×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -





あれは確か、3年になったら受験勉強で忙しくなるから2年のうちにやりたいことをやっておこうと言われたのがきっかけとして大きく影響していたのだと思う。大衆もありがちだと頷くような一般論で尚且つ説得力もあったその言葉は、中2真っ盛りの緩くとぼけた脳みそに教訓として驚くほど自然に刷り込まれていた。
その刷り込みをしたのは中学に上がってから仲良くなった友達で、彼女は漫画やグッズを買い漁ったりコスプレをしたりするのが趣味の、世間一般で言ういわゆるオタクというやつだった。ちなみに結局3年間クラスも同じだったこともありよくつるんでいたし、お互い別々の高校へ進学した今もちょくちょく連絡を取り合っている仲だ。
そんな彼女があたしのその後の運命を決めた。そう言っても過言ではないはず。メフィストとの出会いは、言ってしまえば彼女がいたからこそのものだったのだから。





「一生のお願い! ね、一緒に行こう?」

『また出た、一生のお願い。一昨日も聞いたよ』

「じゃあ今月のお願い!」

『いや、まぁ別にそれくらいいいんだけどさ』


中学2年の中頃、とある木曜日の日だった。イベントの時だけ行動を共にするコスプレ仲間が用事ができて行けなくなってしまったとのことで、急遽代役を頼まれた。
せっかくだから合わせをやろうと言われても初めてでどうしたらいいのかわからなかったり、なかなかに行き当たりばったりだったけれどとりあえず衣装は向こうの手持ちを貸してくれるというので引き受けることにした。……これが後に事の発端とも言える出来事となる。
そして翌日、“着ただけ”になってしまわないように事前に読み込んでおけと言われて早速貸してもらったのはハニハニシスターズという作品で、それは後々メフィストがその柄の浴衣まで持っているほど惚れ込んでいると知ることになるものだった。
つまり細かく言えば彼女とこの作品のせい、となるのだろう。

それから2週間ほど経った当日、クオリティの高い衣装を身に纏い、コスプレ慣れしている彼女によってばっちり化粧まで施された状態でイベントに参加した。しかしこれがまたなんとも言えない心境で、羞恥は拭えないが初体験に心踊り確実にテンションは上がっているという不鮮明な高揚を感じていた。通りすがりの人にはちょくちょく「写真いいですか?」なんて訊かれ、きっと撮影向けの笑顔なんて全く作れていなかったんだろうけれど、それでも表情にうまく表れないだけで内心はものすごく盛り上がっていた記憶がある。
そして、ここで出会ったのがメフィストだ。
無論例のごとく写真は撮られたのだがそれでは飽き足らなかったようで、イベントとはこんな恐ろしいこともあるのかと思うほど興奮気味に迫られたりした。それは、当時の何も知らない純粋なあたしにとっては軽くトラウマになりかけるような恐怖だった。その時はなんとか振り切ったつもりでいたけれど、今になってわかる。メフィストは十中八九後をつけてきていたと。これは憶測ではあるが同時にほとんど確信でもあった。何故なら、あの男は狙った獲物は逃がさないことを今のあたしはよく知っているのだから……。
まぁ何故そこまで初対面の小娘に執着心を抱いたのかはわからないが、メフィストいわく“ビビッときた”らしい。
そんな曖昧でアバウトな感覚をきっかけに、あたしの人生は少しずつ変わっていくことになる。人の運命とはひどくあっけないものだと思わせるような滑り出しとして、メフィストはまずイベント後日あたしの前に再び姿を現した。学校からの帰り道でのことだった。
そしてその日のうちにまんまと私の家に上がり込み、かの名門正十字学園の理事長という立派な肩書きを存分に披露してから両親にこんなことを言いやがった。


「娘さんをください」


若干、いや、だいぶおかしな切り出し方だったのだが、名門校の理事長がわざわざ自宅まで直々に娘をスカウトしに来たということに優越感を覚え喜び舞い上がった両親はなんの疑問も持たずに二つ返事であたしの受験を約束した。今思えば両親はメフィストの口車に乗せられていたのだろうけど、それでも、たまたまイベントで会って気に入ったあたしをただそばに置いておきたいという一心だけでそんなことまでしたメフィストの言葉にも惹かれた部分はあった。将来のことも全く考えておらず、高校はとりあえず家から一番近いところに通っておこうと思ってはいたがもちろん卒業後の進路までは漠然としか頭になくて、特に夢なんてのもなかった時にはずいぶんとタイムリーなものだった。
「これといった夢がないなら祓魔師になってはどうでしょう」と言われて、初めてはっきりと形のある将来が見えた気がした。つい追いかけてみたくなった。
別にメフィストに絆されたからじゃない。最終的に自分が“いいかもしれない”と思ったから決めたのだと、それだけを胸にとりあえず受験することを決意した。
まぁ結局教訓通り2年のうちはしっかりと遊び呆けたのだけれど、受験生になって雪男に出会ってから真面目に勉強に励んだおかげで今現在あたしは正十字学園の生徒としてスタートをきることが出来ていたのだった。
雪男も聞いて呆れるほどに経緯はどうしようもなくくだらなかったものの、将来の夢なるものを定めることが出来たのはやはり自分にとって大きな革命とも言える。今までのその時を楽しむ生き方も悪くはなかったけれど、がんばれば達成出来る明確な目標がある生活もなかなか悪くないと思い始めたのだから。





理事長のありがたきお言葉。



(私はあなたをそばに置いておけて、あなたは夢に向かって充実した生活が出来る。まったくなんて素晴らしいんでしょう!)
(そう言われるとなんか胡散臭くて萎える……)


prev / next

back