南雲くんがいじわるな人なのをわたしは知っているので、「ばーか」と言われたところでへこたれない。実際のところわたしはあたまがよくないから、そう言われても言い返せないのが現状である。そう考えてみれば、南雲くんだってこのあいだのテストで数学が赤点ぎりぎりだったような気がする。それを指摘したならば、きっと南雲くんは髪の毛だけでなく顔まで真っ赤にして怒るのだ。だからわたしはだんまりを決め込んで、南雲くんの攻撃をやり過ごすのだ。それがいちばんの対抗策なのである。


刧刧


午後の体育でサッカーをした。走りまわることは元々あまり好きでないし、むしろ苦手なほうであるので、わたしはいつもボールに遊ばれているような気がしてならないのだ。それなのに南雲くんはいつだってボールを独り占めしている。サッカー部だからと言っても、やっぱりずるいと思う。みんなにボールをまわしてあげないところが、南雲くんのいじわるなところだ。この調子だとわたしはチューリップがきらいになりそうである。南雲くんばかり見つめていたからか、わたしはなんにもないところでつまずいて、盛大に転んでしまった。それでもみんなの視線は南雲くんの足元に奪われたままで、だれもわたしを心配してくれるひとなどいない。わたしが目のはしになみだを溜めながら起き上がったのと同時に、南雲くんの蹴ったボールがゴールに入った。やっぱり南雲くんはいじわるなのだ。


刧刧


体育座りをして、血がにじんで赤くなった膝小僧を見つめていたら、いじわるな南雲くんを思い出してまた視界がうるうるしてきた。そうしていると、ふと靴が見えた。見上げると南雲くんが立っていた。そしてこちらを見下ろしていたのである。あのいじわるな南雲くんのことだ、どうせまたわたしをばかにしにきたのだろう。南雲くんはしゃがんでわたしを見た。

「おまえ、ころんだのか」

そんな風に心配そうなふりをしたって、わたしにはぜんぶお見通しなのだ。わたしはやっぱりだんまりを決め込んで赤い膝小僧を見つめた。するとチューリップの絵が描いてあるなんともメルヘンチックな絆創膏が視界に入り込んできた。どんなやさしい子が差し出してくれたのだろうと思って見上げると南雲くんだった。わたしはまばたきをした。「つかえよ」わたしはなにも反撃していないのに、南雲くんの顔は髪の毛と同じに真っ赤になっていた。へんなの、とわたしは思った。


ひそやかなあかいろ
110726 inazuma11/nagumo haruya
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