記憶の彼方


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25章


「シーモア老師!!」

私はシーモア老師に向かって全速力で走った。

「サクラ殿……?どうしました?今の私と貴女は敵同士……」

「いいえ……今、あの時のお返事をさせてください」

「……」

皆の視線を浴びながら決意を固めた目をシーモア老師に向ける。

「私は……あなたについていきます」

「サクラ!?」

仲間達の驚いた声と目。

「こいつはジスカルを、自分の父親を殺した奴だぞ!!」

「ついていくってどういうことなの!?サクラ!!」

アーロンさん以外には何も話していなかった。
ティーダやユウナから説明を求める声があがる。

「……それは真ですか?」

「はい」

仲間達の声には答えずにシーモア老師と見つめ合う。
ごめん、皆……
この人は私が止める。

だけど……

「私もユウナと一緒で、お付き合いしていても旅を続けたいんです」

「それは構いませんよ」

段々とシーモア老師の表情が和らいでくるのが分かる。

「良かった……」

「アニマ、下がれ」

老師はアニマを戻すと私に手を差し出した。
その手を取り、皆に向き直る。

「皆……黙っててごめん。私、シーモア老師に告白されてて……今、決めたの」

「まさか、こんな時に返事が頂けるなんて思っていませんでしたけどね」

ふふ……と笑いながら私を引き寄せる。

「そういうことで、今私達は恋人同士になったわけです」

改めて言われると恥ずかしいわけで……
顔が赤くなるのを感じる。

「マジかよ……」

「サクラ……」

混乱してる皆をよそにシーモア老師は「少し二人でお話しましょう」と私に耳打ちし、腰に手を回す。

「ひゃっ……!」

慣れていない私は声をあげてしまう。

「ふふ……可愛いですよ」

またも耳元で言われ更に顔が熱くなる。

恥ずかしい……
皆の前でこんな……

シーモア老師は呆気に取られている皆の真ん中を、私をエスコートするように進む。
扉の前まで来るとアーロンさんがこちらを睨んでいた。

「これは、アーロン殿。お先に失礼致します」

わざとらしく私の肩を引き寄せ、嫌味たっぷりにお辞儀をする。
私は何も言えずに小さく会釈をしてその場を後にした。



―――――


「どういうことだ……」

「ねぇ、サクラ放っておいて大丈夫なの?あのシーモアと一緒なんて危なくない?」

「……奴はサクラに危害を加えることはないだろう」

「アーロン、何でそんなこと分かるんだ?」

「あれは本気でサクラを好いている」

「マジッスか……」

「厄介なのに好かれちゃったねぇ……でもさ、おっちゃんいいの?」

「何がだ」

「だっておっちゃんはサクラのこと……っ!睨まないでよ〜っ!」

「あいつはシーモアと共にいく道を選んだんだ」

「サクラ、旅を続けたいって言ってたよね」

「ええ、きっとまた合流するつもりなんだと思うわ」

「ジスカル様のことは……?」

「今口外しても余計な混乱を招くだけだろう」

「でも……許せないよな」

「ええ……でも何か理由があるのかもしれないわ」

「もしかしたらサクラ、老師を止める為に一緒に行ったのかも……」

「よ〜し!合流したら絞り出してやるぞ〜!」

「そうね……今は先に進みましょうか」


―――――


寺院の大広間まで戻るとトワメルさんが待っていた。

「おや?シーモア様、ユウナ様はどうされました?」

「ユウナ殿には嫌われてしまってね。だが、このサクラ殿がついてきてくれた」

「それはそれは……では、例の計画は……」

「ああ、私にはサクラ殿がいれば何もいらない」

「左様ですか。サクラ様、シーモア様を宜しくお願いしますぞ」

シーモア老師との話が一段落したのか、トワメルさんが私に一礼する。
釣られて私も頭を下げる。
でも、例の計画……?
トワメルさんの言葉が引っ掛かる。

「しかし、シーモア様。ユウナ様との婚儀の準備が進んでおりますが、どういたしましょう?」

「ああ、そうか……」

シーモア老師は少し考える仕草をすると、閃いたように私の方を向く。

「サクラ殿……私と結婚して頂けませんか?」

「え!?」

いやいや!急過ぎるでしょ……

「まだ、その……」

「ああ、すみません。貴女と恋人になれたのが嬉しくてつい先走ってしまいました」

嬉しそうな顔をして笑う。
本当に私に好意を持ってくれてるんだ……
ありがたいな。
だけど、私が本当に好きなのは……
シーモア老師に嘘をついていることに胸が痛む。

「トワメル、申し訳ないが婚儀は中止だ。各所に謝罪を頼む。私はサクラ殿とゆっくり話がしたい」

「御意」

「いやしかし、ここからだとグアドサラムに戻るよりベベルに向かった方が早いか……他の老師達はベベルに集まり始めているかもしれないな……ふむ……老師達には私の方から謝罪しよう。サクラ殿の紹介も兼ねて」

「分かりました。それではごゆっくり……」

にこやかにトワメルさんは下がって行く。

「では、参りましょうかサクラ殿」

「あ、はい」

私はシーモア老師と二人でベベルへ向かうことになった。
そこでシーモア老師から何をしようとしているのか聞き出せるかな。
そしてそれを止めることは出来るのだろうか。
私に好意を抱いてくれているシーモア老師には申し訳ないけど、そんなことばかり考えていた。




ベベルまでは再びマカラーニャの森を進むことになる。
シーモア老師は常に私の前に出て、襲ってくる魔物を一撃で幻光虫へと変えてゆく。

「すごいですね……」

「ありがとうございます。サクラ殿も素晴らしいお力をお持ちのようですが」

「私なんて全然ですよ」

はは……と笑えば近づいてくるシーモア老師。

ん?

「!?」

「あのミヘン・セッションの時のような無理はもうしてはいけませんよ」

ぎゅうと抱き締められ、耳元で言われる。
うう……いい声。
それに、いい匂い。

声が出ず、コクコクと老師の胸の中で頷く。

「いい子ですね」

そう言われ頭を撫でられると、ふとアーロンさんを思い出しズキンと胸が痛んだ。
これは自分の気持ちに嘘をついているから……
結局私もシーモア老師を傷つけることをしている……
でも、それでもスピラを危険に曝そうとしているかもしれない人を放っておいたら大変なことになってしまうかもしれない。

これは必要なこと……
そう自分に言い聞かせた。

「サクラ殿……?」

「……恥ずかしいです」

「本当に貴女は……可愛い人だ」

シーモア老師は抱き締める腕に力を込める。
恥ずかしいのは本当で、胸がどきどきする。

このまま流されてはいけない。
少しシーモア老師の胸を押せばその腕が緩んだ。
その隙に胸の中から抜け出し、

「さ、先を急ぎましょう?」

と歩き始める。

何か大好きアピールがすごい……
早く皆の所に戻りたい……
なるべく当たらず触らずでベベルへと急いだ。


―――――


「懐かしいな……」

「サクラ殿はベベルに?」

ベベルに着くとユウナに初めて会った10年前を思い出す。

「10年前ブラスカ様のナギ節が始まった時、私はここにいました」

「では、サクラ殿はベベルの生まれですか?」

「いえ……分からないんです」

「分からない……?」

不思議そうなシーモア老師。
私はシーモア老師のことを母君から聞いているから、いくらか分かるけど私のことは話していない。

「私、10年前の記憶がないんです。気付いたらここにいて、ナギ節が始まってユウナに会って……今も記憶は戻ってないんです」

笑いながら答えると、シーモア老師は驚きの表情から哀れみの表情へと顔を変える。

「それは……辛い思いをしましたね」

「いえ……私にはユウナとキマリがいましたし、ビサイドに行ってからは皆家族みたいに仲良くしてくれて」

「サクラ殿の人徳ですね」

「別に、そんなんじゃないですよ……」

少しずつ私のことを話しながら厳かな雰囲気を醸し出している聖ベベル宮へと歩を進めた。




聖ベベル宮に近付くと老師の皆様の姿がちらほら見えてきた。

緊張する……

シーモア老師はその一人一人に婚儀の中止を謝罪し、そして私のことは

「心から愛することを教えてくれる女性に逢うことが出来ました」

……そう紹介していた。
本当に嬉しそうに。

その度に心が痛んだけれど……

聖ベベル宮の中へと入り、ある部屋に通される。

「やっと落ち着けましたね」

シーモア老師は私を椅子に座るよう促すと、お茶を淹れてくれる。
お互い一口お茶を飲み一息つくと、シーモア老師から話し始めた。

「さて……まず聞いておきたいのですが、貴女は何故あの時私に返事をしたのですか?その前のお気持ちは否……そのように見えましたが……」

「……すみません。私召喚獣と話せる力があるみたいで、ルカで初めてシーモア老師の召喚獣を見た時に少し会話をしたんです」

「……」

「その時の言葉が引っ掛かってて……」

「……アニマは何と?」

「『哀しいのはこの子』
『この子を変えてしまったのは私』」

シーモア老師にとっては母親の言葉。
その言葉を伝える。

「……」

その言葉を聞いてもシーモア老師は無言だった。

「ジスカル様のスフィアを見ても、シーモア老師はきっと過ちを犯してしまった理由が何かあったに違いない、そう思ったんです。だからもう一度あなたの召喚獣と話したかった」

「そして私がアニマを喚んだ時に貴女は倒れた。あれはアニマと会話をしていたというのですか……」

「はい……アニマは……あなたの母君だったんですね」

シーモア老師の目を見つめ言う。
彼は一つ息を吐いて丸いテーブルに置いてあるお茶を手に取り、一口口に含むとゆっくりと飲み込む。

「それで、母は何と?」

「シーモア老師が差別を受けていたこと、母君と島流しにされてしまったこと、母君が召喚獣になってから一人で流刑地で過ごされたこと……色々話してくださいました」

「そうですか……」

「すみません……勝手に詮索するような真似をしてしまって……」

自分の過去を許可もなく勝手に探られては良い気分ではないだろう。
そう思って私はシーモア老師に謝った。

「いえ、いいのです。いずれ貴女には話そうと思っていたことですし」

「本当にすみません……」

「それで、私を哀れんで?」

哀れみ……
それもあるかもしれない。
でもそれだけではない。

「私は……あなたを救いたい」

「救う……」

「少しでもその心の闇を拭い去りたい」

じっと目の前の目を見つめる。
すると、その口からは笑いが漏れた。

「ふふ……本当に貴女という人は……聖母の心をお持ちのようだ。それならもう、私は救われていますよ」

もう救われてる?

「貴女が私についてきてくれた……それだけで私の心は晴れました」

「え?それだけで……?」

「ええ、私はそれほどに貴女を愛しています」

「っ……!」

見つめられかぁっと顔が熱くなる。

「それに、私の過去を知ろうとしてくれた。過去を知り、理解してくれた。……救いの手を差し伸べてくれた」

優しい顔。
少しでも心が軽くなったみたいでこっちまで嬉しくなる。


「では貴女なら私がやろうとしていたことが分かりますか?」

「やろうとしていたこと……?」

例の計画のこと……?
シーモア老師は椅子から立ち上がると窓の前に立った。
そして窓の外を眺めながら話す。

「私が憎んでいたのは父だけではありません。私はこの世界……スピラそのものが憎い。私や母をあんな目に遭わせたこのスピラそのものが……」

そこまでシーモア老師の憎しみが深いものだったなんて……
そのまま彼は外を見て話し続ける。

「私は……このスピラを破壊しようとしていました」

「!?」

衝撃の発言に驚きを隠せない。

「極端な話しでしょう?今考えれば愚かな考えです。しかし、私はそこまで世界を憎んだのです……
サクラ殿……?」

気付けば頬を涙が伝っていた。
哀しい……
世界を憎むことでしか心を保てなかった彼が。
その時の気持ちを考えると涙が止まらなかった。

もし、私がシーモア老師と同じようなことをされても歪まないと自信を持って言えるだろうか。

「私の為に泣いてくれるのですか……?」

シーモア老師がその指で涙を拭う。

「貴女は本当に優しいのですね……でも貴女に逢えたことで私は変われたのです」

肩を震わせながらもシーモア老師を見上げる。

「貴女に逢えて、やっとこの世界で生きてみようと思ったのです。貴女と一緒ならばどれ程嬉しいかと……」

私の頭を撫で、髪を掬い取る。

「しかし……貴女の心の中には他の男性がいるようだ」

「っ!?」

まさか、気付いて……

「それでも私についてきてくれたのは、私を止めたかったから……そうですね?」

私なんかの考えはお見通しなんだ。
申し訳なく頷けば呆れたような笑顔で小さく溜め息をつかれる。

「まったく、貴女という人は……好きでもない男についてくるなんて、呆れますね」

「ごめんなさい……でもシーモア老師を救いたかったのは本当なんです」

「ええ、それは分かっていますよ。ありがとう……サクラ」

呼び捨てで呼ばれるとそれだけで心臓が跳ねてしまう。
そういえば老師の方々に私を紹介する時、恋人だとか付き合っているだとかいう言い方はしなかった。
私の考えを分かって気を使ってくれたんだ……

「貴女はこれからユウナ殿の元に戻るのでしょう?」

「はい……」

「では、皆さんに宜しくお伝えください。ご無礼をお許しくださいと……」

「シーモア老師は……?」

「大丈夫ですよ、もうあのような愚かな考えには至りません。私なりに差別のなくなる世界を目指しましょう」

素晴らしいお考えに心から拍手を贈った。

「旅を終えたらまた戻ってきてください。その時は貴女を振り向かせてみせますよ」

素敵な笑顔を向けられ、私も笑顔で返す。

「ただ……」

「ただ?」

「祈り子になるなどという選択はなさらないように」

「え……?」

その時扉をノックする音が響いた。
その後に聞こえた声はトワメルさんのものだった。

「入れ」

「失礼致します。シーモア様、そろそろお仕事に戻りませんと……」

「そうだな……それではサクラ殿、お気をつけて」

私に一礼をしてトワメルさんの後に続こうとするシーモア老師。
しかし、思い出したようにまたこちらに振り向く。

「そうそう……私は少々傷つきました……お詫びを頂いても?」

そう……やっぱり私は彼を傷つけた。
詫びをするのは当然だ。
私は深々とお辞儀をし、しばらく顔を伏せ続けた後顔を上げた。
すると目の前にあったのはシーモア老師の胸。
少し顔を挙げれば後ろ手に組んだ老師と目が合った。
老師は微笑むと顔を近づけてくる。

触れるだけのキス。

「ご馳走さまです」

それでは……と笑顔を携え部屋を出ていく。


……
………

ええええー!?

私は口を抑え顔を真っ赤にしていた。




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