記憶の彼方


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31章


山頂から見下ろすは目的地。

「あれがザナルカンド……」

皆思い思いに今は遺跡となった最終目的地を見下ろす。

「皆ほんとにいいの!?あそこに着いたらユウナは……」

その場に響くリュックの悲痛な声。

いいはずはない。
だけどユウナの決意を鈍らせることも出来ない。
どうすることも出来ず、皆は黙ってしまう。

「リュックの気持ちはとても嬉しいんだ。でもね……もう引き返さない」

「引き返せなんて言わないよ。でも考えようよ!ユウナ助かる方法、考えようよ!」

「考えたら……迷うかもしれないから」

「ユウナ……」

ユウナは泣きそうなリュックをそっと抱き締める。
その時ユウナが何かを落としたように見えたが……

「ありがとうリュック……大好きだよ」

その二人の雰囲気に落とし物からは目を背けた。

「いやだよユウナ……そんなこと言っちゃいやだよ」

「シドさんによろしく」

「いやだよ……自分で言いなよ」

「お願い」

「そんなこと言わないでよ……もう会えなくなるみたいでいやだよ!」

従姉妹同士の別れを連想させるやり取りを何とも言えずに眺めていたが、ユウナ自身がその会話を止めた。

「キマリ、行こう」

ユウナが歩みを進め、皆は彼女に付いていく。
ただ静かに……

そんな中、ティーダが後ろで歩みを止めていることに気付くメンバーはいなかった。

後は山を下るだけ。
足を一歩前へ進めるごとにザナルカンド遺跡はどんどんと手の届く所まで近付いてくる。

目指してはいたけど辿り着きたくなかった場所。

皮肉にもそこは夕陽に照らされ、美しく見える。
幻光虫も舞い、更に幻想的な雰囲気を醸し出していた。
そんな現実味のない場所の奥へと進む前に、私達は焚き火を囲み休憩をとることにした。


「最後かもしれないだろ?

だから全部話しておきたいんだ」


最後……

ティーダのその台詞はユウナにかかるはずなのに、何故かティーダ自身にかかっているような気がして。
彼の故郷と同じ名前のその遺跡を、静かに見つめるティーダから目が離せなかった。

ティーダを中心にこれまでの旅の思い出を語り合う皆。

その最中、私はアーロンさんに手を取られ席を外した。


「サクラ……記憶がなくてもいつも笑顔だった。……無理、してたよね。でもアーロンさんが現れて、10年前のサクラを知ってて、しかも恋人だったなんて……私、嬉しかった。これからはきっと幸せになれるよね。キマリ……サクラのこと見守っててね」

「……」

「キマリ?」

「キマリはサクラを守り続ける。ユウナとサクラはキマリに生きる意味をくれた。その高潔な魂をキマリは守り続けよう。……何があっても」

「うん……ありがとう、キマリ」


―――――


「お前はここまで来たことも覚えてはいないのだな……」

「……はい」

1000年前の建造物だろうか。
四角い大きな岩達がゴロゴロと転がっている。
奥にあるドーム状の建物。
私達はこれからあそこへ向かうのだろう。
その建物を見つめながらアーロンさんは寂しそうに口を開いた。

「お前は……」

私の方に向き直り、続ける。

「……ここで消えたんだ」

「……」

そう、アーロンさんの話によれば私はここで姿を消した。

「俺の腕の中から……な」

自分の手の平を見つめ自嘲気味に笑い、話し続ける。

「あの時は気が動転してな。情けない姿でお前を探し続けたものだ」

冷静なアーロンさんが?

「そうなんですか……何だか意外……です」

さっきのワッカの台詞とかぶっているとは思ったが、今のアーロンさんからは想像もつかない姿を思い浮かべて声を出した。

「意外……か。昔から俺はサクラに骨抜きだったぞ」

「!?」

そう言って近づいてきたかと思えば頬に手を添えられる。
それだけで私の顔は熱を持つ。

「本心から言えば……誰にも渡したくはない……しかし……俺はいずれ消える。その時は……お前を幸せにすることが出来る男を見つけろ」

言うアーロンさんのその顔は寂しそう。
その時のことなんて考えたくないよ……

「……そんな人いませんよ。アーロンさんよりいい人なんていません」

「そう言うな。俺の願いはサクラの幸せだ。
……だが、奴は駄目だ」

奴?
ああ、シーモア老師のことかな?

「何でですか?」

「……気に食わん」

「ふふ……それだけですか?」

「充分な理由だ」

「アーロンさん、可愛い」

そう言って抱きつく。
潤む瞳を隠すように。

「……俺は最低な男だな」

「何でですか?」

「好きになった女を幸せにすることも出来ない……そして友たちを差し置いて、今この刻が止まれば良いとさえ考えてしまっている」

そう言って、私を抱き締めるその手に力がこもる。

「それなら私もです。仲間達がいるのに……ユウナがいるのに、このままアーロンさんとずっと一緒にいたいって……」

「最低だな……」

「ですね……」

そしてどちらからともなく唇を合わせる。

これから訪れる別れ。
そう遠くはない未来に涙しながら求め合う。
お互いにお互いを刻み付けるように。
お互いを忘れないように……



気付けば空には無数の星が瞬いていた。
アーロンさんと二人、肩を寄せ合って座っていたがそろそろ戻らなければ……

「……戻るか」

「そうですね……」

もっとこのままいたいけれど、そうもいっていられない。
重たい腰を上げ、差し出されたアーロンさんの手を取り皆の元へと歩を進める。


皆の話し声が聞こえる。
あとちょっとで皆の所に着いちゃう。

もう少し……
もう少しだけ……

前を行くアーロンさんの腰に手を回し、私は後ろから抱きついた。

「アーロンさん……もう少しだけ……」

「……ああ」

その手をアーロンさんは握り締めてくれた。

仲間達の、途切れてはまた始まる会話を聞きながら私は暫し目を閉じた。


注目をなるべく浴びないように会話の最中にそっと仲間達の輪の中に潜り込む。

ユウナはこちらに視線を配り、にこっと微笑む。
他の仲間達も何も言わずにいてくれた。

「なあ、もっと色々あったよな?そういえばあの時とか……誰か何かない?」

まだ話し足りない……というかまだこの時間を続けたい。
そんなティーダが話題を求めるが、

「あのね」

「うお、何?」

「思い出話は……もう……おしまい」

ユウナが話を、この時間を断ち切る。
ユウナが立ち上がり武器を取ると、皆もそれに続いて武器を取る。

「行こう」

長い間滞在していたその場所から離れる。
前だけを見据えて。

幻光虫が漂い、舞い上がる場所。
そこはまるでこの世とは思えないような場所で……アーロンさんの正体を知っている私は何故か不安に駆られてその手を取った。

「どうした?」

「……駄目ですか?」

「……いや」

はっきりとした理由はなく、ただアーロンさんがこの幻光虫と同じ存在なんだと自覚してしまったから……





『長き旅路を歩む者よ、名乗りなさい』

ドームの前に辿り着くと一人の老人が姿を現した。
周りを舞う幻光虫からするに恐らくは死人……

「召喚士ユウナです。ビサイドより参りました」

『顔を……そなたが歩んできた道を見せなさい。
よろしい。大いに励んだようだな。ユウナレスカ様もそなたを歓迎するであろう。ガード衆共々ユウナレスカ様のみもとに向かうが良い』

「……はい」

そう言って姿を消していく。
ユウナレスカ様のみもとへ……
私達はドームの中へと進んで行った。


―――――


『スピラを救うためならば、私の命など喜んで捧げましょう。ガードとして、これ程名誉なことはありません。ですからヨンクン様……必ずや『シン』を倒してください』

「今のって……」

ドームに入ると幻光虫が人の形を造り出す。
それはスフィアで見る映像のように、こちらに目もくれず話していた。

「ナニ?今のナニ〜?」

「かつてここを訪れた者だ」

「ヨンクン様って言っていたわね……あの人、大召喚士様のガード!?」

「幻光虫に満ちたこのドームは巨大なスフィアも同然だ。想いを留めて残す……いつまでもな……」

「なるほど……」

じゃあ10年前のアーロンさん達も……?
このまま進めばきっと見ることになる。
私が同行できなかった10年前の記憶。

だけど次に現れた人物は意外な人だった。

『いやだ!やだよ、かあさま!かあさまが祈り子になるなんて!』

『こうするしかないの。私を召喚して『シン』を倒しなさい。そうすれば皆あなたを受け入れてくれる』

『みんななんてどうでもいいよ!かあさまがいてくれたらなんにもいらないよ!』

『私にはもう時間がないのよ……』

これは……

「シーモア老師……?」

子供の姿だけどあの特徴的な髪型は彼しかいない。
それと、彼が『かあさま』と呼ぶ人物。
この人がシーモア老師のお母様……
『シン』を倒すためにお母様は祈り子になった……
でも何故そんなことをしなければいけなかったの……?
シーモア老師のただ一人の心の拠り所だったのに……

もしかして私達はまだ究極召喚について何か知らないことがある?

そんなことを考えていると今度は違う人物が現れる。

『なあブラスカ、やめてもいいんだぞ』

『気持ちだけ受け取っておこう』

『……わーったよ、もう言わねえよ』

『いや、俺は何度でも言います!ブラスカ様、帰りましょう!あなたが死ぬのは……いやだ……』

『君も覚悟していたはずじゃないか』

『あの時は……どうかしていました』

『はっはは、私の為に悲しんでくれるのは嬉しいが……私は悲しみを消しにいくのだ。『シン』を倒し、スピラをおおう悲しみを消しにね。分かってくれ、アーロン』

「アーロンさん……」

それにブラスカ様、ジェクトさん。
アーロンさんは必死にブラスカ様を止めようとしていたんだ……
本当に、今のアーロンさんからは想像の出来ない姿。
ブラスカ様のスピラを想う気持ちを痛いほど分かっているであろうアーロンさんは、それ以上何も言うことはなかった。

「……行くぞ」

過去の自分を見てどんなことを考えているんだろう。
アーロンさんは気に掛ける様子もなく歩き出す。
私達も後に続いた。




エボン・ドームの試練の間を攻略すると、またもやガーディアンとの戦闘になる。
ガガゼト山で戦ったガーディアンよりも更に強力になっている試練に、この旅の終わりを感じずにはいられない。

「ユウナ……着いたぞ」

「究極召喚……ですね」

究極召喚……
遂に手に入れてしまう。

「行け」

どうすることも出来ない。
止めたいけれどユウナは決意を固め、短く返事をして祈り子の間へと降りていってしまう。

しかし、すぐに彼女は戻ってきた。

「アーロンさん!皆来て!」

何が起こったというのだろう。
普段とは違う様子のユウナに胸がざわつく。
ユウナに続いて祈り子の間へ着くと、そこにあったのは、

「これ祈り子様じゃない、ただの石像なの」

「石像……?」

究極召喚の祈り子様がいない……?
どういうこと……?

『その像はすでに祈り子としての力を失っておる』

「!?」

いきなり現れた老人に驚く。
ドームの入口で見たその人に似ていた。
その老人は淡々と話す。

『史上初めて究極召喚の祈り子となったゼイオン様。そのお姿をとどめる像に過ぎぬ。ゼイオン様はもう……消えてしまわれた』

「消えたぁ!?」

「てことは究極召喚もなくなっちゃったの!?」

どこか嬉しそうなリュック。
そうだとしたらユウナが命を捧げるようなことをしなくてもいい。
しかし、淡い期待はすぐに掻き消される。

『ご安心なされぃ。ユウナレスカ様が新しい究極召喚を授けてくださる。召喚士と一心同体に結び付く大いなる力を……奥に進むが良い、ユウナレスカ様のみもとへ』

そう言って老人は姿を消した。
残された私達は、また絶望感に襲われる。

「ちょっと待てよ。アーロン、あんた最初っから知ってたんだよな?」

「ああ」

そうだ、アーロンさんは知っていたんだ。
きっとこの先に何が待っているのかも……

「どーして黙ってたの!?」

「お前達自身に真実の姿を見せるためだ」

自分達の目でしっかりと真実を見ろ、そういうことか。
キマリを先頭に奥の大広間へと進む。
この先にユウナレスカ様が……


大広間に入ると奥の扉からこの世のものではないその人が現れる。

「ユウナレスカ様……」

『ようこそザナルカンドへ。長い旅路を越え、よくぞ辿り着きました。大いなる祝福を今こそ授けましょう。我が究極の秘儀……究極召喚を』

ユウナレスカ様はそこまで言って私達を見渡した。
そして私と目が合った瞬間、その瞳を大きく見開いた。

『!?……お母様!?』

「え……?」

明らかに私を見ている。

何を

いって

イルノ……?

ユウナレスカ様の瞳を見ていると激しい頭痛が襲ってきた。

「あっ……!」

「サクラ!?」

私は両手で頭を押さえ、その場に倒れこんだ。


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