こいつを家に呼ぶとろくなことがない。眼前に広がる有様を見て、つくづくそう思う。 「イギリス!なんだこの様は!」 床には空になった酒瓶が無造作に転がっていた。まだ中身が少し入っていたものもあるらしく、小さな水たまりまで作っている。 そして俺のリビングルームを散らかした張本人は、瓶を片手にソファに寝そべっていた。 「……あぁ?」 目はすっかりとろんとしていて、返事にも覇気がない。俺はあきれて大きなため息をつくしかなかった。この男は酒癖が悪すぎる。 さっきも、酔っぱらったイギリスが中身の入ったワイングラス片手に俺に掴みかかってきて、俺のお気に入りのシャツに赤紫色の染みを作った。それどころか調子に乗ったイギリスは、俺の頭にワインを浴びせるという下劣極まりない行為をはたらき、それはそれはひどい喧嘩になった。 「俺、ある程度片付けてからシャワー浴びに行ったよね!?なんでまた瓶が転がって……」 ―――違った。俺がつい30分ほど前にまとめておいておいた瓶は、変わらずに部屋の片隅に並んでいた。 ということは。 俺は急いで台所に行き、家庭用のワインセラーの扉を開いた。思った通りだ。ない。俺が大事に寝かせていたものも全部、ない。 「まじかよ……」 俺はショックのあまりその場に座り込んでしまった。ひどい。こんなのあんまりだ。俺が大切に育ててきたワインが、あんな味覚音痴の、ワインの正しい飲み方も知らないような国にすべて持っていかれてしまった。 「ううっ……」 じんわりと涙が浮かぶ。同時に、俺の前に影が落ちてきた。 「何してんだよ」 振り返るとそこにいたのはもちろんイギリスだった。 「なんだその景気の悪そうな顔」 誰のせいだと思ってんだよ!そう言い返したかったのに、言葉にならなかった。そんな元気も出なかった。 「……おい」 「……」 「なんか言えよ」 「……」 「……むかつく」 さすがにこの一言にはかちんときて、俺は立ちあがった。 「おまえな、」 俺がイギリスの胸倉を掴むより早く、イギリスは左手に持っていた瓶に口をつけて酒をあおった。 「え、」 ごろんごろんと鈍い音をたてながら瓶が転がってゆく。そして俺は、 「ふっ……ん、ん、っうえ、え」 イギリスに強引に口づけられて無理矢理酒を流し込まれた。もちろんそんなことは全く想定していなかったので、盛大にむせ込んだ。気管に入って苦しいのに、イギリスは容赦なく舌をねじ込んでくる。 「んっ、っうぇ」 まじで涙が出た。半端なく苦しい。そして頭がぼーっとしてきた。間違いなく、たった今流し込まれたアルコールのせいだった。 「お、おまえね!」 どうにかイギリスをひきはがす。目の前のイギリスはただ無表情で俺を見ていた。そして思いのほか淡々と話す。 「おまえが酔い足りねーんじゃねーかと思って、親切に分けてやったんじゃねーか」 「あのな、それ俺んちのだろ!」 「ワインじゃねーよ。気づけ馬鹿」 ぞんざいな仕草で、床に横たわった大きな瓶を指す。象牙色のラベルに書かれた見慣れない文字。 「まさか、日本酒……?」 さっきはむせていて味などほとんどわからなかったが、口の中に残った風味にかつて日本にごちそうになった米から作る酒の味を思い出した。 「って、えええええ!」 確か日本酒はアルコール度数がかなり高かったはず。だから一気にあおるように飲むのではなく、ゆっくり舐めるように嗜むのだと日本は言っていた気がするのだが……? 「前に日本にもらったやつを持って来てやったんだ。感謝しろよ」 「い、イギリス、俺、強い酒はあんま得意じゃない」 そっと片足を踏み出した。いつもと感覚が違う。固い床を踏みしめているはずなのに、クッションの上に足を置いたような感じがした。 まずい。 「……フランス?」 もう一歩踏み出したところ、バランスを崩して俺はイギリスを巻き込んで転んだ。 「……ってぇ。おい、何やってんだよクソ髭!」 「わ、わり。ちょっとお兄さん、やばいかも」 頭の中がぐるぐるかき混ぜられているかのような心地がする。心臓はばくばくいってるし、息がしづらい。 「おまえ、まさか酔ったのか……?」 「……るさい」 とりあえず体は起こしたが立つことはできそうになくて、ついでに目が回るような感覚もおさまらなかったので目の前のイギリスの胸に頭を預けた。 「ちょっ、おま」 「うー、ちょっと無理っぽいわ」 イギリスはきっと嫌だろうし、俺もこんな形で彼を頼るのは癪だったが、仕方がない。 「おい、気持ち悪いのか?」 「いや、まだ大丈夫だ」 これ以上飲まなければ、リバースは避けられる気がした。ああ、もうベッドに行って寝たい。でも歩けない。 「つーかおまえ、酒くせぇ」 「誰のせいだと思ってんだよ……」 こぼれた日本酒で首回りはべとべとだった。ついさっきシャワーを浴びて着替えをしたのに、何の意味もなくなってしまった。 「もったいねぇ」 「は、はぁ!?」 にやり、イギリスが笑った。嫌な予感しかしない。 「はっ、ちょ、いぎ、いぎりす、なにを」 「んー、うめーよ」 「ま、まって、っあ」 イギリスの舌が蛇のように這う。耳、首、喉と下りて、時折ちゅ、と軽く吸われた。 おい、ちょっと待てこれは。 「イギリス……?」 「おとなしくしてろよ」 「……は?」 酒に濡れたシャツはみるみるうちに剥がされた。イギリスは酔っていても、こういうことになると異常な器用さを見せる。 「いやいやちょっと!」 「うっせぇ、黙ってろ」 「んっ う」 なんなのこいつ、俺がキスのひとつで黙ると思ってんの。ああもう、素面だったら絶対勝てるのに。 「おまえ、胸毛多くて気持ち悪い」 だったらそこにキスするのやめてもらえますかね。こっちは頼んでないんですけど。 「なんだよその顔。興奮してるくせに」 するっと服の上からなぞられたそれは、明らかに反応を見せていた。 何も言い返すことが出来なくなり、俺は唇を噛む。 そうしている間にもベルトを外され、ファスナーを下ろされ、下着もずらされ、大事に隠していた俺のエッフェル塔があらわになった。 「無駄にでかい」 「お褒めの言葉どうも」 べろりとそこを舐められ、俺はぴくりと体を震わせた。それはアイスキャンデーでも舐めているかのようなノリ。 「……っ」 酔っているせいなのか、妙な感じがした。少し触れられるだけでも、体が反応してしまう。 「出してもいいんだぜ」 「え?」 「声」 顔がかあっと熱くなった。絶対に嫌だ。この男に変な声を聞かせるなんて、絶対にしたくない。 「……酔っても理性はあるつもりか?無駄だから早く諦めとけよ」 「あ っう」 イギリスが俺のを掴み、すばやく扱いた。もちろん、こんな直接的な刺激が突然加えられたら我慢できるはずもなく。 ぱたた、と白濁が落ちる。イギリスはそれを掬い、俺の背後に手を回した。 「ちょっ、それは無理」 「無理じゃねぇだろ」 異物が入る感覚は、正直言って気持ち悪い。本来ならば決して入口にはなることのないそこに、イギリスの指が出入りする。 「あ、あっ ん」 だんだんと違和感が快感に変わっていくのを感じていた。酔っているからか、思ったよりも早い。 「声、出てるけど」 「んん……っう」 自制が効かなくなっていた。絶対に我慢するという誓いはあっけなく崩れ、体は本能のままに動く。 「いっ、いぎ」 「あーあーわかったから」 指を抜かれたと思ったら、まるで赤ちゃんのおむつを換える時のように両足を持ち上げられた。こんな恥ずかしい格好を酒が入っていない時にやらされたら、俺は確実にイギリスのことを殴っている。 それが今ではイギリスがくるのを待っているのだから、なんとも滑稽な光景だ。 「力抜け」 「ん、……っあ、は」 「動くぞ」 イギリスが動くたびに俺は足をばたつかせた。イギリスがうっとおしそうな顔をしているのには気づいたが、止まらない。だってそれだけ、 「あっ あっ い、いっ」 アルコールの効果も相まって、どうでもよくなっちゃうよね。たとえ中に出されようと、気持ちよければいいじゃない。 「っ、」 イギリスが息を止めた瞬間に、俺のなかに流れ込んでくる感覚がした。それに応えるかのように俺も二度目の液を吐く。 「フランス、」 イギリスが手を伸ばしたので俺も手を出してみると、ぐいっと引っ張られて体を起こされた。そして、もう一度キスをする。 そのまま溶けてしまうんじゃないかってほど、甘ったるい心地がした。 alcoholic (翌日、先に目を覚ましたほうがまず相手を殴ります) (2011/04/04) 意外に長くなった。この2人は酔っぱらう度にセックスしちゃいそう。 |