記憶の彼方
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3章
どれくらい寝てたんだろう。
目が覚めると自分の部屋とは違う天井が目に入った。
「ん……あれ……?ここは……?
……つっ……!!」
体を起こそうとすると左肩に痛みが走る。
痛みのある場所を見ると、そこには綺麗に包帯が巻かれていた。
「私……確か夢を見ていて……」
おかしい。
この部屋に見覚えがない。
それに寝落ちする前に包帯なんて巻いた覚えがない。
痛みも続いているなんて……
その時、ドアが開く音がした。
がちゃりという音とほぼ同時に聞こえた声は聞き覚えのある声だった。
「!!目が覚めたのか!!」
「アーロン……さん……?」
その声の主の名を呼ぶ。
理解出来ないというように。
何でまだアーロンさんがいるの?
だって私夢を見ていて、今目が覚めたところで……
「……おい……気分が悪いのか……?」
頭の中でいろんな事を考えていると、アーロンさんが心配そうに聞いてきた。
「……アーロンさん……、これって夢じゃ……ないんですか……?」
私の言葉にアーロンさんは何を言っているのか分からないといった表情で、それでも答えてくれた。
「そういえば、初めて会った時から夢がどうのと言っていたな。どれが夢でどれが現実かなんて説明しづらいが、俺にとってはこれが現実だ。……その肩の傷が夢ではなかったという証ではないのか?」
私の左肩を見て、アーロンさんは言った。
私もアーロンさんと同じ所に視線を送り、その場所を手で押さえた。
ズキンと傷が痛む。
その痛みに、これが夢じゃないって思い知らされる。
「そっか……そうなんだ……はは……どうしよう……」
もう笑うしかない。
夢じゃなかったら何なの?
その時ズキンとした傷の痛みに、魔物に襲われたシーンがフラッシュバックする。
その瞬間、私は体をこわばらせ叫んでいた。
「!!いやぁぁぁぁぁぁぁ!!」
「おい!!」
私は自分を抱き締めるようにしてうずくまる。
じゃあ、あの時私は死ぬかもしれなかった……?
アーロンさん達がいなかったら……?
これが現実だと気付いた途端、恐ろしい世界に来たんだと恐怖が私を支配した。
「落ち着け!大丈夫だ……」
アーロンさんが傷のない方の肩に手を置いてくれている。
自分でも知らない内にガタガタと体が震えていた。
「……大丈夫だ……」
それを見たアーロンさんは、静かに私を包み込んでくれた。
あ……あったかい。
アーロンさんの胸の中で少しずつ呼吸を整える。
最後に一つ、大きく深呼吸して顔をあげた。
アーロンさんと目が合う。
そして聞こえた二回目のドアが開く音。
「アーロン、サクラちゃんの様子はどう……」
音の聞こえた方を見れば、部屋に入ってきたジェクトさんと目が合う。
「……邪魔したな」
そしてその人は意味深な笑みを携え、部屋から出ていってしまった。
どうしたんだろう。
それとほぼ同時にアーロンさんがすごい勢いで離れていった。
「わ、悪い!」
「いえ、ありがとうございました……落ち着きました……」
いきなり離れていってしまった温もりが少し寂しかった。
今は何だかとても人恋しい。
まだぼーっとする頭で私に温もりをくれたアーロンさんに淡々と返事をした。
私、明日の勤務なんだったっけ?
携帯持ってきたっけ?
っていうか携帯繋がるのかな……
ぼけーっとしながら色々考える。
「あれ?夢じゃないってことは……私……」
そうだ、アーロンさんに初めて会った時、私すごいこと言わなかったっけ?
「……まだ、何か考えているようだな」
「私……初めてアーロンさんに会った時……その……す……す……すきとか言いませんでしたか!?」
そうだよ!
どうせ夢だしとか思ってしっかり告白しちゃってたじゃん!
思い出したら恥ずかしくなり、手で頬を押さえまたうつむいた。
「ああ……言っていたな」
アーロンさんは視線を泳がせながら返事をする。
やっぱり……
どうしよう……
初めて会っていきなり告白とか有り得ない……
今更自分の発言に後悔した。
「あの!今までの事、全部忘れてください!!私、混乱してたみたいで!」
私は全力で土下座をした。
こんな恥ずかしいことない……
穴があったら入りたい……そんな心境だった。
アーロンさんは何故か少し寂しそうな顔をして、
「……それは、俺に好意はなかったということか?」
「え!?いや、そういう意味じゃ……」
「そうか……」
ん?何かへこんでる?
予想してなかった反応に首を傾げる。
だがすぐに、次のアーロンさんの言葉に目を丸くすることになる。
「まぁいい。とりあえずブラスカ様にお前の目が覚めたこと、報告せねばな。何せ二日も眠っていたのだから」
ええ!?二日も!?
アーロンさんはドアまで歩いて行きドアノブに手をかけると、振り返り言う。
「そうだ、お前に治癒魔法をかけてくださったのはブラスカ様だ。後で御礼しとけよ」
「あ、はい。でも真っ先に来てくださったのはアーロンさんですよね。ありがとうございました」
今日、目覚めてから初めて笑ったかもしれない。
アーロンさんと話していたらやっと少し落ち着いてきた。
そう、あの時見えたのは赤い衣。
見間違えるはずない、あれはきっとアーロンさん。
助けてもらったんだもん、ちゃんと笑顔で御礼しなきゃね。
すると、アーロンさんの動きが一瞬止まった。
「アーロンさん?」
「!あ、ああ……ゆっくり休め」
そう言うとアーロンさんは出ていった。
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