テーマ『性的倒錯/医療性愛』
可符香様へ提出
タイトルは企画サイト様からお借りしています。




寝転がっているそいつを殺してしまおうかと思った。

「……同田貫?どうしたの」

俺のせい。
全部俺のせいだ。



俺が大将だった。
無茶な進軍をして、俺を庇ったそいつは本来つけなくていい深手を負った。
帰還した俺達に主が真っ先に駆け寄ったのは俺ではなく、息をするのも絶え絶えなそいつ。
すぐに治療をするからと普段は入れない主の部屋へ担ぎ込まれたそいつは、数時間、密室で、泣きそうな顔をした主をその身体に縛り付け、その皮膚に触れられ優しく介抱された。
だなんて、あぁ、考えただけでも反吐が出そうだ。

俺のせい。
俺のせいでそいつは深手を負った。
俺のせい。
俺のせいで主はそいつの看病に夜通しつきっきりになった。
飯も食べていない。
厠にも行っていない。

朝になってとうとう我慢ができなくなって、細心の注意を払い覗いたその襖の向こうに、見違えるほど美しくなった包帯だらけのそいつを主が抱きしめるように眠っていた。

俺のせいなんだ。
そいつがこんなことになったのも、主がこんなに疲弊してるのも。
俺が、こんなにそいつに嫉妬していることも。
全部。

「同田貫?どうしたの」

無意識に強く握りしめた掌から鈍い音がした。
主は俺の覗く襖の隙間から漏れた朝日に眩しそうに顔をしかめ、眠たそうな目を擦りながら無防備に欠伸をして微笑んだ。
俺が何も言えないでいると、主は独り言のように小さく零す。

「……あ、うん、大丈夫だよ。あとは目を覚ましてくれれば、もう本当に大丈夫。今は休ませてあげなきゃね」

普段も青白い肌はいつにも増して青白く、目の下にはくっきりとクマが出来ている。
それが俺のせいである筈なのに、もう俺のせいではなくて、そのやるせなさに益々憎々しさが増した。

「……、俺のせい、なのに」

身勝手な言葉がぽつりと口から漏れる。
小さく震えたその言葉に、主は驚いたように目を丸くしてそれから、大げさに首を振った。
きっと、俺のせい……いや、俺の「おかげ」で、主に手厚く看病してもらっているそいつに向けた嫉妬の言葉だなんて微塵も思っていないのだろう。

「えっ、同田貫のせいじゃないよ」

朝日がいつにも増して美しく横たわる包帯だらけのそいつの身体を照らす。
俺を慰めようと慌てて起き上がった主は、何やら身振り手振りで話しながら、それでもそいつの血に濡れた手や白装束はそのまんまなんだ。

「同田貫の『おかげ』で、重傷だったのは次郎太刀だけだったんだし、他のみんななんか無傷だよ、ね、私が悪かったんだよもっと皆にきちんとした準備させてあげてれば……、だから、ね、同田貫」

主の服にも手にもこびりついたままのそいつの血でさえ、忌々しくて仕方がなかった。
戦が終わった後なのに湧き上がり続ける殺意に、一番驚いているのは俺自身だ。
けれど主はそんなことに気付きもしない。

「……同田貫?貴方のせいじゃない。だから、そんな、怖い顔しないで」

困ったように下げられた瞳がゆるく微笑んで俺を捕まえる。
真っ黒な瞳に見据えられると、俺の興奮は冷めていく。
戦わなくていい、主は俺にいつも、そう訴えていて、俺もなんとなく、主のその願いだけは聞き入れてしまっていた。

「……でも、」
「同田貫が無傷で帰ってきてくれて、私は嬉しいよ」

俺が無意味に出した反論を遮った主は俺の手にその血に濡れた手を伸ばした。
乾いた血が俺にこびりつく。
強く握りしめていた拳は、主の冷たく細い指に易々と解かれた。

「あれ?同田貫、掌から血、出てる」

解かれた掌から滲み出していたのは真新しい赤い血。
俺が驚くより早く泣き出しそうになった主は、美しく眠ったままのそいつの傍らにあった包帯を片手で引き寄せた。
握りしめられたままの掌に主の熱が広がる。
恐らく自身の爪で傷つけたその些細な傷から、主の熱が入り込んでくるようだった。

「……あぁ、これは、」
「こんな傷、なんていって我慢しないで。怪我したら、私が全部治してあげるから」

主はそう、少し怒った風に言うと俺の掌に真っ白な包帯を巻き付けた。





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