記憶の彼方


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21章


私にも大事な話?
シーモア老師に呼び止められ、私はシーモア老師に向き直る。

「ええ、貴女とは二人でお話したかったのです」

柔らかく微笑むと私を見つめてくる。
それだけで顔が熱くなるのを自覚する。

「やはり貴女は……貴女の雰囲気は母に似ている。柔らかく、全てを包み込む聖母のような」

「そんな……立派な人間じゃないですよ」

シーモア老師のお母様に似ているなんて恐れ多い。
すでにお母様もお亡くなりになっているとは聞いたけど、きっと素敵な人だったんだろうな。

「……私には母が全てでした。そしてその母を失って……私は絶望しました」

「シーモア老師……」

見たことのない悲痛な表情。
よほど心が傷んだに違いない。

「あなたを見た時、母の面影を見たようでとても穏やかな気持ちになったのです。それがどうでしょう……会うにつれて、その気持ちが違うものに変わっていった……」

切ない表情で私を見て話を続ける。


「これは恐らく恋……私はあなたに恋をしたのです」

「え?」

全く予想をしていなかった言葉に驚きを隠せない。
だって、ついさっきユウナに結婚を申し込んでいなかったっけ?

「先程ユウナ殿に結婚を申し込んだのはこのスピラの為、立場上のこと。ユウナ殿には申し訳ないですが、そこに感情はありません。そして、これからあなたに言う言葉は嘘偽りなき私の本心。私個人の願いです。

サクラ殿、私とお付き合いして頂けませんか?」

えええええ〜!?
私は目を見開くことしか出来ず、その場に固まってしまった。

「驚くのも無理はないでしょう。先程ユウナ殿にあのような話をした後なのですから。返事は後で構いません。……出来れば良いお返事を期待したいですが」

ただただ驚いて何も行動を起こせず顔を赤くしていると、シーモア老師が「皆さんがお待ちしていると思いますよ?」と外へと促してくれる。
その言葉にはっとして、少し困ったような笑顔を私に向けるシーモア老師に一礼をしてその場を後にした。


恋!?
シーモア老師が私に!?
それって好きってこと……?

いやいやいや!
おかしいでしょ……
何で私……?
シーモア老師と恋人……?

もう頭の中が混乱してぐちゃぐちゃだ。
どうしよう……
何て返事したら……

エントランスで一人悶々と頭の整理をしようと考え込む。
考えたからといっていい答えが出るはずがなく、とりあえず私は屋敷の外へと出た。


「あ、サクラ。遅かったッスね」

「……何をしていた」

「あ……少しシーモア老師とお話してました」

「何の話だ」

「えっと……たいしたことじゃないです」

アーロンさんに睨まれるが、あんなこと皆に言えるはずがない。

「遅くなってごめんね。で、ユウナどうするの?」

私は話を反らすため、ユウナに今後のことを聞いた。

「異界にね、行こうと思うの。異界に行って、父さんに会って考えてみる」

異界かぁ……
そういえば、このグアドサラムには異界がある。
そこに行けば亡くなった人達に会える。

「そっか、そうだね。いっぱい考えたほうがいいよ」

「そうね、気が済むまで考えなさい」

ルールーもユウナに声をかける。



―――――


アーロンさんの疑うような視線が痛かったが何とか持ちこたえ、異界へと辿り着いた。

「質問ッス!異界のことなんだけどさ、誰もが死んだら召喚士が異界送りするんだろ?」

ティーダがおかしな踊りをしながら聞く。

「何それ?異界送りの真似?」

この話の流れからして、ティーダのおかしな踊りは異界送りの再現だろうと思い聞いてみれば「そうそう」と笑顔が返ってくる。
その踊りがおかしくて私は苦笑した。

「んで、死んじゃった人の魂は異界に行くんだよな?でさ、これから行くのがその異界?そこにはユウナのオヤジさんがいる?要するに死んじゃった人が住んでんのか?」

まぁわからんよね。
正直私も異界のことよく分からないし。
でもティーダは何か変なことを考えているようで。

「ま〜たヘンなこと考えてんだろ?」

「へへへ」

「ま、行けばわかるさ」

ワッカに促され異界へと進む。

「行ってらっしゃ〜い」

私がそう言って手を振れば「サクラは行かないのか?」とティーダに聞かれる。

「私は特別会いたい人もいないし」

記憶のない私が行ったって何の意味もないところだもん。
ちょっと考え事もしたいし……
とは言わなかったけど、後者の理由の方が強いかな。
私以外にもアーロンさんは「異界は気に食わん」って言うし、リュックも「思い出は優しいから甘えちゃダメなの!」なんて言って行かなかった。

一人になれなかった私はゆっくりと考え事なんて出来なかった。
……近くにアーロンさんがいれば尚更。


心なしかこの異界の入口付近に来てからアーロンさんが苦しそうにしているように見える。
肩で大きく呼吸をしているみたいだし、眉間の皺もいつもより深いような気がする。

「……アーロンさん、気分悪いんですか?」

「……何でもない」

「でも……」

「それより……シーモアと何を話してきた」

折角さっきは上手く話を反らせたのに、アーロンさんは忘れてくれてなかった。
私が声をかけたが為に自分が不利になってしまった。

「えと……ユウナは結婚を承諾してくれますかね?とかそんな話……です」

思い付いた嘘を言えば、アーロンさんの鋭い視線が刺さる。
だって言えるわけないじゃない。

……本当に好きな人にそんな話。

そうだよ、好きな人がいるんだもん。
断ればいいだけの話。
だけど気になるのはあの召喚獣の言葉。



『哀しいのはこの子……シーモアよ』

『この子を変えてしまったのは私……ごめんなさい……』

どういう意味なんだろう……
シーモア老師は何かとても大きな闇を抱えているのではないか。
召喚獣の言葉が分かる私だからこそ、彼の心の闇を少しでも払拭できるのではないだろうか。
だとしたら、ここであっさり断ってしまって良いものなのか……



「サクラ?」

「え!?」

いつの間にか目の前にいたリュックの声にびっくりする。

「ぼ〜っとしちゃって、大丈夫?」

「あ、ごめんごめん」

「おっちゃんもさ〜女子が言いたくないこと聞き出そうとしちゃダメだよ。ね、サクラ」

「ふん……」

私が考え事をしている中、リュックは助け船を出してくれたようだ。


「いつか……」

ぼそっと私が言えば、私から視線を外したアーロンさんがまたこちらを向く。

「いつか、お話しますから」

私の考えがまとまったら。
私の気持ちが固まったら。
その時にちゃんと話そう。

今この時点ではそこまでしか考えられず、待って欲しいということだけ伝えた。

「……俺はあまり気の長いほうではないからな」

アーロンさんはそう言ってまた私から視線を外した。
すると、今度はリュックに手招きをされる。

「ん?どした?」

アーロンさんから少し離れた所まで私を誘導すると、いつもより小声で私に囁く。

「ちょっと気になったんだけどさ、サクラっておっちゃんとどういう関係なの?」

「…………は?」

どういうって?どういう?

「恋人とか?」

「こっ……!?」

リュックの言葉に驚いて大きな声が出てしまった私は自身の口を押さえた。

「な、何でそうなるの!?」

「何か気付いたらいっつも側にいるし、おっちゃんはやけにサクラのこと気にかけてるし……こう大人な二人っていう感じ?」

確かに何か気が付くと側にアーロンさんがいたような……
意識すれば顔は赤くなり……

「あ、図星?」

「違うよ!」

ニヤニヤしながらこちらを見てくるリュックに思いきり否定する。

「な〜んだ。……でもその顔……ふふふ……」

何でこう、女子って勘が鋭いのかしら。
……私が隠すの下手なだけ?

こうしてリュックにも私の好きな人がバレたのであります。



―――――


そんなこんなでユウナ達が異界から戻ってきた。

「お待たせしました!シーモア老師に返事をしに行きます」

凄いなぁユウナ。
もう決心ついたんだ。
ユウナ達がこちらに向かって歩き始めると悲鳴が響いた。

「うわぁぁぁ!」

「ジスカル様!?」

悲鳴の方に目を向けると異界から這い出て来ようかというジスカル様がいた。

「ジスカル様……」

「迷って……いるようだな」

「どうして……」

「ユウナ、送ってやれ」

そこまで言うと、アーロンさんはその場に膝をついた。
とても苦しそうだ。

「アーロンさん!?」

この異界に来てから様子がおかしい。
私はアーロンさんを介抱するように肩に手を添えた。

「悪いな……大丈夫だ」

その間にもユウナは異界送りを終え、ジスカル様は異界へと旅立っていく。
異界送りの間アーロンさんは脂汗をかき、その呼吸は荒かった。

「話は後だ、ここを出るぞ」

ジスカル様が異界へと旅立った後、その場を後にしようとアーロンさんが促す。
私は辛そうなアーロンさんに肩を貸し、一緒に立ち上がった。

本当にどうしたんだろう……

アーロンさんの体に何か大変な事が起こってるのではないかと不安になる。

「アーロンさん……本当に大丈夫ですか?」

「すぐに良くなる」

その言葉は本当で、異界から離れるとアーロンさんの体調は元に戻っていた。
道中、ジスカル様は何であんな事に……という話題になった。
でも私はアーロンさんが心配でその話の内容は入ってこず、

「まともな死に方をしなかったということだな」

という言葉だけが頭に残った。
シーモア老師の召喚獣が言っていた言葉と何か関係があるのか……
実の父親がまともな死に方をしなかったなんて、それが事実だとしたらシーモア老師は……

「私、シーモア様に会ってきますね」

考えながら歩いていたらいつの間にかシーモア老師の屋敷前に着いたらしい。
ユウナが屋敷に向かって行く。

「ユウナ!ジスカルのことはグアドの問題だ。お前が気にすることはない」

アーロンさんがユウナに声をかけるが、その言葉は私にも向けられているようではっとする。
でも、そうは言われても出来れば何とかしたいと思ってしまう。
お節介なんだろうな、私。
私の考えが分かるのかアーロンさんは念を押すように私に向かって一言。

「お前も余計なことに首を突っ込むなよ」

「あ、はい……」

そんなことよりアーロンさんは大丈夫なんですか?
……って聞きたかったけど既に軽く睨まれている今、話を反らしたら恐ろしいことになりそうなのでやめておきました。




ユウナはノーの返事を持って屋敷に入ったらしい。
私はまだ決めてないのだけど……
中々出てこないユウナを心配に思っていると、ティーダがシーモア老師はマカラーニャ寺院へ向かったという情報を持ってきた。
そこにはいないシーモア老師を待っているであろうユウナに知らせる為、屋敷へと入る。
ユウナはジスカル様の肖像画の前にいた。
ユウナも気になるよね……

「ユウナ〜!シーモア老師は出掛けたみたい」

「行っくよ〜!」

私とリュックが呼べばユウナはこちらにやってくる。



「……にしてもよお、いくら老師様でも何も言わないで行くなんてなあ?」

「こんなに早く返事が来るなんて思ってなかったんじゃない?」

ワッカのぼやきに答える。
私はまだ答えを出せないでいるのに……そんな意味も込めて返事をしていた。
私の返事に納得した様子のワッカ。

異界で御両親に会い、決意を固めたはずのユウナ。
そんな彼女の顔を見ればどこか浮かない、深刻な顔をしていた。
ジスカル様のこと……かな。

「ユウナ……何かあったのか」

私が聞くよりも早くアーロンさんが聞く。
よく見てるなぁ。
周りが見えているアーロンさんに関心する。
異界ではあんなに辛そうだったのに……

「……いいえ、何も」

しかし、ユウナは何も言わなかった。
その顔、何もなくないでしょうに。
バレバレの嘘に「隠し事が下手だな」とアーロンさんに鼻で笑われている。
私も隠し事上手な方じゃないかもしれないけど、ユウナは本当に分かりやすい。
素直な子だからこそなんだけど。
また何か一人で抱え込もうとしているんじゃないか。
人に迷惑をかけまいと一人で解決しようとしているんじゃないか。
そんな風に思った私はアーロンさんに続いて声をかける。

「ユウナ、何かあったら相談してね?一人で抱え込んじゃダメだからね?」

「サクラ……うん、ありがとう」

ユウナの笑顔に微笑み返し皆の方に向き直る。

「行きましょう!」

ユウナの掛け声で私達は次の目的地へ行くため、雷平原へと向かった。

とっっっても足取りの重いリュックを最後尾にして。



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