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By 壱子
2010/08/18

 
静かな室内に一つだけ囲われたベッドのカーテンが揺れる。ゆっくりと近づいてカラリとカーテンを引けば、いつもの大人っぽい風貌とは一転、あどけない表情で眠るシカマルの姿があった。
施錠したのだからする必要はないのだけど、気分的にカーテンを端まで閉め切って、少しだけ空いているベッドの端に腰掛ける。
シカマルの顔にかかる髪をそっと払いのけ、その頬に触れた。
あまり時間はないのだから、すぐにでも起こして伝えなければならないことがある。
自分にも、こうして穏やかに眠るシカマルにも関係のあることで、けれども、もうどうしようもないことでもある。
明日にはきっと全校生徒にも知られてしまうことで、ただそれを自分の口から告げるか否かというだけなのだ。
頬に添えた手でそっと撫でて、起きて、と一言声をかければいい。
そうすれば眠りの浅いシカマルはすぐにその目を開くだろう。ほんの、一言。
だけれど、何故か唇が震えて、声が出なかった。

「俺らの関係が、知れたって言ったら、シカマルはどうする?」

ぼそりと、本当に小さな呟きはシカマルには届かなかったようで、少しだけ身じろぎをしただけで目を覚ますことはなかった。
良かったのか、悪かったのか、答えの出ない感情は考えないことにして、最後に眠る彼の唇に一つキスを落とした。
最後だ。そう言い聞かせて。
幸い、シカマルとの関係を知っているのは校長だけらしい。偶然、自分がシカマルにキスしている場面を見てしまったのだそうだ。
校長室に呼ばれて問われたのは、本気か、というたった一つだった。真剣な目で、本気なのかと。
頷いた自分に、柔らかく笑った彼はそっと一枚の封筒を手渡して、悪い話ではないと告げた。
学校が違えば、校内で噂になることはないだろうと。外で会うなら気をつけなさいと。
そう言って、私立への転勤を薦めたのだ。
側にいたい想い、知られてしまった罪悪感。様々なものが交差して、けれど、校長の優しさを無下にできるわけもない。
応援はできないね、と笑った彼をこれ以上裏切ることはできなかった。
元々私立からは転勤の誘いがあったわけだからいいきっかけだと思えばいいのだろうか。
ただ、この校内でシカマルに会えなくなるというのがどうしても嫌で、けれども、そんなわがままを言える立場にないことはわかっていた。

「君はここで、楽しんで、悩んで、時には泣いて、……恋したらいい」


この関係を続けるには、少しばかり遠い場所に行かなければならないようだから。







頬を撫でた少しだけ強い風に、うっすらと目を開けた。
揺れるカーテンを視界にいれて、自分が眠った時には窓は閉まっていたように思う。
ゆっくりと体を起こして、ベッドの端に付いた手の平に微かな温もりが伝わってくる。
誰か、いたのだろうか。
そういえば、夢心地の中で、優しい、けれど、少し悲しい声を聞いたような気がした。

「   …?」

思い描いた人の名前は、風に揺れたカーテンに遮られて、消えた。




――――――――――

自分で回収いたしました!(笑)
てゆかほんとお待たせしてすみません。ちょっとスライディング土下座してくる。
まぁ、あの、次はね。蓮ちゃんに回すわけで!よろしく!


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