恋は腹 (6)






『――――と、静雄は決心したみたいで。暫く池袋も静かになるんじゃないかな』
「そうか、とうとう、静雄くん。そうかぁ」

 セルティから今の状況を伝え聞いた新羅は、腕を組んで難しい顔をした。セルティ自身は、あの静雄が新たな一歩を踏み出そうとしていることがめでたい、という気持ちだったので、新羅の反応からして、そういえば臨也も数少ない友人の一人だったことをようやく思い出す。新羅としては複雑なのだろう。古くからの付き合いだった仲間が決別するということが多少のダメージになる程度には仲間想いなのだと嬉しくなると同時に、本来首があるはずの箇所から揺らめく影は申し訳なさげになった。

『ごめん。新羅としては、嬉しくないニュースだったかな』
「何で謝るのさセルティ! セルティは何も悪くないよ、せいぜい僕が仕事に専念できないくらい可愛いところが悪いところだよ!」
『仕事は真面目にしてくれ』
「ごめんなさい。いやね、僕が嬉しいとか嬉しくないとかじゃなくてね、臨也のことを思うとね……」

 うーん、と新羅は唸った。いつになく困ったような顔つきだった。

『なんでだ? どっちもお互いのことを大嫌いだっただろ? 臨也も、もう静雄が追いかけてこないんだ。喜んでるんじゃないのか?』
「それがねぇ……。セルティ、臨也がすごく不機嫌そうな顔だったって言ったよね?」
『ああ、そうだった。でもそれは、当然じゃないのか? 『絶交だ!』『ああ、言われなくたって!』と、そんな話があってニコニコしてたら不気味だろう。うーん、でも臨也だからな。ようやく静雄が消えてくれると大喜びしてもいいな。この反応が、何かおかしいのか?』
「あながち」
『え?』

 唐突に発せられた言葉に、セルティは首を傾げる。

「二人は、お互いのことを嫌いなんかじゃないのかもしれない」
『は?????????????』
    
 セルティが「?」を立て続けに入力するのを、当然の反応であると頷きながら見、新羅は続けた。

「かもしれない。というか、確実に臨也はそう。臨也は静雄のことが、高校のときから好きだった」
『 』
「絶句、だね、セルティ」
『いや、いくらなんでもそれはないだろう! 新羅、どうした。疲れてるんじゃないのか?』
「実際私は、臨也から恋愛相談を受けている」
『なんだそれ!? 私は知らなかったぞ!』
「あいつの歪みっぷりは知ってるよね? まともな恋愛なんてできないさ」
『いいいい今まで、ずっとか? 静雄を挑発してボコボコにされてやれ死ねだ嫌いだと愚痴りながら治療を受けてたのも、ぜぜっぜぜ全部嘘か!?』
「本心ではないだろうけど、嘘でもなかったと思う」

 セルティが『よくわからないぞ』と入力するが早いか、新羅は立ち上がり、セルティと自分のお茶を淹れると、ソファーの方へ招いた。

「臨也に電話する前に、昔話をしてもいいかな。昔の静雄と臨也の話だ」

  
 
  
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