記憶の彼方


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5章


その後、魔物の攻撃で裂けてしまった服を新調するため買い物に行くことになった。
もちろんあんなことがあった後だけに、皆さん付いてきてくれた。

「これなんかいいんじゃねぇか?」

そう言ってジェクトさんが選ぶのは露出の高い服。

「ちょっとそれは……」

さすがに少し動いただけで見えちゃいけないところが見えちゃいそうだ。
ブラスカさんも娘に服を選んでいるかのように色々すすめてきてくれる。
アーロンさんの意見も聞きたいと思ったけど、店の外で待っていると言って早々に出ていってしまっていた。

「ホントにあいつは堅物だよなぁ。サクラちゃん、こんなの着てあいつの前に立ってみたらどうだ?」

「だから、露出が高すぎますっ!」

ジェクトさんがすすめてきたのは肩から鎖骨まで隠すことのないチューブトップのような物にヒラヒラしたミニスカート。
それでもさっきすすめてきた胸の谷間がばっちり見える物よりマシだったが。
確かにアーロンさんの反応を見てみたいという気持ちもわかる。

「……下にコレを着るならいいかな」

私が手に取ったのはキャミソールみたいな物と七分丈程度のレギンス。

「まぁいいんじゃねぇか?」

そしてブラスカさんはブレスレットや指輪といったものを選んでくれた。
魔力を増強するものだったり魔物の攻撃を防いでくれるものだったりといったものらしい。
ゲームで見てはいたが実際付けてみると自分の魔力が増幅しているのが何となくわかる。
試着室で選んだ物に着替える。
カーテンを開けるとジェクトさんはひゅぅと口笛を吹き、ブラスカさんは目を丸くした。

「……どうでしょうか?」

「最高だぜ!目の保養だな!」

「さっきの服も良かったけど、すごく似合ってるよ」

肩の怪我が気になるわけじゃないけどやっぱり肌を隠したいのもあり、ショールのようなものも一緒に買ってもらった。
試着したそのままの格好でブラスカさんが会計を済ませてくれて、店の外へ向かった。

「アーロンさん、お待たせしました」

「……ああ」

私を見たアーロンさんが一瞬固まったような気がするけど、アーロンさんはすぐに目を背けてしまった。
私はジェクトさんにこそっと声をかける。

「アーロンさんいつも通りでしたね」

「そうか?俺はおもしれぇ顔が見れたけどな」

アーロンさんの後ろ姿を見て、クスクスとジェクトさんとブラスカさんが笑っていた。
それに気付いているのかいないのかアーロンさんはこちらを振り向き、早く行くぞと催促していた。


―――――


そのまま旅を再開した私達。


「ちなみにお前は俺達の旅の目的は知っているか?」

村の出口に向かいながらアーロンさんが聞いてくる。
ブラスカさんとジェクトさんは少し前を歩いている。
アーロンさんの質問にゲームをやりこんでる私は即答した。

「はい!『シン』を倒すために旅をしてるんですよね!」

その先のことだって知ってるはず。
なのにうまく思い出せなかった。
このまま旅を続けて、どうなるんだっけ?
一生懸命記憶を探るが頭の引き出しから出てこない。
それどころか、その引き出し自体なくなってるような気がした。

「そうだ。それがわかっていれば充分だ。……どうした?」

私はその場に立ち止まり、考え込んでいた。

「……いえ、何でもないです」

「……?そうか」

怪我をした時に一時的に記憶が飛んだんだろう、そう思うことにした。
私達はジョゼ寺院を目指し、歩を進めた。
道中、回復魔法しか使えない私はブラスカさんの魔力温存の為、一生懸命傷付いた皆さんの回復に専念した。
何故かジェクトさんはわざとダメージを受けているのではないかと思うことが度々あったが、気にしないことにした。

「回復してもらうんだったらブラスカよりサクラちゃんのほうがいいな!」

陽も落ちてきたので、今日は野宿をすることになった。
火を起こしながらジェクトさんが笑う。

「私なんかの魔法じゃまだまだですよ」

「俺はサクラちゃんがいいんだよ。これからも頼むぜ」

「?は、はい……」

私よりブラスカさんのほうがいいと思うけど……
でも頼りにされてると思うと嬉しかった。
すると、いつもより大きなアーロンさんの声が響いた。

「おい!無駄口を叩いてないでさっさと火を起こせ!」

「おーおー、男の嫉妬は見苦しいねぇ」

ジェクトさんはアーロンさんに聞こえないように呟いた。

「え?嫉妬?」

私もよく聞こえなかったのでジェクトさんに聞き直したが、微笑まれるだけで返事はなかった。

「サクラさんが来てくれたおかげで旅が賑やかになったね」

ブラスカさんが、薪を手にやってきた。
後ろにはブラスカさんの倍以上の量の薪を持ったアーロンさん。

「アーロンさん!そんなに持って大丈夫ですか!?」

私も持ちます!とアーロンさんに、駆け寄る。

「こ、これくらい大丈夫だ!お前は座ってろ!」

アーロンさんは私を振り払うように避ける。

「サクラさんは優しいね。そういえば、料理の経験とかはあるのかな?」

アーロンさんに振り払われてしまった私は、行き場を失った手を降ろしブラスカさんの方に向き直る。

「あ、はい、少しくらいなら」

一人暮らしの経験があったので、簡単な料理くらいだったら人並みには出来るつもりだ。

「それは頼もしい!いやね、見ての通り男だらけだろう?やっぱり女性の作った料理が食べたくなってね」

まぁ、それは確かに。

「私で良ければ作りますよ。大したものは出来ないですけど……」

「ヒャッホー!!サクラちゃんの手料理が食えるぜ!!」

後ろからジェクトさんの声が響く。

「そんなに期待しないでください!」

人様の為に料理を作るなんて、どれくらいぶりだろう。
美味しく出来るかなという不安もあったけど、それ以上に役に立ちたいという気持ちが強かった。
よし!と気合を入れて調理を始める。
途中私の様子を見に来るジェクトさんや、何か手伝おうかと声をかけてくれるブラスカさん。
アーロンさんは少し離れた所で魔物が近付いてこないか見張ってくれているようだった。


今日ある材料で出来たメニューは……


野菜の即席漬け
魚のムニエル
葉野菜のスープ


何とか納得のいくものが出来たつもり。

「……すごいな……」

並べられた料理を見てアーロンさんが感嘆の声を出す。

「本当に……手際もいいね」

「お口に合うか分かりませんが、どうぞ召し上がってください」

私の台詞を待ってましたと言わんばかりに、焚き火を囲んで皆が食べ始める。

「いっただっきまーす!!うめぇ!!全部うまいぞ、コレ!!」

「ジェクト……静かに食えんのかお前は」

「でも、これは本当に美味しい。想像以上だよ」

ガツガツと食べ進めるジェクトさん。
ブラスカさんも美味しそうに食べてくれている。
そんな中、いつもとあまり表情を変えないアーロンさん。

「アーロンさん、お口に合いませんか?」

私は心配になって、アーロンさんを覗きこむ。

「そ、そんなことは言っていない。……うまいぞ」

その言葉を聞いて安心した。
ほっとして笑顔になる。

「良かったぁ!」

アーロンさんは私の顔を見ると、少し微笑んだように見えた。
その顔がすごく近くにあったことに気付いた私は、パッと顔を離した。
頬が熱くなってくる。

「嫁さんに欲しい位だな。でもなぁ、ウチのガキにゃあまだ早いしな。残念だ」

「アーロン、これは手放せないね」

にこっと微笑むブラスカさんの言葉にアーロンさんはスープを吹き出し、むせこむ。

「げほっ……ブラスカ様っ!!」

「ああ、ごめんごめん。ふふっ」

ブラスカさんは楽しそうに笑っている。

「アーロン、顔が赤いぜ」

ジェクトさんもからかうように笑う。

「……後で覚えておけ……」

こうして賑やかな夜が更けていった。




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