記憶の彼方


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22章


「きゃああっ!?」

雷鳴とほぼ同時にリュックの叫び声がこだまする。

ここは雷平原。
その名の通り常に雷が鳴り止まない平原。
平原のあちこちには避雷塔が立っている。
要はその避雷塔から離れすぎないように進めばいいんだけど……

「リュック……雷ダメ?」

「雷苦手なんだぁ〜」

すでに半べそ状態のリュック。
私もそんな好きじゃないけどそこまでじゃないな……

「短い付き合いだったな」

「アーロンさん……」

リュックの様子を見ていたアーロンさんはからかうように言う。

「あ〜……わかったよ、行くよ!」

しぶしぶリュックは付いてくる。
……私の腕をがっしり掴んで。
これでは急いで次の避雷塔へ駆けていけない。
ということは雷に打たれる可能性が高くなるということ。

「リュック……これじゃあ走れないよ……」

「サクラまであたしを見放すの〜!?」

「いや、そういうわけじゃ……」

「お前のせいでサクラまで危険になると言っているんだ。雷が怖かったらさっさと避雷塔まで走れ」

「アーロンさん、そこまで言わなくても……」

「……おっちゃんってさ〜サクラには優しいよね」

リュックのその言葉にアーロンさんは黙ってそっぽを向いてしまった。

「リュック、アーロンさんは言い方がアレだけど早くここを抜けられるように言ってくれたんだよ」

「もう!サクラはニブいんだから」

え〜……?
首を傾げるとリュックは「行っくぞ〜!」と気合いをいれていた。
アーロンさんを見てもこちらには目もくれず知らん顔。
ほら、別に何もないじゃない。
だってアーロンさんには大切な人がいるんだもの。
私なんか眼中にないの。
一つ小さな溜め息をついてリュックの後を追う。

「リュック!がんばろ〜!」

後ろではアーロンさんがこちらを見ているとも知らず。



「アーロン……素直じゃないッスね」

「何のことだ」

「う……その目怖いから」

「余計なことを考えてる暇があったらユウナを支えてやれ」

「あ?でもユウナ結婚しないって言ってたぞ?」

「異界でジスカルを送ってから様子がおかしい」

「そうか?」

「ふ……お前にはまだ分からんか」

「な……!」

「とにかくあれは生真面目な娘だ。周りが見ていてやらんと危険なことに巻き込まれるかもしれん」

「分かった……」

「(サクラもな……)」




空の様子を見ながら慎重に雷平原を進んでいく。
その時、近くに稲光が落ちた。

「!?びっくりしたぁ〜」

「お〜!近い近い!うははははは〜!!」

ワッカは楽しんでいるようだ。
ルールーに「さっさと行くわよ」なんて言われ、まるで子供とその親だ。
私は近くに落ちた稲光のおかげでバクバクしている心臓を落ち着かせていたが、奇妙な声が聞こえそちらに振り向く。

そこには声の主が小刻みに体を震わせ立っていた。

「リュック……?」

「ん?どした?」

「へへへへ……って何だよ、気持ち悪いな」

そして再び雷鳴が轟くと弾けた。

「いぃやぁぁぁ〜〜っ!?」

「!?」

いきなり地面に這いつくばり、カサカサとまるで害虫のアレを思わせる動きでティーダの足にしがみついた。

「やだ〜!もうやだ〜!雷やだ〜!そこで休んでこ!ね?ね?」

限界が来ちゃったか〜。
でもまあ、頑張ったよね。
旅行公司が近くにあり、そこをリュックは指差している。

「ここの雷は止むことはない。急いで抜けた方がいい」

アーロンさんの言葉は間違ってない。
休んだ所で雷は止まない。
だけど……

「知ってるけどさ〜!リクツじゃないんだよ〜!」

そうだよね。
心の問題というか……何と言うか……

「頼むよ〜!休んでこうよ〜。雷はダメなんだよ〜!休もうよ、ね?お願い!」

「アーロンさん……休ませてあげましょう?」

私も一緒にお願いする。
可哀想だよね、さすがに。

「はぁ〜……やむを得ん、休むぞ。うるさくてかなわん」

頭を抱えるアーロンさんを横目に「やった!」と私とリュックはハイタッチをした。


旅行公司に入るとユウナが店員さんに部屋はあるかと尋ねていた。

「少し……疲れました……」

「ユウナ……?」

「らしくないわね」

疲れたと言い残し、スタスタと部屋へ入って行く。
いつもだったら周りを気にして無理をする子なのに、自分から休みに行くなんて。
疲れたら疲れたって言ってほしいのは山々なんだけど、いつもと違う行動に違和感を覚える。

「ジスカル様のこと……かな」

「どうかしらね」

「どうしちまったんだろうな……ま、ムリにも聞けねぇしな」

「そうね……リュックには悪いけどユウナが落ち着いたら出発ね」

ユウナが落ち着くまで各々ロビーで休むことにした。

旅行公司の経営者であるリンさんからは、グアド族がシーモア老師とユウナの結婚が決定事項であるかのように話を広めていると聞いた。
ユウナは断るつもりでいるのに勝手な話だ。
そんな話を聞いていたらティーダがいなくなったことに気付く。

「あれ?ティーダは?」

「あいつ、ユウナんとこ行ったんじゃないだろうな」

ワッカが部屋の方へと向かって行くとすれ違いのようにユウナが出てきた。

「ユウナ、もういいの?」

「うん、ごめんね。皆さんが良ければ出発しましょう」

ティーダ、ワッカが戻るのを待って私達は出発することにした。
ユウナに詳しいことは聞かずに。
きっと整理がついたら自分から話してくれるはずだから。




「雷止まらないね……」

「期待していたわけでもあるまい」

そう、ここの雷は止まないのだ。
リュックはアーロンさんに言われ、肩を落とす。
また雷鳴が轟けば「きゃあ!」と悲鳴がその口をついて出た。

「一生やっていろ」

呆れたように言うとアーロンさんは出ていってしまう。

「そんな言い方しなくたっていいじゃんよ!もっとサクラにするみたいに優しく励ますとかさぁ!それならあたしだってその気になるのに!ぜんっぜん分かってないんだもんなー、もう!」

……私に特別優しい訳ではないと思うぞ、リュック。
ひとしきり不満を吐き出して気合いを入れ直している。

「負っけないぞ〜!ふぬぬぬぬ……負けるかっちゅ〜の!」

そして旅行公司の外へと飛び出した。





もう雷平原も終わりに差し掛かろうというところまで来た。
あと少しだと思っているとユウナが口を開く。

「皆……いいかな」

「どうしたの?」

「聞いて欲しいことがあるの」

「ここで?」

「もうすぐ終点でしょ?さくさく行っちゃおーよ」

「今話したいの!」

思い詰めたようなユウナの表情に嫌な予感がした。
雷平原を越える前に今話したいとは余程のことだ。

「あそこで話そう」

アーロンさんが目を向けたのは近くの避雷塔。

避雷塔に着くと皆の視線がユウナへと集まる。
そんな中、ユウナは一言言った。

「私、結婚する」

「え……」

「やっぱり」

「そうきたッスか……」

ずっと様子がおかしかったのはこのことを考えていたから?
でも異界で御両親に会って結婚はしないって決めたんじゃなかった?
それなのに考えを変える何かがあったということ……?

「な、どうしてだ?気い変わったのか?」

「スピラの為に……エボンの為に……そうするのが一番いいと思いました」

「ユウナ……」

「説明になっていない」

もしかして……

「ジスカル様のことが関係してるの?」

私の脳裏によぎったことをルールーが代弁する。
その時思い出したかのようにティーダが大きな声を出した。

「あ!あのスフィア!」

スフィア?
ユウナが持っているスフィアに何か関係が?

「……見せろ」

「……出来ません。まずシーモア老師と話さねばなりません。本当に申し訳ないのですが、これは……個人的な問題です」

個人的な問題……そのように言われてしまってはもう突っ込んで聞くことが出来ない。

「水くせえなぁ」

「……好きにしろ」

「すみません」

「だが今一度聞く」

「あ、旅はやめません」

「ならば良かろう」

アーロンさんに旅は続けると言ったユウナ。
だけど、ユウナはシーモア老師に特別な感情を持ってる訳じゃないよね、きっと……
それなのにスピラの為に結婚するって……そこにはユウナの気持ちはない。
それって何だか悲しい……



「ちょっと待てよアーロン。旅さえしてれば後はどーでもいいのかよ!」

ティーダがアーロンさんに食って掛かる。

「その通りだ。『シン』と戦う覚悟さえ捨てなければ……何をしようと召喚士の自由だ。それは召喚士の権利だ。覚悟と引き換えのな」

そうなんだけど……その自由はスピラの為にとか考えないで、素直にユウナ自身の為になることをしてもらいたい。
でもスピラの為に行動することがユウナが望むことなんだったら私達は何も言えない。
ティーダも納得いかないといった感じだ。

「ユウナ、いっこだけ質問がある。シーモア老師と話すだけじゃダメなのか?結婚しねぇとマズイってか?」

背の高いワッカがユウナに視線を合わせて聞く。
ビサイドで私達の妹のように一緒に育ってきたユウナ。
そんな子に本意ではない結婚をして欲しい訳がない。
だから、ワッカは聞いたんだと思う。

「……わからない。でも覚悟は必要だと思う」

「そ、そうか」

「ユウナ……我慢してない?無理してない?私達皆ユウナのことが大事なの。だから自分を追い詰めるようなことしちゃダメだよ?」

「サクラ……うん、ありがとう」

私もワッカの後にユウナに声をかけた。
そして、リュックも。
それまであんなに雷にびくびくしていた彼女は雷に向かって「うるさいッ!」と言った後、ユウナの両肩に手を添えて言う。

「覚悟ばっかさせて……ごめんね」

「いいの……大丈夫」

何が大丈夫なのか……
ユウナには幸せになって欲しいのに。
この旅を決意した時からもうその夢は霞んでしまった。
だけどティーダが来てくれてからユウナの心からの笑顔が見れた。
それなのにここに来て、またその表情は曇っている。
それがとても辛かった。

「ともあれひとまずはマカラーニャ寺院を目指す。ユウナはシーモアと会い好きに話し合えばいい。俺達ガードはその結論を待ち、以降の旅の計画を考える。いいな」

これからの行動をアーロンさんが指示する。
その計画に皆は黙って頷いた。

シーモア老師と話さなきゃいけないって何のことなんだろう。
私も返事をしなければいけない。
もしかしてシーモア老師は何か大事なことを隠している……?
だとしたらそれを知らないで返事をしてもいいものなのか……

私も考えることで頭が一杯だった。


「サクラ、行くぞ」

どうやら皆は先に行ってしまったらしい。
遅れた私にアーロンさんが声をかけてくれる。

「あ、すみません」

「……シーモアはもしかしたら危険な輩かもしれんな」

「え?」

「想像だ、確信ではない。だが、気を付けろ」

「はい……」

何が危険なの?
また気になっちゃうよ……
私はアーロンさんの言葉で更に頭を悩ませながら進むのでした。




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