異色なメンバーだった。
 イタリアと、日本と、俺フランス。本来はここにドイツあたりが入るのが自然なのだろうが、なぜか俺。それはここが俺の家だからで、俺がこの2人を招待したのだから、当然のことではある。
 カプチーノに簡単なハートのラテ・アートを施して出すと、イタリアは「ありがとう」とにっこりと笑い、日本は「器用ですねぇ」と感嘆をもらした。
「フランス兄ちゃん、イギリスは?」
 イタリアからの思わぬ質問に、俺はちょうど口をつけたコーヒーカップの表面から泡を飛ばしてしまった。せっかくのハートマークが無残にも崩れる。なぜ、今その名前が。
「あいつのことは、そもそも招待してねぇから」
「おや、意外ですね。最近のお2人、かなりいい感じの仲に見えましたので、てっきり……」
 日本までもがそんなことを言い始める。ああ、なんだかとっても面倒なことになる予感がしてならない。
「せっかくのお茶会なんだから、もっと楽しい話しない?ほら、マドレーヌも焼いたから食べて……」
「他人の色恋沙汰ほど、おもしろいものはないでしょう」
 日本の漆黒の瞳がきらりと光る。しかもいつの間にか手にはペンとメモ帳が装備されていて。
「単刀直入に聞きますけど、お2人の仲は仏英でFAですか」
 日本のあまりの率直さに、俺は思わずたじろいだ。その隣ではイタリアがぽかーんとしている。おそらく日本が言ったことの意味を理解しなかったのだろう。(ちなみに俺はもちろん完璧に理解した。)
 ふと、イギリスの顔を頭に浮かべた。
 ―――おそらく、多くの人は知らないイギリスの本性。
 思い出すだけで鳥肌が立って、俺は思わず身震いした。イタリアが「フランス兄ちゃん大丈夫?」とやさしい言葉をかけてくれる。
「頼む、これ以上は聞かないでくれ……」
 日本はとても遠慮深い性格なので、こっちが拒否すればこれ以上踏み込んでくることはない。少し残念そうな顔をしながらもペンを置いてくれた。
 一旦話を切ったつもりだったが、俺の脳内は例の隣国一色になっていた。でも、この話だけは絶対に、誰にももらしたくない。

 最初の頃は、俺からイギリスに矢印がのびていた。愛の国を語る俺は、ところ構わずイギリスにアタックを仕掛けていたので、それは誰の目にも明らかだったに違いない。
 ところがイギリスはなかなか振り向いてくれなかった。「なんで腐れ縁のおまえと今更」というのが彼の言い分で、それでもはっきりと拒絶されることはなかったので、俺もますます調子に乗ってキスくらいは迫るようになった。
 イギリスもイギリスで根がとてもエロいので、唇を重ねればしっかり応えてきた。そのあと我に返るとすぐにボディーブローを仕掛けてきたが、イギリスといちゃいちゃできるなら、これくらい屁でもなかった。
 これならイギリスを抱ける日もそう遠くはないかなあと思っていたところ、イギリスと飲む機会があって、酒癖の悪いイギリスは例の如くひとりで帰ることができないくらいに酔っぱらい、俺の家に泊まることになった。
 またとないチャンスに俺の心は躍った。酔っぱらったイギリスをベッドに寝かせ、首筋にキスを落とそうとした。その時。
 イギリスの手がそれを阻んだ。やっぱりダメか、と諦めかけた時に、彼の口から思わぬ言葉が飛び出た。
「おまえがどうしても、って言うなら、おまえと寝てやってもいい」
「えっ」
「ただし、条件がある」

『俺がタチだ』
 欲望に流されてそのまま首を縦に振ってしまったことを、俺は後悔している―――。
「あっ ぐ」
「どうせならもっとかわいく鳴けよ」
「ひっ」
 くぐもった声が涎と一緒に枕に吸収されていく。これは俺の精一杯の抵抗だった。どこからどう見ても精悍な青年の体つきをした俺が、かわいく鳴けるはずがない。俺自身もそんなのは聞きたくない。
 そもそも俺が見たかったのは、イギリスが俺の下で、それこそあんあんかわいく鳴いている姿だったはず。それがどうしてこんなことに。
 もう俺の中にはイギリスのモノが入っている。イギリスは後ろから、容赦なく打ちつけてきた。その度にびくびくと腰が動き、シーツとの摩擦で俺の息子はすでに一度果ててしまっていた。
「い、いぎり、す あっ、う いたいっ」
「痛い?気持ちいいの間違いだろ」
 そう言ってイギリスは律動を速くした。下の口はきゅうきゅうと収縮し、上の口はだらしなく声をもらし続ける。
 セックスの間のイギリスは、まるで何百年か前の彼に戻ったようだった。手加減がない。愛が感じられない。肉体をぶつけ合う、ただの行為。
「ああっ はぁ……っあ、あ」
 ぐ、と力を加えられてさらに奥へと押し込まれた瞬間に、あられもない高さの声が出て、俺は思わず顔を手で覆った。二度目の射精を迎えてしまったようだった。
 なに、いまの。こんなの、俺じゃない。
「ちっ」
 後ろから舌打ちが聞こえたかと思うと、イギリスはずるりと自身を抜いて、すでにいろんな体液でぐしょぐしょに濡れたシーツの上に白濁を散らした。中に出されなかったのは、本当にありがたかった。
 最近の俺とイギリスは「いい感じ」なのではない。みんなの知らないところで矢印の向きが変わったから、穏やかに見えるのだ。イギリスは公衆の面前で愛をささやくようなことはしないタイプだから。
 イギリスの愛は歪んでいる。家に来るたびに、欲望剥き出しのようなセックスを強要する。俺だったらそんなことはしない。イギリスのこと、やさしく抱いてあげる。その準備はいつでも出来ているのに。
「俺、おまえ相手じゃないと絶対上だからね」
 ベッドの上で、俺を押し倒すイギリスに向かって言った。俺の上でイギリスは「それがどうした」と吐く。
「おまえのセックスには愛が感じられないの!俺が上だったらイギリスのことも気持ちよくしてあげられるし、なにより愛のこもったセックスが出来る」
「愛、ねぇ」
 にやり、とイギリスの口角が上がる。エメラルドグリーンの綺麗な瞳は、暗いせいでよく見えない。
「愛してるよ、フランス」
 さっきまでの彼が言ったとは信じられないほどの、やさしい響き。
 月並みな言葉でも、意中の相手に言われれば嬉しいもので、そのあとに贈られるキスを拒むことなど、どうして出来ようか?

 以前、日本と話した時に、イギリスは「受けの中の受け」という意見で合致したはずだった。そして俺は「攻めの中の攻め」。その常識を打ち破って、まさか「英仏」というCPが誕生しようとは、日本も思わないだろう。
 でもあいつは雑食だから、絶対に飛びついてくる。でも俺は「攻めの中の攻め」の名にかけても、ネコに回った俺の姿など、誰にも知られたくないのだ……!
「フランス兄ちゃん?」
 イタリアの声に、俺ははっと我に返った。
「顔、赤いけど、どうしたの?」
「えっ」
 動揺する俺を見て、日本の目が意味あり気に細められる。
「フランスさん、やっぱり―――イギリスさんと、何かありましたね」
「なんにも、ありません!」
 オタクの力をもってすれば、なんでもお見通しだったりするのだろうかと思うと、俺は気が気でない。



恋人ごっこの条件
(絶対に、絶対に、ばれてはならない!)





(2010/03/23)
本当は攻めたいのに攻められる兄ちゃんが見たかった。

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