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「私、貴方が好きだった」

こぼれ落ちた涙が頬をつたって、落ちていく。ひどくゆっくりに感じた瞬間だった。目の前の彼女はただ涙を流してこちらを眺めては小さく笑う。彼女の腹部に埋まっている剣、それを掴んでいる自分の手は、揺れていた。震えるように、

揺れていた。

どうして、何が起こったのかも理解できぬままただ呆然とするしかなかった。悪魔だと思って殺した相手は、自分が好きだった彼女の姿に変わった。いや、戻った。底光りする彼女の瞳は徐々に光を失っていくように、焦点が合わなくなっていく。行かないで、と吐き出したくなった。違う、俺が殺したんだ。胸の中で響く声はやがて苦痛に変わり、自分の首を絞めたくなった。どうして、嫌だ。なんでこんなことになるんだよ。

「私ずっと燐を騙してたの、悪魔なの」

でももう終わりだね、そう小さく囁く彼女の唇はゆっくりと止まって、また小さく笑うだけだった。剣をゆっくりと引き抜けば、ドサリと倒れる彼女をまた呆然と見つめて、息が止まる瞬間まで何も言えなかった。そして彼女の視線がこちらに向いて、そしてまた自分の名前を囁いたとき、ゆっくりと、彼女の瞳が閉じられた。

触れれば冷たい身体に、もう動かない手。何も動かない、冷たい、嫌だ。じきにこぼれ落ちたものは自分の涙だった、俺はなんのためにここにいる。彼女を守ると誓って俺は生きてきたんだ。悪魔と呼ばれる俺を守ってきたのは彼女だったから、俺は彼女を守ると誓った。なのに、どうして俺は彼女を殺したのだろう。彼女が悪魔であっても、どうして彼女だと気づかなかったのだろう。

「・・・う、あ」

掠れた声は彼女に届くことなく、響き渡った。鳴り響く叫びは誰にだって届かない。一番届いて欲しい人には絶対に届かないんだ。なんて、悲しい。なんて、虚しい。聞こえた足音に小さく笑うと、頭に何かを突きあてられる感覚を感じた。それは銃口だと、よくしった銃口だと理解した。そしてなぜ自分が銃口を当てられなければならないのかも分かっていた、彼女を好きだった一人きりの弟、

「兄さん」

「殺せ、雪男、殺せェ!!!!」















     

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