*少し大人向け。苦手な方は閲覧をお控えください。






多分私がものすごく怖がっていたからだと思う。

それは、私が同田貫の布団の中に潜り込んで、同田貫の背中に抱き着くことでしか始まらない。
抱き着くと同田貫が私の方へ向き直り、抱き締め返してくれる。
布団の中で、寒いはずなのに抱き合うと少し暑くて、背中までしっかりと回された力に抗うことはきっと無理で、だからこそ捕まってしまったという感覚がやけに興奮した。
私が同田貫の胸元にすり寄ると、同田貫は私の頭を撫でてそれから耳を撫で、首筋を執拗に撫でてくる。
そのうち私は我慢できなくなって昼間には絶対出したくない恥ずかしい喘ぎ声を出してしまい、その声を聞いてからやっと、同田貫は私の胸へと手を伸ばした。
腹を弄るように触られ、同時に耳や首筋や背中まで触られるものだからもうどうにかなってしまいそうで、縋るように足を絡めるといつも決まって同田貫は私に囁いた。

「いいか」

と、必ず。
私は息も絶え絶えに応える。

「うん」

そうすると、やっと同田貫の熱くて分厚い掌が意識の集中している乳首を弾く。
同時に、絡めた足に応えるように同田貫も私の真ん中を膝でぐりぐりと押し上げるから、私は我慢できなくてくぐもった声を上げる。

そんな前戯を何分くらい続けるのだろう。

正確に測ったことはないから分からないが、たったそれだけの行為で私のそこが十分に濡れるまで同田貫は前戯を続けた。
多分私が初めての日にひどく怖がったから。
初めの頃はそれだけ時間をかけられてもまだ怖かったし、痛かったし、むしろ触られるだけでも十二分に気持ちいいとさえ思っていた。
三回目くらいの時、まだ慣れず怖くて痛くて入れられたくなくて、つい「いれないで」と言ってしまったことがあった。
あの時、月明かりに浮かんだ同田貫のあのひどく落胆した表情を忘れられない。
痛みを我慢しちゃおうか、と思えるほどに愛しい、切羽詰まった表情だった。
こんな私でもこんなにも求めてくれている。
その事実が嬉しくて、あまりにも残念そうな顔にあまりに心臓を鷲掴みにされたものだから慌てて「ごめん、頑張るから、いいよ」と言った。
そう言ったら同田貫は「絶対痛くしないから、怖がんねぇで俺を受け入れてくれよ」と、低い声でそう、小さく呟いた。
それがまた私の琴線に触れたものだから必死に私の胸に顔を埋める同田貫の頭を、ただ愛しさから抱いていた。

同田貫は私を大事にしてくれる。
それはいいのだが、それは勿論何よりも他にないくらい素晴らしいことなのだが、それ故に半年をかけて同田貫に優しく優しくほぐされた私は、同田貫が思っているよりとんでもなくはしたなくなってしまった気がする。
というのもここ何日か、決まりきった流れや同田貫の触り方、ひどくのんびりとした前戯、もどかしいほど優しく動く感覚に、物足りなさが付きまとって仕方がなかった。
もっと、もっと、もっと。
唇だけを押し付ける優しいキスじゃなくて深く深く互いを食むような口づけをしたい。
掠めるように撫でられるのも好きだが同田貫の好きなように触ってももう大丈夫だと思う。
いれられる感覚も大分前から快感しか感じなくなっていた。
熱く硬いそれをゆっくりゆっくりいれて、ゆっくりゆっくり優しく浅く動かされるだけでは、もう私の方が動いてしまいそうで気が気じゃない。
同田貫がしたいことをしたいようにして欲しい。
体が絡み合って互いの汗同士が艶かしく濡れ合うほどに、抱き締め合って動かされたい。

風呂場で一人天井を見上げながら、のぼせてしまうほど私は延々とそんな妄想を繰り広げた。
でもどう伝えるのがいいのか。
もっと激しくしてほしい、なんてとてもじゃないが私の口からは言えない。
もっと強くしてもいいよ、くらいだろうか。
そんな言葉で意味が通じるだろうか。
意味が通じなければ「強く、って、なんだ」と結局説明を求められて詳細を答えなければならなくなるのだろうし、意味が通じたとしたら私が物足りなく思っていたことがばれてしまう。
どうにか今までのことをないがしろにするわけではないことを踏まえた上で、同田貫に分かってもらえないものだろうか。

中途半端に乾かした髪をそのままに縁側を唸りながら歩いていると、柱に背を預けた同田貫がぼんやりと満月を眺めている姿が見えた。
姿が見えただけで私はさっきまでの逡巡など一瞬で忘れ去り、緩む口元を抑えられないまま同田貫のそばへと駆け寄る。
そんな私を横目でちらりと見た同田貫もまた、口元にはうっすらと笑みを浮かべた。

「お風呂上がったよ」
「髪乾いてねぇぞ」
「まだあったかいし、すぐ乾くから」
「ちゃんと乾かせって、この前も燭台切に小言言われてただろ。こっち来い」

同田貫は私に手招きをして自身の膝の間に私を招き入れた。
背中に僅かに感じる熱さにとっくに湯冷めした筈の体がまたゆっくりと火照っていく。
だらしなくゆるむ口元をなんとか噛み締めていると、不意に柔らかな布が頭に被さり、すぐに同田貫の掌が私の頭を揉みしだいた。
細かく優しい動きが髪の毛を拭っていく。
頭が多少振り回される感覚が結構楽しくて、私は満月を見上げながらされるがままに座っていた。

「またシャンプー変えたか」
「うん。いい匂い?」
「加州とおんなじ匂いだな」
「まぁ、清光くんからもらったものだしね」
「他の男の匂いつけんなよ」

水気のなくなった髪の毛を同田貫が一房掴んだ。
耳元から首筋に沿うように梳かれる感覚に、もう身体が期待してしまっている。
恐る恐る背中に寄りかかると、熱い胸板がふわりと私の背中を支えてくれた。

「でもいい匂いでしょ」
「加州の匂いならごめんだ」
「へへ、嫉妬?」
「あんただって俺が他の女の匂いつけてたら嫌だろ」
「……、嫌だ」
「そんならやめろよなぁ」

私の頭にタオルを被せたまま、同田貫はするりと私の身体を抱きしめた。
首元に埋められた顔から吐息が鎖骨の辺りをくすぐる。
ぞくりとした快感がすぐに私のそこを刺激した。

このまま、後ろから触られたい。
尻の方から弄られ、濡らされ、少し乱暴に胸元に手を入れられ、苦しい態勢でキスをしたい。
そのまま獣のように隙間なく繋がりながら、満月に見られてしまっても良いような。
熱に浮かされされるがままに、何も考えられないほどの快感を共に、明日の朝は営みのせいで疲れて立てないほどの激しいことを。

「……っ、同田貫」

したい。
言いたい。
きっと少しは驚かれるだろうけど、でもきっと、それくらいで同田貫は私のことを嫌わない。
嫌わないと信じてるけど嫌われるかもしれない、けど、もうもどかしいだけの優しい行為には耐えられない。
それくらい求めてしまっていると、恥ずかしいけど打ち明けよう。
とうとうそう決意した私は、タオルで顔が隠れているのを良いことに同田貫の手をおずおずと握りしめた。

心臓が高鳴る。
もしも拒絶されたら怖い、けど、もっと、もっと。
振り絞った言葉に力を込める。
握り締めた硬くかさついた掌をゆっくりと自身の胸へとあてがった。
ぴくり、と同田貫の手が僅かに動いたのが分かった。
恥ずかしさで震える口から、想像よりも切羽詰まった声音が私から溢れ出た。

「……しよう?」

私の胸をふわりと掴んだ同田貫の動きが固まった。
吐息と共に漏れた言葉に、もう少し触れられただけでもよがってしまいそうなほど体は熱くなっている。
背中に当たるはずの同田貫の真ん中にぐり、と体を擦り付けてやると、少しだけ盛り上がったそこが硬くなっているのを感じた。
体を完全に預け、同田貫の手の上に自身の手を重ねる。
それをゆっくりと動かして胸を握らせると、一瞬戸惑ったのか私の力に反発したが、掠られた乳首に思わず私の身体が跳ね上がると、結局その力はすぐに私に従った。

「優しく、しないでいいから」

タオルで顔が隠れていてよかった。
体の中から打ち付けられるような、ともすれば痛みさえ感じられそうな程に大きく騒ぐ心臓が口から出そうだ。
骨の浮き立つ大きな掌を撫でるように握り締めて胸へと押し付ける。
躊躇うようなぎこちのない抵抗とは相反して、私の尻を微かに押し上げる熱は先程よりも硬い気がした。

「……優しくはするけどさぁ」
「……えぇ」
「えぇって……、不満か?」

同田貫の掌を間に挟んでいるだけなのに、自身の胸を触るのがどうしてこんなにも卑猥に感じられるのか分からなかった。
体を洗う時とか下着をつける時、いつも何気なく普通に触っているのに、自分一人で握り締めてみてもなんとも思わないのに。
硬い掌がささやかな胸をふんわりと包み込んでいる。
強く握り締めてくれて構わないのに。
後ろから床に押し付けてくれて構わないのに。
硬いそれを我慢できないと、そんな風に、勝手に期待して熱くなっている私にあてがって欲しいのに。

「……んん、不満、じゃぁ、ない……けど」

この前街に行った時にすれ違った、はたから見たらこちらが照れてしまいそうなほどに密着して、四六時中相手のことばかり考えて、触れれば互いにすぐに求め合う、そんな激しい関係に憧れているなんて。

「……我慢できねぇ獣じゃあるまいし。とりあえずさ、あんたは髪乾かして、それからさっき鶯丸に団子貰ったんだよなぁ。だから茶、淹れてさぁ、月見でもしようぜ」

捕まえたと思った掌は諭すような穏やかな言葉と共にするりと私の胸から逃れた。
力一杯抑えていたものだから自身の手が虚しく貧相な胸を鷲掴みにして、肉を掴んだだけの違和感に途端に、恥ずかしがこみ上げてくる。
ぐい、と私の背中を押しやった同田貫はのっそりと立ち上がると、不意にコトン、という音がした。
無意識に追い縋ろうと振り向いた時、音の主を拾い上げた同田貫が持つその形が目に入って、私は一層の恥ずかしさに唇がわなわなと震えた。

「……それ、」
「あ?鶯丸があんたに、って。マッサージ器、だとよ。今あんたにしてやろうと思ったんだけどな」

はしたない女になってしまった。
太い棒状のそれを同田貫は私に見せると、スイッチを入れてブルブルと震わせて見せた。

「なんか、ホット機能も付いてるらしいぜ。あ、入れっぱなしにしてた」

カチ、と無情な音がした。
熱く、硬い、棒状のそれは、同田貫のズボンのポケットへと無造作に入れられる。
置いてけぼりの私なんかお構いなしに、素知らぬ顔の同田貫はただただ穏やかに私に呟く。

「あんた熱いお茶がいいよな。厨行って貰ってくるから、髪、乾かしとけよ」

ただただ、穏やかなだけで幸せなはずなのに。

「……うん」

背中を向けられたその寂しさに、きっとありえないことなのに、私は同田貫が獣のように私を求める妄想ばかりしてしまうんだ。







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