!!カカシ…私の気持ちだって…」


好きだから、命がけで守りたいと言うのだろう。嬉しい反面、それではどうにかリンを守ろうとしたヨナガの気持ちまでも踏みにじってしまうように感じる。


「オレは…!オレは一度…お前とヨナガを見捨てようとしたクズだ…」


背後でリンが戸惑うのを気配で感じる。リンに行け!と強く言って千鳥を纏い敵へ突っ込む。オビトは死んでも、リンを守った。だからオレも、心でもリンとヨナガを守り抜く。





ヨナガが目覚めた時視界に入ったのは、満点の星空だった。
痛くて動かしづらい体の中で、どうにか首で左右を確認すると、隣にカカシとミナトが座っている。どうやら助かったらしい。…オビト以外の三人は。


「気づいたか」


にょきっと視界に入ってきたネギマに、ヨナガは力なく眉尻を下げた。


「うん…助かっちゃった…」

「良いことだ。……オビトのことはリンちゃんが全部教えてくれたよ」


ネギマに助けられながら起き上がるとミナトと目があった。カカシとも目線を合わえようとしたが、ふいっとそらされてしまう。そのかわりに指先をぎゅっと握られた。


「ヨナガもよく頑張ったね。リンがヨナガが居なかったら自分が乱暴されていたはずだって…医療忍術の手助けもしたと。聞いている。」

「敵は…カカシが?」

「カカシのことを信頼してるんだね。…ほら、カカシ、心配要らないだろ?」


促されたカカシが、ぎゅっとヨナガの手を握り直した。言いにくいことでもあるのか。もごもごと口布の下で唇が動いているのが分かる。
しばらくして、決心がついたらしいカカシから、思ってもみなかった言葉が転がってきた。


「見捨てようとして、ごめん」

「え?」


ヨナガからすれば、リンのカバーをして一緒に連れ去られ、その先でもヨナガが上手くやるだろうという信頼の証だとばかり思っていた。ましてサクモさんのエピソードを知っている以上、カカシには任務を遂行してもらって構わないとすら思っていたのだ。


「大丈夫…むしろ、私が切り抜けて生きてるって信じてくれてありがとう。私たちがここに居るのはカカシのおかげだよ」

「……でも」

「でも、じゃない。」


辛そうなカカシの頬へ手を伸ばした。きっとサクモさんのことがトラウマのようになっているカカシにとって、仲間を助けに戻ろうという決断はとんでもなく重たいものだったはずだ。
オビトの説得があっただろうとはいえ、それでも助けてくれた事実に変わりはない。


「カカシが私を信じて任務を遂行してたとしても、今回みたいに助けに来てくれてたとしても、私は嬉しい。カカシが隊の皆のことを考えて出した決断なら、私は喜んで受け入れるよ」

「ヨナガ…」


優しく頬を撫でると、カカシが心地よさそうに目をつむったので、ヨナガはしばらくなで続けた。閉じている左目はきっと、写輪眼の能力を使いすぎないようにしているのだろう。里へ戻ったら眼帯をプレゼントしても良いかもしれない。
カカシのことだから、きっと使ってくれるだろう。逆に面倒がって額当てを代わりにつかうようになるかもしれない。けれどどっちだって良いのだ。カカシも、リンも、ネギマも、ウマイも、無事で居る。

穏やかな空気の中、ごほんとわざとらしい咳払いに、ヨナガとカカシははっと目を開いた。


「え〜そんなわけで、僕らは明け方と共に橋へ向かうよ」

「うん、それが任務だったから」

「カカシ、僕らクシナ班はいついかなる時もヨナガの味方だ。だから、君が隊長のときに泣かせたら承知しない」

「…はい」


ネギマの気迫に押されるよに頷いたカカシに、にっこり笑ってからヨナガを寝かせると、ネギマは岩を滑り降りていって寝転がったようだった。


よく朝、ヨナガは生き残った六人で橋を破壊することに成功した。ウマイの進言で帰りがてらもう一箇所橋を壊し、無事に六人で里へたどり着くことができた。
後にこの戦いは「神無毘橋の戦い」と言われるようになり、殉職したオビト、そして写輪眼を受け取ったカカシ。更に言えば、医療忍術の新しい可能性を提示したとしてヨナガの名前も共に囁かれるようになる。






2019/05/28 今昔




_