記憶の彼方


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37章


「おっし、今のうちに主砲の修理だ」

『シン』が墜落し攻撃の手が休まった今、壊れた主砲の修理に向かうシドさん。
今までの疲労を回復させよう、このあとに待ち構えている激戦に備えようと各々が行動を始める。


「ジェクトさん、苦しんでないかな……」

私は当たり前のようにアーロンさんといるわけで。

「さあな。あいつは体力だけが自慢の奴だったからな。案外まだ元気かもな」

その距離はゼロ距離といっていい程近い。
ハイポーションを飲みながら『シン』が堕ちたあたりを眺めている。
こんなところをジェクトさんに見られたらひやかされて大変だろうな。
今にもあの陽気な声が降ってきそう。

「ふふ……そんな言葉聞かれたらまた怒られますよ」

ジェクトさんの声が容易に脳内再生されて顔が綻ぶ。
最終決戦前だというのに戦友に会いに行ける、そんなわずかな懐かしさを感じていた。

「……ジェクトのほうばかり見てないでこっちを見てくれないか」

「え……」

過去の思い出に浸っていたところを現実に戻される。
振り返れば寂しそうな顔をしたアーロンさんがいた。
思わずその顔を見たら謝罪の言葉が口をついて出た。

「あ……ごめんなさい」

「ふ……何で謝る」

そう言いながらそっと私を抱きしめてくれる。
落ち着くなぁ……これが一番の回復方法かも。

「……そのハイポーション、俺にもくれ」

「あ、はい。どうぞ」

ついさっきまで飲んでいた右手にあるハイポーションをアーロンさんに渡す。
自分用に持ってこなかったんだ、アーロンさん。
……あれ?これって間接キスじゃ……
喉を鳴らしながら飲むその姿に男らしさを感じ、かっこいいなぁなんて口をぽかーんと開けて見上げていたようで。

「……物欲しそうな顔をしているな」

アーロンさんは意地悪そうに口角を上げ、ハイポーションを一口くちに含むと私の目を見る。
そして優しそうな、色っぽいような目で迫ってくる。

「ん……!」

口を塞がれ、口内に広がるハイポーションの味。
溢れないように飲み込もうとするも、すぐに舌が入ってきて犯される。
行き場を失った液体は二人の合わさる口の隙間から溢れて流れた。

「んっ…くっ……はぁ……」

苦しくてでも愛しくて、全部を受け入れたくてアーロンさんの背中に回す手に力が入る。
溢れた液体は私の首筋をも伝って流れていく。
それを追いかけるようにアーロンさんの舌が私の体を這っていった。

「あっ……!」

身体中に電気が走る感覚。
崩れそうになる体をアーロンさんが支えてくれる。

そんな時だった。



「皆!どこにいるの!?『シン』を見て!」

リュックの声に、甘い快楽に身を任せていた私は現実に引き戻された。
はだけた服を整えて、さっきまで見ていた方へ視線を向ける。
そこには大きな羽を広げ今にも飛び立とうとする『シン』がいた。

「ジェクトさん……」

明らかに不機嫌な態度で私の隣に立つアーロンさん。

「いつまでもタイミングの悪い奴だ」

その言葉が聞こえているのかいないのか、広げた羽を羽ばたかせて『シン』は飛び立った。





「ジェクトは……待っているようだな」

ブリッジに集まった私達はベベルの寺院に留まった『シン』を前に作戦会議をしている。

「オレたちゃどうすりゃいいんだ。言っとくがもう援護はできねえぞ」

「もうどうもこうもないだろ。正面から行く」

主砲の修理が完了する前に動き始めた『シン』に、シドさんは何も出来ないと言うがティーダはさも当たり前のように正面突破を提案する。
仲間を見渡すティーダに皆は頷き、無言で賛成の意思を伝えた。

「おっし、ヤツの口の正面につけろ!」

アニキさんに指示を出し、

「ちっとでもズレたらその髪の毛むしってやるからな!


と、脅しまで付け加えるシドさん。
むしりやすそうな髪だよねと内心思ったのはナイショ。

「まかせろ オレに 送ってやる 間違いない ッス」

片言だけど、私達にわかるようにアルベド語を使わないで話してくれる。

「また甲板から飛び移ろう!」

……また飛び移るのか。
やだなぁ……いや、あの高さですよ?
普通躊躇するでしょ?
この人たち簡単にやってるけど普通じゃないよね?
助けを求めるようにアーロンさんを見上げると、私の気持ちに気づいてくれたのか、

「ふっ……また抱えてやる」

と一言。

……お世話になります。


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