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「さてさて、魔障の儀式も済んだことですし、荷物を移動してきたらどうです」

『うん、そうする。あー虫みたいなのが見える……』


理事長直々に魔障の儀式を受け、清らかな体だったはずのあたしは、一瞬にして悪魔がバリバリ見えるようになってしまった。
お嫁に行けん……


「だからもらってあげますって」

『結構ですー! 人の心を読むな!』

「声に出てます」


おっといけない。
少々わざとらしい咳払いを軽くして、ソファーから立ち上がろうとすると、目の前に立ったメフィストがそれを止めた。


「毬花は寂しがり屋ですから、一応隣にしましたが……気をつけるように」

『……?』


人差し指をピンと立てて念をおされる。あまりの脈絡のなさに、何のことを言ってるのかさっぱりだ。
よくわからないまま曖昧に頷いて部屋を出ようとすると、また呼び止められた。
首だけで振り向くと、悪戯にウインクされる。


「新しい部屋は旧男子寮の六○一号室ですから」


旧男子寮という単語を聞いて、ぐりんと今度は体ごと勢いよく振り返った。つかつかとメフィストの許へ戻る。


『旧男子寮!? 新しくもなんともないよね? むしろ旧いよね?』

「毬花が4人部屋を1人で使いたいって言ったんじゃないですか♪」


ニッコリと微笑まれて、ダメ元のつもりで言ってみた自分の発言を思い出す。
しっ、しまったぁぁぁ!
心の中で絶叫するも、時すでに遅し。後の祭りだ。


『あんなお化け屋敷みたいなとこに住めって言うの? しかも誰もいないし!』

「奥村くんがいますよ。それにもう1人来ますから☆」


頭を撫でられる。
まただ。なんで皆してそうなんだ。そんなにあたしは子供っぽいんだろうか。確かに身長はそんなにないけれど、自分では年相応だと思っていたのに。
そこまで悶々と考えて、ふとメフィストの言葉の最後の方に気がついた。
もう1人。そう言えば雪男もそんなことを言っていた気がする。訳ありだって……。
あぁいや、訳ありがどうした。そんなのはどうだっていい。訳があろうと何だろうと、その人の人柄がよくて、あわよくば友好的な関係を築ければそれでいい。
ていうか、そもそも寂しがりだから、なんてそれこそ子供扱いじゃないか。そう思って反抗的に唇を尖らせて虚勢をはった。


『いいし。別に寂しくなんかないから』

「あ、じゃあ本当に誰もいないとこに移ります?」

『ごめんなさい嘘です許して。寂しいと死にます』


けれどあっさりメフィストに負けてしまったあたしは、泣く泣く荷物をまとめるために部屋へと戻ったのだった。





『えーと六○一、六○一はっと……』


あれから、1時間もしないうちに部屋の荷物をまとめて旧男子寮にやってきた。
ちょいとそこらでパクってきた台車に大量の荷物を乗せて、ガラゴロと不安定な音をたてながら廊下を進む。
それにしても……


『部屋、どこだ……?』


六○一号室を探して、てくてくと歩くはいいが、そろそろ薄暗くなってきたし怖いし心細い。彩香たちはそれぞれ希望通りに人数が空いている部屋に移動していったし、雪男がいるとは言えここへはあたし1人で住むのだ。寂しくないわけが……
……あれ、雪男? そう言えばメフィストが寂しがり屋だから隣にしたって……
そこまで考えれば、必然的にある結論が浮かぶ。


『あれ、もしかして六○一って……雪男の部屋の隣?』


そう、確か雪男のは六○二。
ようは雪男の部屋に向かえばいい。端から探す必要などなかったわけだ。


『なんだ……。ちょっと損した』


なんでもっと早く思い出さなかったのかと自分に文句を言いながら方向転換してまた歩き出した。





まずは挨拶まわりから。



(雪男ー今日からよろしくー)
(毬花!? え、同室……?)
(いや、隣)
((なんだ隣か……))


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