Saigo no koibito The last LOVER ―――また、この季節が巡ってきた。 この季節は君に近づけるような気がして好きです。――― 「ん〜。」 昼寝から目覚めればもう、日がすっかり落ちていた。 ふぅ、と1つため息をつき、ベッドから出ると、目に入ったのはカレンダー。 【12/25】 クリスマスなんだ、とぼーっとする頭で考え、カーテンを開ければ、雪がはらはらと降っていた。 ああ、そういえば昨日ティキとケーキ食べたなあ、なんて思い出し、着替えて外に行くことにした。 折角のクリスマスだ。 ノアのことも、アクマのことも、イノセンスのことも忘れて、ただ1人の少女として外に出たい。 だってクリスマスって誰かの誕生日なんでしょう? あたしだっておめでたい気分になりたいもの。 もう、何度目だろう。 この屋敷で迎えるクリスマスは。 3年目。 3年前、エクソシストだったあたしは、ノアメモリーを受け継いだ1人だった。 「恋人」のメモリーを受け継いだ使徒。 ああ、神様これは残酷すぎますよ、と運命を呪った。 だからと言ってどうにかなるわけでもなく。 完全にノアに覚醒したあたしは、その時まだ敵だったノアにイノセンスを破壊され、伯爵側につくことを決意した。 どうしてだろう。 なにか、思い出せない。 なにか決意をするに至る理由があったはずなのに。 思い出せない。 あっさりとこちら側に来たのだろうか? 忘れたかったのだろうか。 白いロングコートを着て、髪を高いところでポニーテールにし、マフラーを首に巻いて、屋敷を出た。 外に出ればそこは普段とは少し違う白銀の世界。 吐いた息が白い。 「さむいわ…。」 寒いのは嫌いだ。 ざくざくとブーツが雪を踏む音が響く。 街に降りると、そこはイルミネーションをされていて、きらきらと輝いていた。 「わあ…綺麗…。」 その風景に見惚れながら街路樹の下を歩く。 こんなに素敵な世界なのに、壊してしまおうとする伯爵の気持ちがわからない。 イルミネーションに気を取られ歩いていると、突然、がくんっと腕に衝撃が走り、後ろに思い切り倒れこんだ。 「きゃっ…!!」 ドサッと倒れこむが、痛くないし、冷たくもない。 よく見れば自分の方には腕が回っていて、地面に落ちないようにしっかりと抱きかかえられていた。 「…?」 不思議に思い上体をお越し、後ろを振り返る。 「え…?」 視界がそれをとらえた瞬間、あたしの時が止まった。 どんどん巻き戻されていく記憶。 教団にいたころの…。 赤いラインの入った団服。 長い黒髪に…整った顔立ち。 「ユ…ウ…?」 なぜか口から零れた名前。 あたしの下敷きになった男は、悲しそうな瞳であたしを見据えた。 「…生きてたんだな。」 それを聞いて、ハッと現実世界に戻る。 誰だろう、この人は。 立ち上がり、お互いを見つめると、身長さ約30p。 150以下と180以上では見ている世界が違うだろう。 お互いを見上げ見下ろし、見つめ合う。 「……??だれなの…?」 あたしがそういうと、男は面食らったような顔をして驚いた。 「…悪い冗談か?」 鼻で笑いながらそう言うと、男はあたしの手を取った。 「お前、みおだろ?」 「…どうしてあたしの名前しっているの…?」 「お前を愛していたから。」 その言葉を聞いて、また記憶が巻き戻された。 「愛してる。」、「愛してる。」と何度も繰り返される言葉。 そして、過去の映像。 そのぬくもりを求め抱きしめあい、キスをして、体を重ねて…。 酷く懐かしい。 無くしたものを見つけたような気になる。 「……寒いわ…。」 「あぁ。」 男はあたしを抱きしめた。強く、離さないとでもいうかのように。 あたしはこの暖かさを求めていた気がする。 ずっと、理由を探していた。 ずっと、記憶が見つからなかった。 「あなただったのね…ユウ…。」 ツゥ、と一筋の涙が頬を伝う。 ――時々…いや、常に感じていた寒さはこれだったのね。 いつもない記憶を探って、いつもどこかで、あなたに恋焦がれていたのね。 「愛してるわ…ユウ…。」 「あぁ。俺もだ。愛してる。」 ずっとこうしかたったんだ。 ずっとずっと、求めてやまなかったのは、「神田ユウ」という存在だったんだ。 やっとわかった。 「あったかい…。」 目を閉じればそこに有る確かな記憶に、ほっとする。 「もう二度と、離さないで…。」 「は。離すわけねェだろ。」 (恋人:恋しく思う相手。普通、相思相愛の間柄にいう。) ******************************************** クリスマス小説第二弾です。 結局切ないものになる。 しかもタイトルといろいろ食い違っている。 詳しい設定もあるんだけど… 見ないであいまいなままに…って人がいるかもしれないので 白文字で書きます↓ 主人公はもともと装備型エクソシストだった。 だが、3年前、ノアにイノセンスを離されてしまう。 理由は、ノアメモリーに覚醒し、イノセンスを拒絶し始めたから。 それでもイノセンスを離そうとしなかった主人公を見かねて、 ティキは、「俺たち側に来なきゃ神田ユウを殺すぞ」と 脅しをかける。それによりノア側に行ってしまう。 「神田ユウ」に関する記憶は消され、3年間生きてきた… そして再開して、思い出した…とか。 そんな意味の分からん話です。 もともとこのお話、ティキが主人公にベタ惚れで、 どうちゃらこうちゃらって話だったんですけど…。 そっちも書こうかな。 2012/12/14 ←Back |