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「血臭がした」

「・・・うん、ちょっと手切っただけ」

ナイトクラスに戻っていったヴァンパイアの次は零が現れた。彼の顔が歪むと私の右手に視線を移す。傷はもうない。すぐに治ってしまった、あの感覚がなんだか気持ち悪くてたまらない。本当に自分は人間ではないと実感する感覚、残っていた血をペロリと舐め取ると、血の味が口中に広がる。“変な味がした”・・・知らないそんなの。私の血が美味しいはずがない、自分自身も自分の血では満たされない。この牙を使ったことはないが、自分の血を飲もうと思ったことはない。

「・・・・・・なに?」

零の鋭い目線が気になる。彼には見られていないはずだが、その目線は何もかもわかっているような、そんな瞳で。少し、不安になる。なんでも見透かされているようで。

「・・・刺青」

「ああ、これか、零とお揃いにしてもらった」

零の首筋にある刺青とまったく同じのものが右手にある。ひらひらと手を上げれば、それをあっさりと零の腕で掴まれてしまった。

「お前は・・・大丈夫、なのか・・・?」

それはなにを表しているのか、何を言っているのか、わからないわけではなかったけれど、答えはしなかった。零は眉を寄せると、殺気立つように私を睨みつけた

「俺は気持ち悪い・・・、あの女に噛まれたところが、俺自身が」

あの女、零を変えた、純血種。零にとっては、その人はすごく恨めしい相手で。多分、殺したいと思っているのだろう、後悔のぶんの怒りも全て、あの女に向いているのだろう。私は・・・?なぜ、恨まない。なぜ、あの男に噛まれたところを気持ち悪いと思わない

「・・・・・・わかんない、頭がごちゃごちゃになるんだ」

記憶がない私にとって、今は何が真実で何が嘘で。何が本当の自分で、どれが偽物で。彼を恨んでいるのか、自分から受け入れたのか。わからない、わからないから、何も考えられなくて、虚しくなる。怒りなど、とうに忘れてしまったかのようなのに。でもどこかに残っている。

「・・・そうか」

零は私の腕を離すと、小さく息を吐き出す。

「いつか私たちも、レベルEになるんだよね」

「・・・なるとしたら、俺の方が先だ」

「でも、私は症状が出るのが早すぎるって理事長さんが言ってた」

私もそう思う、この欲望が溢れ出す感覚に慣れないまま、本能に従いそうになる。危ないんだ、私は。そうなる前に、零に殺してもらわないといけないのに

「・・・零は、私より先に堕ちないでね」

「無理言うな」

「困るよ、だって約束した」

そして零はどこか虚しい瞳を浮かべて、私を見るのだ。

彼は約束した、その時になったら殺してくれると、




だからそれまで私は


生きるのだ

   

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