※ついさっき恋人同士になった的な



 この後の展開がどうなるのか、大体予想はついていた。ほら、経験則ってやつ?キスをする。抱き合う。ベッド代わりと化したソファの上。上にスペイン、下に俺。これから起こることを甘んじて受け入れる心の準備は出来ていた。
「……なんや、妙に緊張するわ」
「どしたの?」
 スペインはなんだか困ったように目線を泳がせていた。なんとなく、その気持ちはわからないでもないけどね。
「いつも通りでいいんじゃないの?そんな緊張しなくても」
「だ、だって違うやん!その、気持ちの持ち方っていうか……」
 珍しいスペインがそこにいた。普段は何も考えてない風で、ただしたいから手出しますーって感じのくせに。急に恋する男の子みたいな顔になっちゃって。俺とする時、こんなに顔赤くしたことないよね?
「フランス!どうしてほしい!?」
「へ?」
 こんな時になんてご冗談を、と思ったらスペインは必死な様子だった。きゅっと唇を一直線に結び、肩で大きく呼吸をしてる。きらきらと輝く瞳の中に、唖然とした顔の俺がいた。
「えーと、じゃあねぇ……とりあえず、キスじゃない?」
「わかった。どこにしてほしい!?」
「ってそれも聞くか?」
 べつに好きなとこにすればいいだろ!いちいち言わせんな恥ずかしい!
「わ、フランス顔赤くなっとるで」
 おまえは鏡で自分の顔を見てから物を言えよ。
「かわええなぁ」
「ひ、」
 ぬるっとした感覚が頬の上を滑った。右も、左も、何度も。
「ちょ、スペイン、こ、これはちょっと違くないか?」
 なんかこういうの日本の家のテレビで見たことあるよ……。相手は動物だったけど。
「なんか顔がぬるぬるしてる感じで気持ち悪い」
「ごめんなぁ、つい」
 ったく、何がしたいんだよ。いっそ形勢逆転して取って食っちまうか?
「ちゅーするから許してな」
「もう、最初からそう―――」
 って、おい。いきなりどこ触ってんだ。そこはお兄さんの立派なエッフェル塔がしまってあるから、って、どさくさに紛れてファスナー下ろすな!
「スペイン!?」
「なんや、ぐにゃぐにゃやん」
「ちょっ、いきなり、舐めんなっ」
 実はまだぴくりとも反応を示していなかったそれを、スペインは何の抵抗もなく口に含んだ。
 なんなのこいつ、馬鹿なの?キスっていうのはそんなとこにするもんじゃ、
「っは……あ」
「お、ちょっとは元気になってきたんちゃう?」
 そりゃあ俺も男ですからねぇ。刺激があれば感じちゃ、うっ……
「あっ う、」
「もしかして、もう出るん?」
 なんだか暗に早漏だと言われているようで癇に障ったが、反論よりもどうでもいい声のほうが上がってしまう。ちなみにまだです。早漏はプロイセンだろ。
「あー……あご疲れてきたわぁ。挿れてええかな?」
「んっ……ぅえ?」
 スペインはすっかりいつもの調子を取り戻したようだった。案ずるより産むが易し、というやつだろう。彼お得意のマイペースでこっちがどんな状態かとかまったく考慮せず、
「えっちょっと待って、さすがに無理でしょ!?」
 なんの慣らしもしてないそこにいきなり突っ込もうとする。っておい!いくらなんでも無茶だろ!こっちは必死でやめるように訴えるが、スペインは聞く耳も持たない。
 俺がわーわー喚いている間にズボンもパンツも綺麗に脱いだスペインは、俺の腰に手を添えてにっこり笑った。
「大丈夫やって」
 絶 対 無 理 !!
 入口、もとい出口に熱いものが当たる。ああ、こんなに拒否したのに。もうだめだ。俺は本能的に目をぎゅっとつぶった。
「あ、」
 ぐっと力を加えてきたのは腰を掴んでいた手だけで、予想していた痛みが襲ってくることはなかった。
「ありゃ、無理や、入らん」
「だからさっきからそう言ってるだろーが!」
 情けないことに俺の目には涙が浮かんでいた。いや、まじで怖かったんだよ。俺は気持ちいいのは好きだけど、痛いのは勘弁してほしい。
「うーん、ローション取りに行くのもめんどいしなぁ。とりあえず舐めときゃええかな?」
 ……ん?今なんとおっしゃいました?とりあえず舐めとく?……どこを?
 次の瞬間、下半身に奇妙な感覚が走った。
「す、スペインっ ど どこ、舐めっ、っあ、う」
 大体予想はついていたけど、できれば当たってほしくなかった。汚いからやめろと叫びたいのに、うまく言葉にならない。温かい水がぼろぼろと頬を伝う。なんだこのすごい屈辱感。
「んっ、ふ……ううぅ……」
「こんなもんかな」
「いっ―――――!」
 ようやく舌が離れて安心したのもつかの間、ひときわ大きな声が上がったのは、それなりの大きさがある何かがなかに入ってきたからだ。ゆ、指……?
「よし!」
「うあっ」
 勢いよく指が抜かれる。次に襲うのはつい何分間前に味わったのと同じ感覚。その姿は見えないけれど、さっきよりも立派に育っちゃってるんじゃないかと思った。覚悟はできてる、けど。
「ううっ いっ、い」
 頭で考えていた通りのシナリオをたどられる。熱い切っ先はゆっくりと押し込められた。力を抜いたほうがいいとはわかっているけど、思うようにはいかない。
「フランス、もーちょい力抜いてっ」
「んあっむ、り」
 自分ではないものが体内に侵入してくる感覚はあまり気持ちのいいものじゃない。痛いし、きついし、むしろ気持ち悪いくらいだ。
「ちょっと慣らし足りひんかったかな?」
 頭上に見えるスペインも少し苦しそうに顔を歪めていた。俺の顔は汗やら涙やらでもっとぐちゃぐちゃになってるだろうけど。
「つらい?」
 スペインが心から案じている様子で問う。当たり前だ。もう声を出す余裕もなくて、こくこくと首を縦に振った。
「もうちょっとで気持ちよくなるからな」
 涙を拭うように落とされたキスは、次に段階に移ることを告げる一種の合図。ずん、と力が加えられる。体の内部をえぐるような衝撃に、俺は痛い痛いと音を上げた。それを無視してスペインが律動をやめないのは、結局俺がこの行為に快感を見出してしまうのを知っているからだ。
「あっ あ」
 そんなんじゃ足りない。もっと、もっと奥を。いつしかそうねだり出す。ねぇスペイン、もっと、
「あっかん、でるっ」
「え」
 間に合わなかった。いや、最初から抜くつもりなんかなかったのかもしれない。どくどくとなかに注ぎ込まれる。一番面倒なパターンだ。ちゃんとゴムしてたらなぁ、なんて今さら思っても後の祭り。
「あ、おまえもいった?」
「おまえがとんでもないことしでかしてくれたからな」
 スペインが出した時の衝撃で自分も果てていた。腹の上にその残骸が散っていた。
 ずるずるとスペインが出ていく。一気に脱力感が襲った。
「……ひーどい」
「ごめんなぁ」
「俺、おまえのこと嫌い」
「ええっ!そんなこと言わんといてやぁ」
 スペインが本当に焦った様子で言う。からかうつもりで言ったんだけどなぁ。まぁこれはこれで面白いからいいか。
「フランス〜、俺おまえのことむっちゃ好きって言うたやん!」
 スペインはわんわん泣く子どものように抱きついてきた。もしかしてまじで泣いてる?そっと顔を上げさせると、心なしか涙目のスペインがそこにはいた。
「あー……十分わかったから。ごめん、ごめんな」
「フランスも俺のこと好き?」
 子犬のような顔でこっちを見つめるスペイン。え、なにこれすっごくかわいい。
「好きだよ」
「ほんとに?」
 「嫌い」という言葉が相当効いたのか、スペインの表情は曇ったままだ。ちょっと悪いことしちゃったかな。体のだるさを我慢して俺は起き上がった。
「嫌いだったらこんなことしないだろ」
 汗で湿った頭に手を回し、薄く開かれたままの唇に口づけた。そのままいれた舌で口内をぐるりと一周して離れる。
「な?」
 きょとんとしたままだったスペインの目が、正気を取り戻したのは数秒後。そして、今さらながら俺の願いを思い出したらしい。
「そういえばフランス、キスしたいって言っとったな!」
 いや、キスしたいっていうか、順番的にキスから始めるのが妥当じゃないかって意味で言ったんだけど。全部終わった後じゃ何の意味も……、
 ……なくはないか、目の前のいとしい人の顔を見て思い直した。
「じゃースペイン、キスしたって」
 スペインの顔がぱぁっと輝く。
「もちろんや!」



ハロー、ハピネス
(そこにあるのは愛でしょう)




(2011/05/20)
5月に出したオフ本の続きのつもりだけど、それを読まなくてもわかるように書いたつもりだから問題ない。


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