1/3 人間が寝静まった夜、この学園内に与えられた部屋のベランダに出て、月を見上げた。夜はあまり眠れなくなって、昼は少し眠気がするような感覚。少し肌寒い風を感じながらも、手元にあるタブレットを見た。ジャラリとタブレットが動いた音がするだけでなんだか吐き気がする。これを飲めば少しは楽になるのに。どうしてだろう、すごく気持ち悪い。それでも飲まなくてはならない。 「時々、いるんだよ」 「理事長さん・・・ノック、してください」 「ああ、ごめんごめん」 もうすっかり眠ってしまったと思っていたが、まだ起きていた理事長さんが勝手に部屋に入ってくると、ベランダに出ている私の横まで歩いてきた。正直、この人はよくわからない。私は人間ではないとわかっているのに、どうしてここに置くのだろう。もしかしたら、貴方を傷つけてしまうかもしれないのに。 「いるんだよ。タブレットを受けつけない、ヴァンパイアがね、零も君と同じだ」 「・・・そうなんですか、」 でも彼は、私と同じで違う。私はこのまま化け物になってしまうかもしれない、もう充分、人と違うけれど。欲望を抑えられない、化物に。いずれ、成り下がるだろう。でも彼は、もう覚悟も、瞳も、なんだか違う。ちゃんとした、ヴァンパイアになっているのだ。私は、ただのおかしくなるかもしれない、化け物。 「・・・レベルE化はいずれやってくるんですね」 「まだ抑えられる、君には術式を受けてもらう」 「それで、抑えられるんですか・・・?」 理事長さんの顔つきは、歪まず、笑うこともしない。ただ私を見つめて、唇を小さく動かした。 「少しなら抑えられる。だが、君の場合はわからない。こんなにも早く症状が出るとは思ってもみなかった」 「・・・、」 戸惑うことも、できないくらい早い時間。人間であった時と、今の自分。以前のことを何も覚えてはいないから、人間だった頃の自分に「さよなら」もできなかった。でも身体は正直で、変わった生活感を、実感している。 「零もつけている刺青、あれと同じものをつけてもらうよ」 「・・・・・・ヤンキーみたいになりますね」 「まぁ・・・零は元々あんな感じだから」 くすりと笑った理事長さんいわく元々目つきが悪い零だけれど、あの目つきの悪さは相当なものがある。なんだか真っ黒に染まった心をひめているようで、時々虚しくなる。 「それと・・・君にはこの学園の高等部に入ってもらおうと思って」 にっこりと笑った理事長さんに思わず唖然となる。 「君は少し勉強したら学力もすぐに元通りになっただろう?優姫と同じ歳なんだから一緒に風紀委員になってもらおうと思ってね」 「・・・・・・はぁ」 なんだかすごく面倒なことになりそうな予感がした。それよりも、私を人間たちの群れに放り込むのか、なんて考えをもっているんだ。この人は、私を危険扱い、しなくてはならないのに・・・。 *** 「痛かっただろう、頑張ったね」 「いえ・・・」 右手に刻み込まれた刺青、まだじんじんと痛みが残っている。数週間は消えないこの痛みだったが、あまり痛くはないような気がした。もっと壮絶な痛みを味わったことがあるような気がして。その時よりは比べ物にならない痛みなのではないのだろうか、と 「それとね・・・君の名前はNO NAME。君の家のデータを調べたんだ」 その時告げられた自分の名前に、少し違和感を覚えたのは、なぜだっただろうか 「あと・・・君にはお兄さんがいることがわかったんだ。お兄さんはとうに成人して家を出ているから、・・・生きているよ」 「私にはもう、関係ないです」 知らない兄、は化物になった私を受け入れてくれるはずなんかない。理事長さんは少し切なげに、小さく笑ったような気がする。その答えを分かっていたように 遠い感覚を感じて [しおりを挟む] |