記憶の彼方


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23章


雷平原を越え、マカラーニャの森に入る。
キラキラとした森に感嘆の声が口をついて出る。

「わぁ……綺麗……」

「ふ……」

「アーロンさん?」

私の素直な感想を聞いたアーロンさんは笑い声を漏らした。

「いや、全く同じ事を言うものだなとな」

「……それは10年前の私がですか?」

「ああ」

私はアーロンさんとどれだけ一緒にいたんだろう。
旅の途中で少し知り合っただけだと彼は以前に言っていた。
それなのに私のことをよく知っているような……
ミヘン街道でも私の行動を話していたのに、このマカラーニャの森でのことも?

「まさか私、アーロンさん達と同行したりなんかしてませんよね……?」

「……」

アーロンさんは少し考える素振りを見せてから口を開いた。

「別に無理に思い出す必要もあるまい」

そんな……
私は何一つ10年前の事を思い出せていない。
少しでも記憶を思い出す為のヒントが欲しいというのに、そんな言い方……
私はアーロンさんの言葉にショックを受け、言葉が出なかった。

「……行くぞ」

俯いたまま頷きアーロンさんに付いていく。
少し進むと皆の姿が見え、私は小走りでユウナの元へと向かった。

「サクラ?何かあった?」

「ううん、何でもない。行こう?」

アーロンさんの冷たい言い方にショックを受けたなんて言わなくても良いこと。
それを隠して笑顔を作り、先へと促した。

しかししばらくしてもアーロンさんとティーダが追ってくる気配がなく、歩みを止め二人を待つことになった。

「そういえばサクラ、少しでも記憶戻ってきた?」

二人を待っている間、ユウナが聞いてくる。

「何々サクラって記憶喪失なの?」

「そう……サクラは10年前の記憶がないのよ」

話に入ってきたリュックにルールーが説明してくれる。
困ったような笑顔を作って首を振る。

「そっか……アーロンさんサクラのこと知ってるみたいだし、一緒にいれば少しでも記憶が戻ってきそうだけどね」

「そうだね……」

その時二人が追い付いてきた。

「おそ〜い!」

「わりい!」

リュックが少しむくれたように言うとティーダが謝る。
その後ろにアーロンさんの姿を見つけ、自然と目を反らしてしまった。

「行こっか、ユウナ」

ティーダの一言でまた歩みを進め始めた。


マカラーニャの森のキラキラした景色を眺めながら進む。
どれくらい進んだかという所、バルテロさんが慌てた様子で走ってきた。
ドナさんとはぐれてしまい、見つけられていないと言う。
ドナさんがとても大切なんだろう、バルテロさんは完全にパニックになっている。
アーロンさんの助言でやっと我に帰ったバルテロさんは、再びドナさんを探しに走って行く。
それを追いかけるようにリュックが飛び出す。

「リュック?」

「あ、元気出してって言おうと思っただけ」

「そっか。でも気になるね……召喚士が消えるなんて話と関係あるのかな」

「……」

リュックは黙りこんでしまった。
いつも賑やかな子が珍しい。
穏やかな話ではないし、あまり考えたくないか。

「ユウナ、しっかり付いてくるんだよ」

私は母親のようにユウナに言えば、ユウナはくすくすと笑う。

「うん、分かった」


―――――


更に奥へと行くと今度はアーロンさんによって歩みを止められる。

「ちょっと待て。確か……このあたりだ」

「?」

「なんスか?」

「見せたいものがある」

いつも先を急がせるアーロンさんがこれまた珍しい。

「でもアーロンさん……」

急ぎましょうよとユウナが声をかけるが、「すぐに済む」とその大太刀で道を作って行く。
皆アーロンさんの行動の意味が分からず呆気にとられる。

道が出来た所でアーロンさんに付いて行くと、そこには大きな泉があった。

「ここって……?」

「普通の水じゃないのか?」

私とティーダが疑問を声に出しているとアーロンさんが答えてくれる。

「スフィアの原料となる水だ。人の想いを封じ留める力がある」

その時、その泉の中からゼリーのような魔物が現れた。

「!?」

「なんだぁ!?」

「想いが集まる場所は魔物が生まれやすい」

それを知ってて連れて来たんですか!?って言いたかった。

「アレは物理攻撃より魔法に弱い。頼んだぞ」

ぽんと頭に手を置き、私の前に出るアーロンさん。
……だから、そういうの反則ですって。
つい先程の冷たい言い方なんて忘れてしまう位、ドキドキしてしまう。

「ル、ルールー!行くよ!」

「ふふ……ええ、分かったわ」

ルールー笑ってるし!

「いいとこ見せないとね?」

「う……!」

とにかく目の前の魔物を倒すことに集中!
そう自分に言い聞かせその魔物と対峙した。



私とルールーの魔法を中心にスフィアの泉から出てきた魔物を難なく倒すことに成功した。

「ペース配分が上手くなったようだな」

「そんなに迷惑かけられませんから……」

アーロンさんに褒められるも素っ気ない返事を返してしまう。
可愛くないな、私……

「これ……?」

ティーダが何かを見つけたようで声を出す。
そちらに振り向くとスフィアを持ったティーダが目に入った。

「ずいぶん古いな。こりゃぁ中身消えてっかもな」

「10年前ジェクトが残したスフィアだ」

「ええっ!?」

アーロンさんの言葉にそこにいた全員が驚きの声をあげる。
アーロンさんが見せたかったのって……

「見てみろ」

「お……おう」

そっか、ティーダの為に……
やっぱり優しいんだよなぁアーロンさん。
私にさっき言った言葉だってきっと何か意味があるんだろうな。

ジェクトさんのスフィアには旅を始めた頃だろうか、ブラスカ様や若い時のアーロンさんも映っていた。

(やっぱり若い頃もかっこいいな……)

アーロンさんに見惚れていると画像が切り替わり、今私達がいる場所と同じ所に一人座っているジェクトさんが映し出される。
その言葉は明らかにティーダに向けた台詞だった。
何と言ったらいいかわからないといった様子で、愛情表現が苦手なんだなってすぐに分かる。

とにかく元気で暮らせ……

最後の言葉は不器用な彼の本音。

「最後だけマシなふりしたって説得力ねえっての」

「ふりではない。あの時ジェクトは既に覚悟を決めていた」

「覚悟?」

「ジェクトは……いつでもザナルカンドの家に帰ることを口にしていた。風景をスフィアに納めたのは、帰ってからお前に見せる為だ。しかし、旅を続けスピラを知りブラスカの覚悟を知り……そう、前に進み続けるうちにジェクトの気持ちは変わった。ジェクトはブラスカと共に『シン』と戦うことに決めた」

ブラスカ様の覚悟……
ジェクトさんはここでその覚悟を知ったのだろうか。

「帰るの諦めたってことか……」

「覚悟とはそういうものだ」

覚悟……
重いな……
ティーダは私達を見渡して決意を固めた目をして、

「さーて、出発するッスよ」

そう言った。
このスフィアはティーダに見てもらわなきゃいけないモノだったんだ。
さすがアーロンさん。
その後にもティーダに声かけてるみたいだったし。
面倒見いいなぁ。

どんどんこの気持ちが大きくなっているような気がする……

いつか……言うだけ言ってみてもいいのかな。




マカラーニャの森を抜けると旅行公司が見える。
いつも思うけどホント絶妙な場所に建ててるよなぁ。

先程の戦いもそうだが、ここにきていろんな事が頭に入ってきて疲れていた。
ユウナの結婚のことだったり、ジェクトさんのスフィアだったり、アーロンさんの態度だったり。

……シーモア老師からの告白だったり。

そろそろマカラーニャ寺院に着いてしまう。
そこにはきっとシーモア老師がいる。
ユウナはもう答えを出しているが私はまだだ。

……またシーモア老師の召喚獣と話せないだろうか。
彼を知るヒントがあれば……

とにかく旅行公司の中に入り、休むことにした。
マカラーニャの森で会ったルチルさんとエルマさんによればユウナの結婚の知らせを受け、グアドの迎えが来ているとのこと。
グアド族の情報網ってすごいな……

少し休んで外に出ると以前に見た顔が近付いてくる。

「トワメルさん」

「ユウナ様、お迎えに参上致しました。こんなに早くにお返事を頂けるとは……全くもって予想外の出来事。何も告げずに留守にしたこと、シーモア様になりかわり……」

トワメルさんはユウナのイエスの返事が貰えるのが余程嬉しいのか、とても上機嫌だ。

「それはいいんです。あの、ひとつ聞きたいことが」

「なんなりと」

「私、結婚しても旅を続けたいんです。シーモア老師は許してくださるでしょうか?」

「それはもう……シーモア様もそのつもりでいらっしゃいます」

つかえが一つ取れたのかほっとした様子のユウナ。

「行ってきます」

そう言ったもトワメルさんはまだ進まない。
そして視線は私に。

「して……サクラ様のお返事はまだでしょうか?」

「!?」

あからさまに肩をビクつかせてしまった。
今聞かれるとは思ってなかったから。
皆の視線が私に集中する。

その中でも一番痛いのは目力の強いアーロンさんの視線。

「……何の返事だ?」

「えと……」

「これは失礼、まだでしたらいいのです」

軽く笑ってごまかすトワメルさん。
そして話を戻す。

「さて……グアドのしきたりがありましてな。皆様はもう少しだけここでお待ち下さい。程なく迎えを寄越しますゆえ」

「あの……」

ユウナは何か言いたそうにこちらに声をかけた。

「大丈夫だよ」

「ガードはいつでも召喚士の味方だ。好きなようにやってみろ」

年長組二人に言われると自信を得たような顔をしてトワメルさんに付いていく。

「あ、ティーダの台詞だったね」

ティーダに励まされた方がユウナの力になったかなと思った私はティーダに言った。

「ユウナ!」

ティーダはユウナに声をかけ、口笛を鳴らす。
それを聞いたユウナは「了解っす!」と元気よく返事をした。
私はその様子を微笑ましく眺めていたのだが、後ろから刺さる視線を無視することが出来ず振り向く。

「話を聞こうか」

「う……」

まだどうするか決めてないのに……
アーロンさんにドスの利いた声で言われ、観念しようとした時だった。

「あ〜っ!!」

リュックの叫び声が響いた。

リュックの視線の先にはスノーバイクに乗ったアルベド族達。
何故なのかユウナとトワメルさんを囲んでいる。

「ユウナ!」

急いで駆け寄りその身を守る。

「任せろ」

「か、かたじけない!」

アーロンさんも大太刀に手をかける。
ここは任せて先に行けという意味で言ったと思うが、ユウナはトワメルさんの手を振り払った。

「ユウナ様!?」

一緒に戦うと言いたいんだろう。
私はユウナと目を合わせて頷いた。
そんな中、アルベド族がこちらに向かって叫んでいる。

「え〜っ!?」

「通訳!」

アルベド語が分かるリュックは一人驚いているが、アルベド語が分からない私達にはさっぱりだ。
ティーダが教えてくれと依頼する。

「魔法と召喚獣を封印させちゃうって!」

「ええ!?」

それじゃ私、役立たずじゃん。
魔法以外大して能のない私にとっては致命的だ。
衝撃の事実を受け入れる間もなくその機械が放たれた。

「うう……ホントに魔法使えない。どうしよユウナ、ルールー」

「きっとチャンスが来るわ、待ちましょう」

皆が戦闘しているのを眺め、祈ることしか出来ない。
戦闘の様子を見ていると、機械の周りを不規則な動きをして飛んでいるものに目が止まる。

「リュック、あれは?」

「あ、あれ!壊したら魔法使えるかも!」

「ホント!?ワッカ!あのちっちゃいの攻撃して!」

「ん?おっし!分かった!」

嬉しい情報を得て、遠距離攻撃の出来るワッカにお願いする。
ワッカは何度か攻撃を繰り返し、本体の周りを飛んでいた小さい機械を破壊してくれる。
それと同時に魔力が解放される感じが分かった。

「ルー!サクラ!ユウナ!これでどうだ!?」

「うん、いけそう!ありがとう!」

「あいつ、雷に弱そうね」

「私はイクシオン召喚するよ!」

「私達はサンダラいきましょう」

「OK!」

魔法の封印を解かれた私達の雷攻撃は怒濤の一言だった。
それまでのダメージの蓄積もあり、あっという間に機械は大きな音を立てて爆発した。

「やった!」

「さすがね」

ルールー、ユウナとハイタッチする。
その後トワメルさんについて行くユウナを「また後でね」と見送る。

後ろではリュックとアルベド族の男の人が話をしている。
何て言ってるか分からなかったけど。
その様子を見ていたワッカは不思議そう。

「何でアルベド族の言葉知ってんだ?なあ?」

同意を求めるようにこちらを向く。
何て言ったらいいか分からず口ごもっていると、

「私、アルベド族だから」

リュックは自らカミングアウトした。
それを聞いたワッカは明らかに態度を変える。

「……知ってたのか」

いつもの調子の良い声とは全く違う低い声。
私達が頷けば「最悪だぜ……」と視線を背ける。
こうなることが分かっていたから隠していたのに。
やっぱり隠し事っていつかはバレちゃうもんなんだなぁ。

そして始まるワッカとリュックの言い合い。
それまでエボンを信仰してきたワッカにアルベド族の考えを理解できる訳はなく。

「話にならないね……」

リュックの呆れたような……哀しそうな声で二人は黙った。



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