「ぱーんぱぱーんぱーんぱーんぱーん、ぱーんぱぱーんぱーんぱーんぱーん……」 よく晴れた一日だった。夏の始まりを告げるかのように、太陽がじりじりとコンクリートの地面を焼く。 茹るような暑さの中、アメリカはTシャツにハーフパンツという極めてラフな格好で、人々で賑わうストリートを歩いていた。 こんなに人で溢れかえっているのは、今日が祝日だからだ。そう、7月4日、忘れもしない、独立記念日だ。 道行く人々はアメリカに気づくとにっこりと手を振った。もちろん、「Happy Birthday!」の言葉も忘れない。アメリカは上機嫌でそれに応える。そして何度も何度も、母国の唄を口ずさむのだ。 ストリートを抜けて信号待ちをしていた時、ふと、ポケットの中の電話がぴりぴりと音をたてた。 「ハロー、フランス。お祝いの電話かい?」 『おまえってほんと図々しい奴だよな。まぁ、こっちもそのつもりでかけたんだけど』 誕生日おめでとう、文句の一つをこぼしながらも、フランスは心からアメリカにメッセージを贈った。 『いやぁ、パーティー行けなくてごめんな。プレゼントは送っといたから、受け取ってくれよ』 「まさかとは思うけど、またアダルトグッズの類じゃないよね?」 『いや、今回はちゃんと実用的なものにしたんだよ。ほら、コン○ーム、おまえ使うだろ?』 「……」 やっぱりフランスはフランスだった。アメリカが何も言わずに黙っていると、受話器の向こうからはその贈り物に関する説明がだらだらと聞こえてくる。 「ありがとうなんて、言わないんだからな」 『えっなんで!?』 別に使わないわけではないが、素直に感謝するのはなんだか癪だった。あんな変態国家と一緒にされたくないんだぞ、アメリカは心の中で呟く。 『あとな、おまえに言っておきたいことがあって電話したんだが』 「?」 『あー、イギリスがな、そっち行ったから』 「えっ」 『やっぱり、嫌だったか?』とすぐさま聞かれて、アメリカは「いや、別に……」となんとも歯切れの悪い回答をした。「えっ」と言ったのは純粋に驚いたからで、それ以上の意味はなかった。 だってあの人、絶対無理してるじゃないか……。毎年毎年、この時期になるとイギリスは体調を崩す。あの日の話を出すとイギリスは絶対に機嫌を悪くする。嫌なら触れなきゃいいのに。だけどイギリスは、どんな形でも絶対にアメリカの誕生日を祝ってくれるのだ。 あまりに体調が悪いとプレゼントと電報が送られてくるだけで終わるが、わざわざアメリカに来るとは、今年は結構な頑張りを見せてくれるようだ。 『まぁ、例年通りかなり無理してるから、あんまりいじめないでやってよ』 「わかってるよそれくらい、俺ももう子どもじゃないんだからさ。そもそも、あの人もあの人だよ。つらいならそこまで無理することないのに」 『……おまえもまだまだ子どもだな』 「え?なんでだい?」 『ま、うまくやれよ、アデュー』 アメリカの問いにフランスは答えないまま、一方的に電話を切った。アメリカは怪訝な顔をして切れた電話を見つめた。 「ア、アメリカ!」 呼びかけに反応して顔を上げたアメリカは、目の前の光景に目を丸くした。 「イギリス!なんでここに……っていうより、それなんだい!?」 ナイスタイミングというべきか、声の主はイギリスだった。しかし肝心のイギリスの顔が見えない。というのも、巨大なくまの顔が彼の顔どころか体までもを隠してしまっているからだった。 「誕生日おめでとう、アメリカ。これは俺からのプレゼントだ」 大の大人も抱えるのに精いっぱいになる巨大なテディベア。どうやらこれが今年のイギリスからの誕生日プレゼントのようだった。 アメリカは困惑しながらもその巨大なぬいぐるみを受け取った。ようやく見えたイギリスの顔は、予想通りに不健康そうな色をしていた。 「どうしてテディベアを……?」 「おまえ、小さいころ好きだったじゃないか。だから今年は特別に、おまえの大好きなアメリカンサイズで作ったんだぞ」 「これ、君の手作りかい!?」 「当たり前だろ」 そういえば、幼い頃もイギリスがテディベアを作ってくれたりしたっけ、とアメリカはぼんやり思い出した。もう、今はどこにやってしまったかわからない。 「……俺はもう子どもじゃないんだぞ」 こんなに大きくなって、テディベアだなんて。ちょっと恥ずかしかった。アメリカが抱えても結構なサイズに、道行く人々は不思議なものを見るような目で彼を見た。 「ばぁか、いくつになってもおまえは子どもなんだよ」 「なんだって!」 真っ青な顔で笑顔を取り繕い、イギリスは言った。 「元気な子どもに育ってくれて、俺はうれしいよ」 なんだよ、イギリスもフランスも、いつまでも俺のこと子ども扱いだ。 アメリカは少し拗ねて口をとがらせたが、イギリスはにやりと笑って彼を見つめるばかりだった。 Happy independence day (いくつになってもかわいいもんです) (2011/07/04) やっつけ1時間クオリティで申し訳ない。アメリカおめでとう!祝いそこねたけどカナダさんも香港さんもついでにおめでとう! |