二次試験の内容はサバイバルだった。
各班に2つずつ巻物が配られる。巻物は全部で三種類あり、ランダムに配布される。同じものが2つで開始する班もあるだろう。三人がそれぞれ違う種類の巻物を手にした状態でゴール地点へたどり着くことが合格条件。
互いの班の情報をいかに知り、そして上手に奪うかが難問の課題だった。しかも会場は四十四訓練場という、なんともまあ不吉な数字の訓練場である。


しかしその内容を聞いた瞬間に、ネギマがピクリと反応してくれてヨナガはほっとした。きっと考えていることは同じ。

幻術使いがいるクシナ班はかなり有利。
ネギマもそう考えたようで、三人はゴール付近に罠をしかけることにした。ゴールしようとしているチームが相手ならば、巻物の種類を気にしなくてすむからだ。
結局ゴールよりすこし離れた場所に待機することにし、食物や水源の確認だけを済ませると三人は息を潜めた。


「(来たぞ)」


半日ほどしてヨナガがじれったくて叫びたくなった頃、見張りをしていたウマイの合図が入った。ネギマは幻術をかけるべく、高い木の上に待機しているのが見える。
ウマイが相手チームの上空から、木の幹を叩いて葉を振らせた。そこへヨナガがすかさず印を組む。


「火遁、唐紅の舞」


舞い散る葉すべてが燃え上がり、うろたえる敵チームに剣を振るう。そして混乱を起こしたと思った瞬間に離脱すれば、上空からネギマが相手に幻術を決める。


「ウマイ!一人かけそこねた!」

「任せろ!」


同世代にしては鍛え上げられたウマイの拳が、幻術を逃れた一人の脇腹にヒットした。


「ネギマ、このままやっちまえ」

「オッケー!巻物開いたらどうなるのか、気になるからね」


幻術にかけた相手に、自分たちが持っているのと同じ巻物だけを開かせた。
すると、


ぼふん


音と煙と共に、何かが口寄せされたようで、晴れていく煙の中から美しいシルエットが現れる。つんと伸びる金髪に、上忍の忍服。クナイを片手にしたその姿に、三人はあっと声をあげてしまった。


「「「ミナト班長!」」」

「やあ、巻物を開いたのは君たち…じゃないのか。ならセーフかな。素晴らしい情報収集能力ということにしておこう」


口寄せされたミナトに、いたずらがバレたような顔をするウマイ。間接的に幻術を褒められたネギマは微笑み、ヨナガはその隙に相手チームから必要な巻物をちょうだいした。


「極秘書類に目を通すのはご法度だけど、相手の持っている情報をうまく引き出す…ということで、これはセーフになるんじゃないかな」

「もしかしてミナト班長、私たち下忍が巻物を開いたら…」

「そう、試験終了まで伸びていてもらう予定だったんだ」


きっと生徒でも容赦しないであろう黄色い閃光に、クシナ班の三人はゾっと背筋を震わせる。


「さて、早くゴールしてしまった方が良い。クシナが待ってるよ」


言われた通りにすぐさまゴール地点へ向かった三人を出迎えたのは、喜びのあまり口癖がぽろぽろといつも以上に溢れるクシナだった。
担当上忍に褒められ、喜ばせることができた三人は誇らしいような照れくさいような気持ちで微笑んだ。





二次試験を通り抜けた4チーム12人は、約三週間後に行われる最終試験へと駒をすすめた。他里の長や大名などの著名人が見に来る場所で、一対一の勝負が行われるそうで、ヨナガはとても緊張していた。
今までのクシナ班は連携を密にすることでどんな状況にも対応できるようにと訓練してきた。それは担当上忍であるクシナの意志であり、火影様の思うところでもあった。それなのにここから先は単独での戦闘能力が問われる。

訓練期間の間に他の里の最終試験見学者たちがやってきて、木の葉の町の中も、癸の町の中もいつもとは違った賑わいを見せていた。

最終試験の日、ヨナガは誰よりも早く下忍の控室へとやってきていた。
まだ小鳥が鳴き始める時間について、家から持ち出してきたパンを少しかじる。お茶を飲んで、胃薬を飲んで、準備は万端だ。

こんこん


びくぅっ!
両肩がはねてしまったけれど、辛うじて椅子からは浮かずに済んだ。

ガチャリとドアノブが回って入ってきたのはカカシだった。同じチャクラが自分の体内にもあるせいか、ヨナガにはカカシの居場所が少しだけ読みづらい。


「おはよう」

「おはよう、カカシ」

「緊張してるんじゃないかと思って、会いに来たよ」

「ありがとう。ご明答、緊張してます」

「…一人で戦うから?」

「そうだね」

「だいじょーぶ。ヨナガは負けないよ」


対戦表はこのあと発表されるので、下手をすればネギマやウマイと初回から当たる可能性だってある。そのことはカカシも知っているはずなのに、どうしてそこまで言い切れるのだろう。


「今までオレと一緒の任務ではあまり使ってなかったけど、ヨナガは水遁も使えるんでしょ?」

「うん。でもまだうまく水を発生させられないから、今日は地形にあわせて土遁かなにかで行こうかと思ってるの」

「…オレのチャクラ、自分では使えないの?そうしたら、雷遁も使いやすいでしょーよ」

「ああ、なるほど」


盲点であった。
自分の中に溜まっていく一方で、カカシのチャクラを使おうだなんて思っていなかった。

試しに癸の脇差を引き抜いてそこにカカシの方のチャクラを流そうとしてみる。パチパチと小さく電流が流れたが、安定しない。それに体内に溜まっている量を考えたらこれっぽっちでは済まないはずだ。


「聞きかじって真似てみたけど難しいね」

「取得難易度Aってところかな」

「今日は無理かもしれないけど、カカシのチャクラも借りられるように練習してみる。教えてくれてありがとう」


カカシはぽんとヨナガの頭を優しく叩くと、「じゃーね」と戻っていった。
無性に力が湧いてくるような感覚に、ヨナガはなんだかニンマリと頬があがってしまう。


最終試験へ出場する下忍9人が集合し、高い塀と客席に囲まれた試合場に並ぶ。


「すごいね、火影様も僕たちを見てるんだ。光栄だよね、中忍試験って」


ネギマの呟きはごもっともだった。
ちょうど右端に居たウマイから順にクジを引いて対戦相手を決めるらしい。二番目にクジを引きながら、ヨナガは対戦相手たちを見ていく。今回くノ一はヨナガしか居ないらしい。かといってお色気系の術が通じる相手も居ないだろう。ああいったものは、潜入やドッキリで生きるものだと思う。


「全員クジをひき終わりましたね?」


試験官に言われ番号を伝えていく。
下忍たちは誰しもが緊張しているようで、ソレ以上に張り切っているようだ。


「第二試合、もののワスレ、牛島ウマイ」


名前が呼ばれたネギマにウマイが拳を差し出した。ごつんと痛そうな音を立てて触れ合った二人の拳に、周囲の下忍が可愛そうにという目でネギマを見た。


「第三試合、鳥野ネギマ、癸ヨナガ」

「よろしくね、ヨナガ」

「お願いします。手加減はできないよ…って言わないの?」

「しないのは分かってるだろう?それにヨナガだってカカシが見てる場所で下手こきたくないだろうし。だからこそ僕は全力でヨナガを叩きのめすよ」


さらさらの髪の毛をなびかせて言うネギマに、ヨナガは気合を入れ直した。
お互いに手の内はほぼほぼ晒している。なんと言っても同じ班なのだから。ウマイの方は別ブロックになるため、当たるとしても決勝戦だ。





第一試合に出場する二人以外は客席や控室へと戻り、ついに中忍試験の最終試験がはじまった。





2019/05/27 今昔
加筆修正
分かりやすいようにトーナメント表を作ってみました。




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