記憶の彼方


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32章


真っ白な世界。
色んなものが頭に、体に流れ込んでくる不思議な感覚。

これは……記憶。

10年前の記憶。
このスピラに来る前の記憶。
1000年前のザナルカンドの記憶……

空っぽの器に流れ込んでくるその記憶達を瞳を閉じて受け入れる。

そして全てを受け入れた後、ゆっくりと瞼を開きまた閉じる。
頬を一滴の涙が伝った。


「やっと思い出したようだね」

「エボン様……」

後ろを振り返れば、夢で何度もお会いした男性。
全ての記憶を取り戻した今なら分かる。

彼は……私の御先祖様。


1000年前の機械戦争の時にザナルカンドから別世界に飛ばされたエボン様の妻。
彼女は身籠っていた。
別世界でその子を産み、育て上げた。

そして時は巡り、私が産まれたんだ。

先祖代々受け継がれてきたこのペンダント。
これがエボン様の末裔である証。
ユウナレスカ様はこれを見て私を母だと勘違いしたのだろう。

「娘は……ユウナレスカはあれでもこのスピラを必死に守ろうとした。究極召喚は彼女なりの正義なんだ」

究極召喚……絆の強い者を祈り子として召喚する秘技。
それをユウナレスカ様は1000年前に編み出した。
破壊し続ける『シン』を止めるにはそれしか方法がなかったから。
ユウナレスカ様はスピラを守りたい一心だった……

……だけどそれでは『シン』は必ず復活する。
そして破壊を続ける『シン』を止める為にまた悲しい生け贄を差し出さなければならない。
そんなことが1000年もの間、繰り返されてきた。
『シン』の犠牲になった人はどれ程いるのだろう……
きっと想像もつかない数字なんだろうな……

「分かっています……でも、究極召喚なんてやめさせなきゃ……『シン』が居続ける世界なんて」

「ああ……私も召喚し続けるのは疲れてしまったよ。だけど私にはもう何も出来ない。こうやって君と夢で話すのがやっとだ」

「エボン様……」

「1000年前の私達の……私の自己満足の為にしてしまったことを君に託すのは本当に申し訳ないとは思う……だが、君にしか頼めないんだ。そのペンダントは私と繋がっている。そこから君に魔力を送るよ。頼んだよ……サクラ」

「……はい」

私はしっかりとエボン様を見つめて頷き、目を閉じた。


―――――


私が目を覚ますと、そこはやっぱりアーロンさんの腕の中。

なんか……恒例になってきたな……これ。

「サクラ!!」

「アーロンさん……また心配かけてごめんなさい」

「……夢を見ていたのか?泣いていた……」

そう言って大きな親指で私の涙を拭ってくれる。

「はい……私、思い出しました……」

「何……?」

「10年前のことも……私が何故このスピラに来たのかっていうことも……」

「……」

辺りを見渡せば沈んだ様子のメンバー達。

「サクラ……」

「ユウナ……?」

「あのね……ユウナレスカ様が……この中の誰か一人を祈り子にしなければいけないって……」

ああ……
究極召喚か……

「誰かが祈り子になる必要があるなら……私いいよ」

「俺もだ、ユウナ!」

ルールーやワッカが申し出る。

「それじゃあ、オヤジ達と一緒だろ!ナギ節つくって……そんだけだ!また復活しちゃうだろ!」

ティーダの言う通りだ。
同じ事を繰り返しては何も変わらない。

「大丈夫。そんなことさせない」

「サクラ……?」

「何か考えがあるのか!?」

ワッカの言葉に頷く。
そしてユウナを見て、

「もう一度ユウナレスカ様と話したいんだけど、いいかな」

「うん……私も話、聞きたい」

「俺も!話聞いて……考えたい」

そうだよね……
すぐに私が答えを出してはいけない。
ユウナ達が自分達で考えなきゃ……
この子達はこの死の螺旋を止めようとしている。
私はそれをサポートすればいいんだ。

大丈夫。
素直なこの子達なら間違った方には行かない。

見守っていこう。

「でもさぁ、聞いたら何とかなるのかなぁ?」

リュックが不安そうに聞いてくる。

「さぁな、わかんないけど。俺の物語……くだらない物語だったらここで終わらせてやる!」

「待って。ねぇ……私にとっては私の物語なんだよ。振り回されてちゃダメ。ゆらゆらゆられて流されちゃダメ。どんな結末だってきっと後悔する。そんなの……嫌だ。私……決める、自分で決める!」

ティーダ、ユウナの強い瞳。
私達は顔を見合わせ頷いた。


皆が奥の間へと進み、その後に続こうとすると後ろから声がかかる。

「サクラ」

「アーロンさん?」

「何か無理をしようとはしていまいな?」

「いえ、そんなことは……この先はあの子達が決めること。私はそのサポートをしようと思います。アーロンさんもそのつもりでユウナ達をここまで導いてきたんですよね」

「まぁな……後はあいつらが決めることだからな。余計な口出しはしないさ」

「何だか私達、保護者みたいですね」

「ふっ……世話のやける子供達だな」

「ふふ……そうですね」

私達は二人、肩を寄せ合って扉をくぐった。


―――――


『祈り子となる者は決まりましたか?誰を選ぶのです』

扉の先にはユウナレスカ様が待っていた。
ユウナを見るなり答えを求める。

「その前に教えてください。究極召喚で倒しても『シン』は絶対によみがえるのでしょうか」

『『シン』は不滅です。『シン』を倒した究極召喚獣が新たな『シン』と成り代わり……必ずや復活を遂げます』

「それでオヤジが『シン』かよ……」

『『シン』はスピラが背負った運命。永遠に変えられぬ宿命です』

永遠に……
その言葉にワッカやルールーの表情が驚愕のものへと変わる。

「永遠にって……でもよ!人間が罪を全部償えば『シン』の復活は止まるんだろ?いつかはきっと何とかなんだろ!?」

『人の罪が消えることなどありますか?』

「答えになってません!罪が消えれば『シン』も消える……エボンはそう教えてきたのです!その教えだけが……スピラの希望だった!」

声をあまり荒げることのないルールーの悲痛な叫びがこだまする。

『希望は……慰め。悲しい定めも諦めて受け入れる為の力となる』

「ふざけんな!」
『ふざけるな!』

ティーダの叫びと同時に昔のアーロンさんが映し出される。

『ただの気休めではないか!ブラスカは教えを信じて命を捨てた!ジェクトはブラスカを信じて犠牲になった!』

『信じていたから自ら死んでゆけたのですよ』

『うわああああああ!!』

「アーロンさんっ!!」

幻だと分かってはいてもユウナレスカ様に斬りかかろうとするアーロンさんに手を伸ばしてしまう。
その手にアーロンさんが触れることはなくて、逆にユウナレスカ様に吹き飛ばされこちらに飛んでくる。
その体は真っ赤な血に染まっていた。

「あっ……あ……!!」

息が上手く出来ない。
自分の心臓の音がうるさい。
今胸を触れば心臓を握り締めることができるんじゃないだろうかと思うくらい拍動を感じる。
あの血の量、傷の深さ……致命的だ。
今のアーロンさんが死人だとは分かっている。
分かっているけど、もしかしたら……
そう思う自分がどこかにいたんだ。
それなのに……それだから現実を突き付けられ胸が抉られる。

「サクラ……落ち着け。もう10年も前のことだ」

「アー…ロン…さんっ!!」

私の目からは大粒の涙が流れ、たまらずアーロンさんにしがみついていた。
あの場に私がいたら?
何か変わっていただろうか。
アーロンさんを止めることが出来た?
それともアーロンさんと一緒に怒りに任せて返り討ちにされてた?

どうすることも出来ない過去の映像は、私の頭を心を掻き乱して消えていった。



ユウナレスカ様は表情一つ変えない。

『究極召喚とエボンの教えはスピラを照らす希望の光。希望を否定するのなら生きても悲しいだけでしょう。さあ、選ぶのです。あなたの祈り子は誰?希望の為に捧げる犠牲を』

さも当たり前のように言葉を並べるユウナレスカ様。
それが彼女なりの正義。
そうはいっても簡単に命を捧げよなんて言葉を口に出す彼女に苛立ちを感じずにはいられない。
私は奥歯をぎりっと噛み締めた。

「……嫌です」

そんな時聞こえた否定の言葉。
その言葉を出したユウナの方に顔を向ける。

「死んでもいいかと思ってました。私の命が役に立つなら……死ぬのも怖くないって。でも……究極召喚は……何一つ変えられないまやかしなのですね」

『いいえ、希望の光です。あなたの父も……希望の為、犠牲となりました。悲しみを忘れる為に』

「「違う!」」

ブラスカさんのことを……昔の戦友のことを言われ、私は黙っていられなかった。
ユウナと叫び声がかぶる。
私はアーロンさんから離れ、ユウナの隣に立つ。
ユウナがこちらを向く。
ユウナに一つ頷いてユウナレスカ様に視線を移す。

「ブラスカさんは……悲しみを忘れる為に犠牲になったんじゃない。次こそは『シン』は復活しないかもしれない……スピラの悲しみを消しにいくんだ……そう言ってた」

「サクラ……?思い出したの!?」

「うん……」

軽く笑顔を作って首を傾げる。

『消せない悲しみに逆らって何の意味があるのです』

「父さんのこと……大好きだった!だから……父さんに出来なかったこと、私の手で叶えたい!悲しくても……生きます生きて戦って、いつか!今は変えられない運命でも、いつか……必ず変える!まやかしの希望なんかいらない……!」

『哀れな……自ら希望を捨てるとは。ならば……あなた方が絶望に沈む前にせめてもの救いを与えましょう』

そんな……!
ユウナレスカ様は戦闘体勢に入る。
咄嗟に私はユウナレスカ様の前に飛び出た。

「ユウナレスカ様!私が分かりますか!!」

ユウナレスカ様を止めたくて、一縷の望みにかけて必死に声をかける。

『……いいえ。どこで拾ったかは存じませんが、それは私の母のペンダント。あなたが持っていていいものではありません。母はあの戦争の際、命を落としたのですから……』

「いいえ……これは私の先祖代々から受け継がれてきたもの。あなたのお母様は、お父様……エボン様によって別世界に飛ばされていた。あの戦争で死んでなんていない。……私はその子孫です」

皆の目が見開き、私に注目する。

『そんなことが……でたらめを言うものではありません!』

「でたらめなんかじゃありません。私は夢でエボン様とお話をしました。エボン様は、この死の螺旋を終わらせてくれ……そうおっしゃっていました」

『父が……?……っ!!そんな方法はありません!!究極召喚が『シン』を倒せる唯一の方法なのです!!』

ユウナレスカ様は激昂し、異形の姿へと変貌していく。

だめだ……
止められなかった……

もうこうなってしまっては戦うしか道はない。
だけど皆は……?
究極召喚の真実を知って尚、生きる道を選んでくれるだろうか。

その時アーロンさんが叫ぶ。

「さあどうする!今こそ決断する時だ!死んで楽になるか、生きて悲しみと戦うか!自分の心に感じたままに物語を動かす時だ!」

アーロンさんの言葉に皆は武器を構え、不適な笑みを浮かべる。

「キマリが死んだら誰がユウナを守るのだ」

「あたし、やっちゃうよ!」

キマリの後にリュックが続く。

「ユウナレスカ様と戦うってのか?冗談キツイぜ……」

「じゃあ逃げる?」

「へっ!ここで逃げちゃあ……俺ぁ、俺を許せねぇよ。たとえ死んだってな!」

「……同じ事考えてた」

ワッカとルールーが前を見据える。

「ユウナ!一緒に続けよう、俺達の物語をさ!」

ティーダの言葉にユウナが大きく頷く。

「皆……アーロンさん、私達で歴史を変えましょう!」

「ふっ……10年待った甲斐があったな。行くぞ!!」

「はいっ!!」

強大な敵を目の前に、私達の顔は皆笑顔だった。



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