桜・壱


「何の匂いだ?」









そう呟いたのは
新聞を読みながら足を組み
片手でメガネをクイッ…と上げながら三蔵は言った









「桜……ですね」








全開の窓の外から風で薄いレースのカーテンが室内へと揺れる




眩いばかりに天気が良い午後の日差し


惷香は三蔵の書類を纏めながら
窓の外を眺めた









「あの桜でしょう」








窓から3、4メートル程先に佇む1本の桜





風が吹く度に花びらが舞い
まるで雪の如く――








「見事だな」









三蔵はそう言いながらメガネを外し新聞を畳んでテーブルに置くと

立ち上がり窓辺へと赴く






窓枠に座り惷香をジッと見つめる









「何です?」









平静を装いながら三蔵に聞くも
心臓の音が離れている貴方にも聞かれてしまうかと不安になる…









「チッ―……」









三蔵はそう言うと顔を伏せた









「あの…?」









心配になり彼に近づく





肩に手が触れる瞬間
顔を上げた彼と目が合い
咄嗟に手を引いた









「〜〜〜ッ…!」









顔が赤くなるのが分かる


見透かす様な深い紫色の瞳は
私の目から視線を外さない






そして引いた手を細長い指が絡んだ









「逃げんな」









そう呟く三蔵に惷香は金縛りに合ったかの様に逃げられず
捕まった指が絡むと手を掴み
力一杯引き寄せられた







三蔵の胸に顔が勢い良くぶつかり
鼻がじんわりと熱を持ち
涙が滲む








「い………た」








空いていたもう1つの手で鼻をさすると 彼の細く
筋肉質な腕が惷香をフワリと包んだ







熱い吐息と共に甘く
低い声が耳元で囁く







「お前は絶対俺から離れない
違うか?」


「…
貴方って本当に狡い…
そう言われたら……」











【離れられない】










そう言うと三蔵は惷香の頬を手の平で包み
顔を上げた惷香に




熱く

優しい

口付けをする―――





それは桜だけが知る
2人の甘美な時間







桜・fin

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