記憶の彼方


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13章


ルカに着けば、そこはものすごい数の人が選手達を今か今かと待っていた。
前にもワッカの試合を見に訪れたことはあったけど、ここに来る度にブリッツボールの人気の高さを感じる。

ワッカ達が船から降りれば最弱伝説だの、初戦敗退記録だの言われたい放題だ。
そのあとのルカ・ゴワーズの贔屓加減といったら凄かった。
毎度のことながら腹が立つ。
いつものことだとワッカは自嘲しているが、今回はいつもと違っていた。

「チョーシ乗んなよゴワーズ!」

高いところからティーダが叫ぶ。
彼もこのナレーションやら、ゴワーズの選手達に苛立ちを覚えていたのだろう。
でも、それを口に出せるってすごい度胸だ。
ティーダの行動にワッカやルールーは頭を抱えていたが、私とユウナはおかしくて笑っていた。

すると、

「マイカ総老師ご到着だぞ!」

そんな声が聞こえる。

「ユウナ、私達もお迎えに行こう」

「うん!」

マイカ総老師、このスピラで一番偉い人。
今年は総老師50周年記念大会ということで観戦に来られたのだ。
私達はお迎えの為に3番ポートへ向かった。


3番ポート、マイカ総老師の前に目に入ったのは青い髪をした青年だった。

(グアド族……?)

不思議に思って見ていると目が合った。

それはとても長い一瞬。
失礼なことをしたと思い私は目を伏せた。

その後にマイカ総老師の挨拶があり、青い髪の青年の紹介があった。

「おそれ多くも老師の位を授かりました、シーモア=グアドと申します」

とても穏やかな声。

だけどどこか影を持っているような、そんな声。
挨拶を終えるとシーモア老師はユウナを見て、再び私を見た。
ユウナと顔を見合わせ首を傾げる。
深くは考えず、気合いの入ったワッカを追うように選手控え室へと向かった。

「ティーダは余裕そうだね」

「あ?まぁこういう試合前の緊張感っていうの?慣れてるし」

ワッカ達は今更基本ルールの復習なんかしてる。
ブリッツ……いやスポーツ全般においてだけど、もう何年も続けているのに試合前にルールの復習というのはどうだろう?
大事だとは思うよ?
でもさ、基本プレイの復習とか作戦練ったりとかのほうが良くない?

ティーダも暇そうだし……

ティーダと話していると控え室の扉が開く。
開けたその人は少し興奮した様子で話し始めた。

「聞いて!カフェでアーロンさんを見たって人がいたの!」

「アーロン……さん……?」

もちろんその名前は知っている。
ユウナの父、ブラスカ様のガードをした人だ。
伝説のガードなんて呼ばれている。
そんな人に会えるなんて、それは胸が高鳴るだろう。
だけど、私は今までもその名前を聞く度に胸が締め付けられるようなそんな気持ちになっていた。
以前にユウナに「それって恋じゃない?」なんて言われたこともあった。

会ったこともないのに?

これはきっと憧れ……
そういった感情なのだと自分の中で解釈した。

ティーダもさすがにアーロンさんのことは知っているようで、反応していた。

「会いに行こう!」

ユウナの言葉に断る理由もなく、私とティーダは緊張しまくっているワッカを残し控え室を後にした。


―――――


「ここにアーロンさんが……?」

カフェの前で立ち止まる。
伝説のガードがそこにいるのかと思うとどうしても緊張してしまう。
意を決してカフェに入ってみるもそこにアーロンさんの姿はなく、言い争っている怒鳴り声が聞こえた。
少しガッカリしてそちらに目を向ければ、見知った顔。

「キマリ!?」

キマリは目の前の二人のロンゾ族の嘲笑うかのような声をただ静かに聞いている。

「ティ、ティーダ、止めようよ」

「やっちゃえば?」

「ええ!?」

止めるどころか二人のロンゾ族の言葉にムッとした様子のティーダは更に喧嘩に拍車をかける。
そしてキマリが手を出してしまい殴り合いの喧嘩が始まってしまった。
どうしよう……とおろおろしているとモニターからマイカ総老師の声が聞こえた。
モニターを見るため振り返るとユウナの姿がないことに気付く。

「ティーダ!キマリ!ユウナがいない!」

私達は急いでカフェを出た。
カフェの外には息を切らしたルールー。

「ルールー!」

「あんた達、何してたのよ!」

ルールーは開口一番私達を叱りつける。

ユウナがさらわれた。

それをルールーから聞き、ユウナから目を離した自分を責めた。
まさか、誘拐なんて予想もしていなかった。
何のためのガードか。

とうやらアルベド族が犯人らしい。
何のためにユウナを?
理由を探るより早くユウナの安全を確保しないと!

急いでアルベド族の船に乗り込むと、アルベド族らしく機械で出迎えてくれる。

「ユウナを返しなさい!」

怒りに任せて私は魔法を連発する。
魔力の限界なんて知ったことか。
すぐ助けるから待っててユウナ!

思ったよりも耐久力はなかったようで、私の魔法だけであっさりその機械は崩れ落ちた。

「ユウナぁ、ごめんね〜!」

奥から出てきたユウナに私は抱きつき謝った。

「大丈夫だよ、サクラ」


「ルールー……サクラって怒らせちゃマズいタイプだな」

「そうよ、気を付けなさい少年」


―――――


ブリッツのほうはといえば、ワッカ達ビサイド・オーラカはティーダの活躍もあり見事優勝を勝ち取った。

「すごい……ホントに優勝しちゃった……」

「やっぱりザナルカンド・エイブスのエースなんだよ!凄い凄い!」

「……ワッカ達も頑張ったわ」

場内もまさかの展開に興奮が冷めやまない。
その歓声に混じって、この会場には似合わない悲鳴のような声も聞こえる。

「悲鳴……?」

「サクラ、ルールー!行ってみよう!」

頷き、私達は外へと飛び出した。


―――――


「何、コレ……」

そこは魔物で溢れかえり、それまでブリッツに沸いていた筈の観客達が逃げ惑っている。
討伐隊が多く配置されている筈のこの場所に、こんなに魔物がいるなんておかしい。
今は魔物の出所を探るより目の前の人達を助けなければ。

私達は手当たり次第に魔物を倒していく。

「何がどうなっているの……!?ブリザド!!」

また一匹幻光虫となり空に散っていく。
さっきのアルベド族の機械を倒した時に魔力をだいぶ使ってしまったようで、私は既に息が上がっていた。

「はぁ……はぁ……きっつ……」

膝に手をついて息を整えていると視界の右側に魔物の爪が見えた。
辺りを見渡す余裕もなかった為、気付くのが遅れた。
すぐに来るであろう衝撃を覚悟して瞼をきつく閉じる。
しかしいくら待ってもそんなものは来ない。

恐る恐る瞼を開けると、そこにいた筈の魔物の姿はなく、代わりに紅い着物を着崩した人が立っていた。



紅い着物。

肩に担いでいる大太刀。

あれは、もしかして……




「アーロン……さん……?」




私は憧れていたその人の名を呼び、目を丸くして見つめた。
私の声にアーロンさんもこちらを見る。
その途端、私のそれと同じようにサングラスの奥の目が見開かれる。




「サクラか……?」




え?今、私の名前を……?
私の考えを邪魔するかのように魔物が襲いかかってくる。

「話しは後だ、片付けるぞ!」

「は、はい!」



その後、ティーダやワッカ達も合流し魔物達を倒していくが一向に魔物が片付く気配がない。

「なんだよ、これ!」

ティーダが叫ぶが、もう私は限界だった。

「ごめ……私もう無理……」

「サクラ!!」

アーロンさんが叫ぶ。

何で私の名前知ってるんですか?

そう聞きたかったけど声が出なかった。

その時哀しい鳴き声が耳に入る。
声の主を探そうとすれば、それは泣いているかのような召喚獣。

喚び出しているのは……シーモア老師。

その召喚獣は無数の魔物達を一瞬にして幻光虫に変えていく。
その様子は圧巻の一言だった。






泣いているの?

とても哀しそうなその召喚獣に私は話しかける。

『貴女は……』

とても哀しそうだったから。

『哀しいのはこの子……シーモアよ』

シーモア老師が……?

『この子を変えてしまったのは私……ごめんなさい……』

そう言うとその召喚獣は消えていった。



―――――



……!!

……サクラ!!


色んな声が聞こえる。
その呼び掛けに重たい瞼を開ければ見知った顔達が私を見下ろしていた。

「あ、れ……?私……」

どうやら気を失っていたらしい。

「良かったぁ。サクラ無理しすぎだよ」

「ごめん、ユウナ」

まだ重たい体を起こそうとすると背中に誰かの手があてがわれているのに気付く。

「ん?」

横を向いていた顔を正面に戻せば、サングラスの奥の目と目が合う。
それが伝説のガード様だと理解するのに時間はかからなかった。

「アアアアアーロンさん!?」

膝枕というか、横抱きにされている状態だ。
その状態から飛び起き、正座をしてアーロンさんと向き合う。

「あ、ありがとうございました!!」

「少しは自分の体のことも考えろ」

「すみません……」

どうも自分のこと以外を優先してしまい、気付いた時には体が限界になっている。
もっと上手くペース配分しなきゃとは常日頃から思っていた。
でなきゃ今回みたいに皆に迷惑がかかってしまう。

ふと、まだアーロンさんに挨拶していないことに気付き慌てて背筋を伸ばす。

「あっあの!さっきは助けて頂いてありがとうございました!挨拶が遅れてしまって申し訳ありません。私、サクラといいます!」

頭を下げて挨拶をし、握手を求め手を差し出す。

「初めまして!」

そう言いながら。




「な……に……?」

おかしなことを言っただろうか。

アーロンさんは目を見開き私を凝視していた。




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