記憶の彼方


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1章


……はて?
ここは?

見たことのない、のどかな風景。
そして、目の前には若アーロン……


……え?



「アーロン!!?」

私を見ていた目の前の赤い人は更に目を見開いた。

「なっ!何故俺の名前を……」
「えっ?えっ!?えええぇ!?えっと……私はゲームのスイッチを入れて、それで……」

目の前の人の言葉など耳に入ってこず、言葉を遮るようにして叫びうろたえる。
いやいや、だっていつも通りゲームのスイッチ押して、そしたら何かいきなり真っ白になって……

混乱している私の様子に敵意がないと判断したのか、目の前の彼は刀から手を離し低い声で促した。

「……とりあえず落ち着け。とって食ったりはせん」

しゃべった……

ゲームで聞いていたあの声だ。
あ、何か感動。
しばらく私は固まった。


あぁそうか、疲れてたから寝落ちしたんだな、うん。

「………ということは、これは夢?」

うん、きっとそう。
コスプレにしてもゲームのアーロンさんそのままだし。
こんな人リアルにいたら人目を惹いて仕方ないと思う。

「何を言っているのかわからんが、お前は何者だ?」

夢の住人であろうアーロンさんは私に質問を投げかける。

夢と確信した私は堂々と言った。

「私、サクラといいます。アーロンさんに逢えるなんて、嬉しいです!」

「……?お前俺の事を知っているのか?」

「当たり前ですよ!大好きですもん!」

私は自分の胸の前で手を組みながら言った。
アーロンさんは開いた口が塞がらないといった様子。

そりゃそうだよね、初対面の相手にこんなこと言われちゃあね。
夢じゃなかったら絶対に言えないセリフ。

でもまぁ夢だし、何言っても大丈夫!

それでも少しドキドキしていると、他にも視線を感じた。

「なんだ!アーロン、すみにおけねぇなぁ!」

「こらジェクト、もう少し様子を見ていたかったのに。私達の事は気にしないでどうぞ続けて」

おお……

あのお二人にも会えるなんて……
なんていい夢なんだ。

そこには満面の笑みのジェクトさんとブラスカさん。
それを見てアーロンさんは眉間に皺がよる。

「……ジェクト、ブラスカ様……いつからそこに?」

「「大好きですぅ!」」

……おじさまズで私の声真似はどうかと。
胸の前で手を組む格好まで真似しながら。

そして聞こえる溜め息。

「あの……握手してもいいですか?」

そんな空気なんて御構い無しに私はアーロンさんに求める。
次にこんな夢が見られるのはいつかわからないもんね。
普段の私だったらこんなに積極的に話せないんだけど。
夢って最高!
アーロンさんは無言で手を差し出してくれた。

「ありがとうございますっ!!」

うわぁ……優しいなぁ……
差し出されたごつごつした大きな手……夢だとわかっていても鼓動は早くなる。

……あれ?やけにリアルな感触……

夢……だよね……?

あまりにも感触が、リアルだったものだから顔が熱を帯びてくる。

「……おかしな奴だな。俺なんかと握手をして何が嬉しい」

「アーロンは鈍いからねぇ……貴女お名前は?」

ブラスカさんが私に聞いてくる。

でもまだアーロンさんの手の感触が残っていて、ぼーっと余韻に浸っていた私は答えられずにいた。
そんな私の様子を見かねたアーロンさんが、代わりに答えてくれていた。

「サクラと、いうそうです」

「そうかい。そんなに顔を赤くして、可愛いね♪」

「かわっ!?」

その言葉に免疫がない私は更に顔が熱くなる。
やっぱり夢でもそれは恥ずかしい……

そのあと、ブラスカさんとジェクトさんが自己紹介をしてくれた。
存じ上げておるんですがね。


「ところで、サクラさんはどこから来たんだい?」

「えっと……」

何て答えよう……日本です!とか?
考えていると、

「こいつ、突然光の中から現れたんです!」

へぇ……そんな感じだったんだ。
自分でも良くわからなかった出現方法をアーロンさんが、説明してくれた。

「お前ももしかしてザナルカンドから!?」

不思議な出現方法にジェクトさんが、食いついた。

「あ……いやちょっと違いますね……」

故郷に帰りたいんだよね……
ゲームのストーリーは知っているから、ジェクトさんの身の上ももちろん知っている。
まぁこの夢がそのままFFXのストーリー通りかは知らないけれど。
私の返事にジェクトさんが見るからにがっかりするあたり、私の知ってるお話で良さそうだ。

「そうか……帰る手掛かりかと思ったんだけどな……」

何かごめんなさい、ジェクトさん。

「光の中から……か……何だかスピラではない、他の世界から来たみたいだね」

冗談めいてブラスカさんが言う。
間違ってはいない。

「そうですね。そんな感じです」

私が肯定すると、3人共目を見開いた。

「……冗談のつもりだったんだけどな……」

ブラスカさんが、はは……と頬をポリポリと掻く。

「で、どうするんだ?嬢ちゃんはこれからどこか目的があるのか?」

嬢ちゃんですと……?
私立派に成人してますけども?
普段から高校生?とか子供扱いされることが多かった私は少ししかめ面になっていたようで、

「あ、『嬢ちゃん』は気にくわなかったか、わりぃわりぃ」

ジェクトさんが謝ってくる。

「いえ……そういう訳じゃないです。ただそんなに若くないので。もう23になりましたから」

少しむくれて言えば、

「「「?!!」」」

三人の驚愕した顔。
え?そんなに驚くとこ?

そしてあなた方、全身見すぎだから。

「あー……そうか、悪かった。どうみても二十歳はいってないと思ってな」

喜んでいいんだよね……?
全身見られてからそう言われると何だか複雑……
確かに子供っぽいとはよく言われるけどさ。

ジェクトさんが、フォローしてくれる。

「別に身体が子供っぽいとか、童顔だとか言ってるわけじゃねぇぞ」

……言ってるよ、しっかりと。

「ジェクト、フォローになってないから……」

私のむすっとした顔を見ながらブラスカさんがおろおろとジェクトさんに言う。
ええ、ええ、どうせちんちくりんですよ。

「話を元に戻そう。どこか行く当てはあるのか?」

大好きなアーロンさんに言われ、ぷりぷりしてた私は一瞬で心が晴れた。

「うーん、正直ここがどこだかも分からないですし……」

ビサイドでもないし、ミヘン街道とかでもなさそう。
ゲーム中でも見たことのない風景を見渡しながら私は言った。

「じゃあ私達と一緒に行くかい?」

「ブラスカ様!?」

さすが、夢。
いい方向に話が進んでいく。

「ですが、我々は大事な旅の最中ですし……」

大事な旅……。
やっぱりこれから『シン』を倒しに行くつもりなんだ。

「じゃあ知らない土地に来た彼女を放っておくのかい?」

「それは……」

「いいじゃねえか、むさ苦しい男ばっかより華があったほうがヤル気が出るってもんだ」

ブラスカさんとジェクトさんにいいくるめられたアーロンさん。
ゲームの中の彼と全く同じ、堅物だなぁ。
それでも渋々、旅の同行を認めてくれた。

「いいか、お前は俺達の側から離れるな。村の外には魔物がいる。気を抜くなよ」

「はいっ!!」

うわぁ……幸せだぁ……
俺(達)の側から離れるなだって……
やば……鼻血でそう。
もう少し目が覚めないといいなぁ……

事の重大さに気付いていない私は、ただただ今の幸せを楽しんでいた―――



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