「にいちゃーん」
「うわっ、なんだよヴェネチアーノ!」

朝っぱらから他人の部屋にやってきたかと思えば、上半身裸のままのヴェネチアーノはそのまま兄の寝ているベッドへと飛び込んだ。

「勝手に入ってくんな、この腐れ弟が!」
「へへへー」

兄は必死で追い返そうとするが、この弟、天然なのかドMなのか、構わず兄の背中に容赦なく抱きつく。

「ヴェネチアーノ!あんまりふざけてっとな、」
「ひっ、」

ヴェネチアーノの喉の奥からか細い声が出たのは、何かのスイッチを入れたから。
そのスイッチとは彼の特徴的なくるんとまるまったあほ毛のことで、つまりは、イタリア人の性的な何かである。

「や、やめて、にいちゃっ」
「こうでもしないとおまえはすぐ調子に乗るからな!嫌だったらさっさと出てけ」
「そんなこと言わないで、ひぁっ」

後ろで弟がびくんと跳ねる。
首筋に当たる息が急に生々しく感じられて、ロマーノは体を震わせた。

「は、はやく離れろ、ばか」
「えいっ」
「―――!?」

ヴェネチアーノは離れるどころかさらに密着し、兄の弱点をついた。
前髪のあたりからのびるこれまた特徴的なあほ毛―――。

「っ、あ」

ロマーノは抵抗すればいいのに、反射的に目をつぶった。
さすが実の弟、どう触れば兄にとっていいのか、熟知している。

「は、やめ、ろ……」
「兄ちゃんにやられてばっかじゃ俺、くやしいもん」
「ふざけん、な」

兄も弟も、互いの呼吸の熱っぽさには気づいていた。
そして弟が追い打ちをかけるように兄のうなじにキスを落とす。
兄は何の反応も見せないように、理性を保つことだけに神経を傾けていた。

「……ねぇ、兄ちゃん」
「なんだよ」
「今日、何の日か知ってる?」
「……忘れるわけ、ねーだろ」
「だよね。よかった」

ヴェネチアーノはゆっくりと、ロマーノのことを振り向かせた。
触れるだけのキスを、唇にひとつ。
すぐに離れて目を合わせると、ロマーノは恥ずかしいのかすぐに逸らしてしまった。

「今年は150周年なんだって」
「そういえば、そうだな」
「だから今日は絶対忙しいでしょ?夜になると眠くなっちゃうかもしれないし」

だから、今のうち。
そう言いながら、ヴェネチアーノはもう一度兄の唇に自分のそれを重ねた。
するとそれに応えるように、ロマーノがヴェネチアーノの口内に侵入する。

「ん、っ」
「っは、ん」

朝日のあたる真っ白な布団の中から聞こえる意味のない声。
その戯れは長く続き、ようやく離れた頃には互いの頬が熱気ですっかり上気していた。

「ふふ」
「……なにがおかしい」
「ちがうよ、うれしいんだよ」

ヴェネチアーノはごく自然に、ロマーノのパンツの中に手を入れた。
もちろん、ロマーノの体は馬鹿正直な反応を見せる。

「今日ぐらいでしょ、こんなことできるの」

にこにこと笑いながら、ロマーノの自身を擦り上げる。
熱に浮かされたロマーノの口からは、快楽に溺れるままの喘ぎが漏れる。

「あっ、あ」
「感じてるの?うれしい」

俺も気持ちいいよ、とヴェネチアーノが笑う。
それとは対照的に、ロマーノの目には涙が浮かんでいた。

「こっちも……」
「―――っ、はぁっ」

ヴェネチアーノの細い指がロマーノの後ろの穴にぬるりと侵入した。
途端にロマーノはびくびくと体を震わせ、「やめろ」と連呼した。

「もう、兄ちゃんったら大げさなんだから。こんなに気持ちいいくせに」

体内を抉るように、ぐるりと指を回す。2本、3本と数を増やすと、ロマーノはますます声を高くした。

「あ、も、むりっ」

刺激が強すぎて、思考が働かない。ロマーノは泣きながら、「はやく」と懇願した。

「……なにが?」

弟の返事に兄はいらだった。それでも漏れるのは甘ったるい喘ぎ声ばかり。
顔は見えないけど、弟は今、絶対に意地の悪い表情をしている、とロマーノは確信していた。

「そんなんじゃ、たりね、っつってんだ……!」
「ごめんね兄ちゃん、毎年俺が挿れてばっかで」

その言葉の後に指が抜かれ、かわりにもっと熱くて質量のあるヴェネチアーノのそれがあてがわれた。

「いくよ」
「ふ……、あああっ」

今まで届かなくてもどかしかった体内のある一点を一気に攻め立てられて、ロマーノは思わず叫んでしまった。すごくいい。声が抑えられない。

「ふあっ、あっ ん」
「んっ、兄ちゃんのなか、あったかい」

なんだその感想、とロマーノは少しあきれたが、すぐにそんなことはどうでもよくなる。
少し抜いては突かれの繰り返しに、体がびくんびくんと喜ぶ。
ヴェネチアーノも兄からの締めつけにたまらない気持ち良さを感じていた。

「あっ、兄ちゃんっ、だめ」
「ひっ」

兄弟が果てたのはほぼ同時だった。
ヴェネチアーノはぎりぎりのところで抜くつもりが、間に合わずに兄のなかに出してしまった。

「っ、おまえ……」
「ごめぇぇぇん……」

つながった状態のまま、ヴェネチアーノがロマーノの上にぱたりと倒れた。

「ったく、しょうがねーヤツ」

ロマーノは文句を垂れながら、ヴェネチアーノの耳にキスをした。
兄の思わぬ行動に、弟は満面の笑みを浮かべる。

「今年も無事に、つながったね」
「……黙れ」
「えへへー」

通常恋人同士が行うこの行為を、年に一度のこの日だけ、ただの兄弟である彼らは行う。
数々の苦労を重ねて果たしたイタリア統一の喜びを思い出すために。
互いのつながりを確かめ合うために。

「これからもよろしくね、兄ちゃん」
「ちっ、しょうがねーな!」



150年の仲
(お誕生日おめでとう、くるん兄弟)





(2010/03/18)
一日遅れで申し訳ない。まさかえろになるとは。

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