記憶の彼方


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17章


『シン』……

キーリカの村を吹き飛ばし、多くの命を奪ったモノ……
その姿がまた海に見える。


―――胸が温かい。

その違和感に視線を落とすと、それまでただただ私の胸にあったペンダントが光り始めていた。

「これは……?」

ペンダントを眺めていた時、けたたましい音が鳴った。
視線を向けた先ではアルベド族が用意したであろう機械から砲撃が発射されていた。
いくつもの砲撃は見事に『シン』に直撃し、『シン』からコケラが剥がれていく。

その直後『シン』が膨大なエネルギーを溜め込み始めたのが分かった。


キーリカの村がフラッシュバックする。

このままではあの時と同じ……
あの惨状をまた見ることになる。
それだけは嫌だ……!

何とかここにいる皆を守りたい。
私にそんな力があるなんて思ってない。
だけど何もしないではいられなかった。


私は両手を組み、祈りを捧げるような格好をとる。

そして、




守りたい……!!




そう強く願った。

「サクラ!?」

皆の声が聞こえる。

今自分はどうなっているんだろう。
すごく体が軽い。

下を見れば『シン』に向かって砲撃する人やコケラ達と戦ってる人達が目に入る。


え……私……浮いてる……?
え?え?何で?

自分でもびっくりして目を丸くするが『シン』の膨大なエネルギーを感じ、それどころではないことを思い出す。

それよりも早く……!


私は頭に浮かび上がった魔法を唱え始めた。
唱え終わると胸の前で組んでいた手を大きく広げ、出来るだけ広い範囲に影響がありますようにと願いを込める。

「っ……!なんだ……?この温かい光は……」

そこにいる人達が淡い光に包まれる。

それを確認した私が『シン』に視線を移すと、それまで溜め込んでいたエネルギーを吐き出したところだった。
それは容赦なく前線にいる人達を呑み込んでゆく。
その光の中に消えていく無数の人影。

まただ……
あの絶望感に苛まれる。


やっぱり守れなかったの……?


事の顛末を見る気力もなく、自分の持つ魔力以上の力を解放した私はそのまま目を閉じ落下感に襲われた―――



―――――


「サクラ……サクラ……」

え……?

気がつくとそこは白く、何もない空間だった。
そこに見えたのは召喚士のような格好の男性。

その男性が話しかけてくる。

「サクラ、10年ぶりだね」

10年……
あなたも私の過去を知っているの?

「そうだね……君の祖先の頃から知っているよ。そう……1000年程前のね」

……あなたは……?

「私は……エボン……」

エボン……

え?え!?

どうしてエボン様が!?

「君に会いに来たんだ」

私に……?

「そう、私を消滅させる方法を思い出して欲しくてね」

どう…いう…ことですか……?

「私はもう自分を制御することが出来ない。こうなることを予知していた私の妻が私を救ってくれる方法を知っていたはずだ。

それが君の先祖。

私はこうなる時に妻を別の世界に飛ばした。でなければあの戦場で命を落としてしまったかもしれないからね。

……そのペンダント、懐かしいな。私が妻に送ったものだ」

そう言って私の胸元へ視線をやる。
私の頭の中は混乱していた。

何でエボン様を消滅させなければいけないのか。
このスピラのどこかにエボン様がいるということなのか。
1000年前の人が何故……?
こうなる時にって?
エボン様はどうなったの?
私の祖先がエボン様?

分からないことだらけだ。

「聞きたいことは山程あるだろうね。無理もない、君の記憶を消してしまったのは私なのだから……」

え……ウソ……

「ああ、もうお目覚めの時間らしい。ザナルカンドに着く頃には思い出すんだよ。今度こそ終わらせるんだ。

この死の螺旋を……」

ちょっ……!
待って……!!



―――――



「待って!!」

「サクラ!?」

手を伸ばして目を開ければそこはもう真っ白な空間ではなかった。
背中には岩の冷たい感触。
後頭部には柔らかい布の感触があった。

「夢……?」

体を起こして辺りを見渡せば私の声に驚いた皆の視線が突き刺さる。

「あ……私……」

「もう!また心配かけて!」

ユウナの言葉にまた倒れたのだと自覚する。

「ごめんなさい……」

またやってしまった……
でもあの時は皆を助けたい一心だった。
そういえば……!

「そうだ!『シン』は!?討伐隊の皆は!?」

ミヘン・セッションはどうなったのか。

「『シン』は去った」

アーロンさんが質問の一つの答えをくれる。
声の方を向くと逞しい両の腕が惜しげもなく晒されていた。

あれ?上着は?

ふと自分の頭があったそこを見れば見慣れた着物。

「あ!これアーロンさんの!ご、ごめんなさい!!」

急いで拾い上げババッとそれに付いた土や汚れを払い落とす。
憧れのアーロンさんの上着を枕にしていたなんて……

「後で洗濯します!!」

「気にするな」

「サクラ……あの魔法凄かったね」

「え?」

「あなた、ここにいる全員にリレイズかけたでしょ」

リレイズ……?

ユウナ、ルールーに言われ私が唱えた魔法の正体が分かった。
あの時は頭に浮き上がった呪文を唱えただけで、正直それが何の魔法だか分かっていなかった。

「リレイズってすごい魔力を消費するはずなのに、あんなにたくさんの人にかけるなんて……無茶苦茶だよ」

「ははは……」

そりゃ倒れるわな。
でも、ということは……

「天使様!」

「気がつかれましたか!!」

……は?
天使様?
頭に?マークをたくさん浮かべていると、その声を聞いた討伐隊の人達が押し寄せてきた。
その視線の先はどう見ても私だ。
私は助けを求めるようにユウナの方を見る。

「ふふ、サクラがリレイズをかけてくれていたから『シン』の攻撃を受けた人達も大丈夫だったんだよ」

そうなんだ……
私、助けることが出来たんだ……
良かった……

私の近くに集まってくれた皆の元気な姿を見て熱いものが込み上げてくる。

「頑張ったな……」

「アーロンさん……」

頭にポンと手を置かれれば、それは涙を流すスイッチを押されたようで。
私は両手で顔を覆い肩を震わせた。



その後、アルベド族の機械の攻撃でも『シン』を倒すことは出来なかったと聞いた。
アーロンさんの言っていた通りだ。
やっぱり『シン』を倒すには究極召喚しかないのか……

その場を後にしようとした時だった。
崖の下にアルベド族の大きな機械が見えた。
それはもう原型を留めておらず破片が散乱し、海をも汚していた。

そこに見えた布に包まれたモノ。

数で言うと50…いやもっとだろうか。

「あれは……?」

『シン』の攻撃を受けた人達は皆無事だったんじゃないの?
あれはどう見ても、遺体……

私の質問に答えてくれる人はいなかった。
皆目をそらしている。

「ねぇ!?」

「彼らは二度攻撃を受けてしまったのです」

「え……?」

私の質問に答えてくれたのは穏やかな声。
声のする方を見れば、そこにはシーモア老師。

二度……
ということは、あの後にも攻撃があったの?

「アルベド族のあの大砲……『シン』と押し合い……そして負けました。その時に近くにいた者達です」

そんな……
全員を救えた訳じゃなかった……

「貴女は充分過ぎる者達を救った。落ち込むことなどありません」

後悔の念に苛まれている私にシーモア老師は優しく言葉をかけてくれる。

「素晴らしい魔力ですよ。貴女もこのスピラの希望となることでしょう」

そう言いながら頭を撫でてくる。

「……気安く触るな」

「おやおや……」

何故かアーロンさんがシーモア老師の手首を掴み私の頭から引き離した。

「それでは私はこれで。ユウナ殿、サクラ殿、また後程……」

「は、はい」

ユウナは返事をしていたが私はショックで頷くことしか出来なかった。


シーモア老師の背中を見送った後、いきなりの吐き気に襲われた。
皆から離れた所に行こうと思うが耐えきれずその場に膝をつく。

「がっ……!!」

目の前が真っ赤に染まる。
自分の吐いたモノで地面には血溜まりが出来ていた。

「あ……」

「サクラ!?」

「お、おい!」

「大丈夫か!?」

やっぱり無理しすぎたかな……?

「ごめん……吐いちゃった」

はは……と申し訳なく笑う。
吐き出したら少し楽になった。
少し眩暈がするだけ……
うん、大丈夫。

「全然大丈夫だから。行こう?」

「馬鹿者!!」

「っ!!」

アーロンさんの怒号に皆が固まる。
怒鳴られた本人も目を見開き固まってしまった。

「あれだけ自分の体のことも考えろと言っただろう!!」

「あ、アーロンさん……そんなに怒らなくても……」

「いいや、こいつは強く言っておかんとわからん!!」

ワッカがアーロンさんを鎮めるように中に入ってくれるが、もう涙は溢れ出していた。

「あ〜あ、アーロン泣かした。サクラ、こっち来るッス」

ティーダが手を引いてくれる。
そのまま私を海の方へ連れて行ってくれた。

「ちっ……!」

「アーロンさんどうしたんだろう……」

「何だか荒れてるわね……」



―――――



「ん、ティーダありがとう」

私はティーダに促され、海水で血で汚れた手や顔を洗った。

「アーロンさん……すごい怒ってたね……」

「俺もあんなに怒ったアーロン初めて見たかも」

「私……どうしよう……」

さっきは頑張ったななんて褒めてくれたと思ったのに……

「たぶんさ」

ティーダが少し視線をずらして話す。

「サクラのことすごく大事なんだよ」

……何で?
私が首をかしげているとティーダは語り始めた。

「俺、10年前にアーロンに初めて会ったんだけどさ、その時に言ってたんだよ。胸に赤いペンダント、右手首に自分と同じブレスレットをしている女は来ていないかって。あの時は俺も子供だったし、その人がアーロンとどういう関係なのか想像も出来なかった。
でもあの時のアーロンの顔……すごく切ない顔してた。
あれはきっと大切な人を探してたんだ」

そこまで話して私を見る。

「サクラのそのペンダントとブレスレット……アーロンが言ってたそのまんまなんだよ。
アーロンが探してた人って……」

「私じゃないよ」

ティーダの言っているアーロンさんの大切な人と私は別人だよと力なく笑う。

「そうかなぁ?」

「そうだよ。だってそんな大切な人だったら言ってくれるはずだもん」

隠す必要なんてない。
でもアーロンさんは旅先で会っただけだって言った。

「でもそっか……アーロンさん、大切な人がいるんだね」

そりゃあ伝説のガードだもん、そういう人がいないほうがおかしいか。
少しショックかな……
私は自身にケアルをかけ、ティーダを促した。

「ティーダ、行こ?」

「あ、ああ……」

アーロンさんに謝ってそれで終わり。

ぱんっと両手で頬を叩いて気合いを入れる。

よし!



「絶対サクラのことだと思うんだよなぁ……」

ティーダが後ろで呟いていた。



―――――



「アーロンさん、すみませんでした!」

全力で頭を下げる。

「いや、俺も言い過ぎた……」

「でも私は皆を助けたかった……」

「ああ……だがガードが倒れてしまっては召喚士が危険に晒される。それだけは肝に命じておけ」

「はい」

私は目に力を込めてアーロンさんを見る。

「その時は俺達だっているだろ?」

「そうね、ガードはサクラだけじゃないしね」

「確かにサクラは頼りになるけどさ、俺達のことも頼って欲しいッス!」

「キマリも守る」

ワッカ、ルールー、ティーダ、キマリがフォローしてくれる。

「フッ……頼もしい限りだな。……悪かった」

またポンと頭に手を置かれ、くしゃっと髪を乱される。

「皆……ありがとう」

その様子を見ていたユウナが微笑み、先へと促す。

「じゃあガードの皆さん、よろしくお願いします!」




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