「最悪のクリスマスね。」
吐き捨てたセリフは、だれが聞いていたわけでもなく、ただ自分の耳だけに残った。

世間では今頃、恋人たちが愛を確かめ合っているころだというのに。
あたしは何?アクマ退治?クリスマスまで出てこなくていいじゃない。


頭の中で軽く愚痴を零し、踵を返した、その時、なにか気配を感じ振り向いた。
「だぁれ?」

…返事はない。猫だろうか、はたまた犬か…。
「あれ、みおじゃん。奇遇だな、こんなとこで会うなんて。
残念敵でした、なんて。
「あら、ティキ。奇遇ねこんなところで会うなんて。」

あたしは見せびらかすようにそこらへんに転がっているアクマの頭をヒールの部分で蹴とばした。

「本当、奇遇ね。」
「なにー、また怪我したの?」

そっちかよ、とツッコみたくなる。
なぜ敵の怪我の心配をするのか、この男は分からない。

心配したかと思えば、怪しく微笑みながら近づいてくる。
あたしは2、3、4と後ずさりをして、踵を返し走り出そうとした。
だが、その行為は全く無意味で、ほんの1秒でティキに手を掴まれる。


「まぁまぁ、逃げるなって、な?」
「逃げるわよ、まだ死にたくないもの。」
「…お前は殺さないよ。」
「はぁ?敵に情けを売るつもり?あたし、返さないわよ。」
「ほんとだって。たとえせんねんこーの命令でも、オレはお前を殺さない。」

そういったティキの瞳はどこか悲しそうで、見てるこっちまで悲しくなる。

「……なんでそんな顔するのよ。」

「んーなんでだろうな。」

運命を呪いたいとたまに思う。
どうして神はあたしを使徒に選んだのだろうと。
どうして神は彼を使徒に選んだのだろうと。

「運命を呪いたいってやつ。」

「奇遇ね、同じことを考えていたわ。」

むしろ生まれ変われたらいいのに、と思う。
新たな人生を歩んで、またどこかであなたとあたしの人生が交差すれば、いいのに。


「俺たちはさ、愛し合っちゃいけないんだよ。」

「知ってるわよ、言われなくたって。第一、あなたのことなんか愛さないわよ?」

「おー、ここで反発する?」

ティキはあたしの腰に手を持っていき、自分の方に抱き寄せた。
お互いの体がぴったりとくっつき、片手は頭の後ろに回される。
逃げようとしても、逃げられない。

「なぁ、言ってよ。」
「何をよ。」
「愛したいんだろ?本当は。」
「誰をよ。」
「オレを。」
「…聞いてあきれるわね。」

ふん、と鼻で笑いながら言うが、目を見られない。
その目を見たらあたしはあなたに「想い」を伝えてしまうから。

「なんでダメなんだろうな?」
―――本当よ、愛し合ってはいけないと誰が決めたの?
「知らないわよ。」

「こんなに愛してるのにな。」
―――えぇ、そうね、きっと誰よりも愛してるわね。
「馬鹿言わないで。」

「なんで素直に言ってくれねーの?どうせ誰も聞いちゃいねェよ。」
「…うるさいわね。」

決まっているじゃない、言ってしまったらもう後戻りはできないのよ。
あなたと離れるくらいなら死んだ方がマシよ。

「オレ今すっげー幸せなんだけどなぁ。」
「どうして?」
「クリスマスを好きな女と過ごせてるんだぜ?」


あぁ、そういえば今日はクリスマスだったわね…。
あたしも幸せなのよ。

「えぇ…。」
「ん?」
もう二度と会えなくなるくらいなら。
どっちにしろ会えなくなるのだろうから。
言ってしまえばいい。

すべてを。

「ねぇ、愛してるわ、ティキ。」
「お、素直になった。」
「誰よりも愛しているわ。だから約束しましょう?」
「約束?」
「えぇ、もしすべてが終わってしまったらね――――――。」

「あぁ、待ってる。」
ティキはその手であたしの目を隠し、そのまま唇を塞いだ。

その一瞬のキスが、一生のキスになるかも知れなのね、ティキ。
もう触れることすらできないかもしれないのね。

残酷ね。
なんて幸せで残酷なクリスマスなの…?
愛してはいけないと決めたのは誰?
愛してはいけないようにしたのは誰?


ねぇ、その誰かさん。
あたしはもう、彼に堕ちたわよ。

残念だったわね。




「また生まれ変わって出会いましょう?
あたし、あなたに会いに行くわ」




きん‐だん【禁断】
[名](スル)ある行為をかたく禁止すること。「殺生を―する」




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ヒント:切ない
結局何でも切なくなるんですね…。
ティキは結構書きやすくて書いてるのも楽しいんで
これからどんどん増やしていきたいですね。
クリスマスにしては少しずれた話かなあって思います。
「残酷なクリスマス」もいいかなあと思って
書いた作品です。
実際あったら嫌だ。プレゼントがもらえないとか。



2012/12/14







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