「だからアレじゃないんだって。アレだよ、アレ!」 「ああ、アレかぁ!」 「そうそう、アレアレ」 「なんだよ、それならそうと早く言えよな〜」 目の前で常人には理解しがたい会話を繰り広げる留学生とデュエルアカデミア本校の誇るデュエリストは、唖然として会話を見守る生徒たちの友人だった。そしてこのふたりもまた親友同士である。つまり立場は同じであり、共に過ごした時間で言うなら圧倒的にこの留学生は短いはず…なのだが。 相性がいいのか妙に通じ合うこのふたり、先程から「アレ」だの「それ」だのと老人のような言葉を繰り返しているにも関わらず、なぜか会話が続いている。…当然弟分を自称するふたりも彼にそれなりの好意を寄せる少女もライバルを名乗る青年も会話の内容は理解できていない。 「…つまりあの場面であのカードを使ってればさ…」 「え?いやでも、あそこはアレの方があっちの効果を発動できるじゃんか」 ……やはりわからない。 「おい……、おい貴様ら。日本語で話せ!」 ついに痺れを切らした万丈目が、苛立たしげに言い放った。そこでようやくふたりの視線がこちらを向いた。しかしふたりはぱちぱちと瞬いて、再び顔を見合わせると、不思議そうに首を傾げた。 「いや、普通に日本語だよな」 「ああ、日本語だな」 「いくらヨハンが外人だからって、何言ってんだよ万丈目」 「ええい、そういう意味じゃないっ!」 くすくすと笑うふたりに拳を振り上げながら抗議するも、あまり効き目はないらしい。万丈目の言葉を軽く流しながら、ふたりはなおも完全に理解するには難易度の高すぎる会話を続ける。 ツーカーというレベルではなく、実は超能力でも使えるのではないかとすら疑ってしまう。 …出会って間もないと言うのにこれだ。もしヨハンが自分たちと同じほどの期間共に過ごしていたらと思うとおそろしい。会話もなしにお互いの言いたいことを理解してしまいそうだ。 「……そういえば十代、あの話なんだけど」 「ん?ああ、アレか?」 「そうそう、アレさぁ……」 …………。 もう諦めましょう、とばかりに、明日香は緩く首を振った。同調するように翔と剣山が溜息をつく。万丈目はまだ何か言いたげだったが、もはや文句を言う気力もないらしい。 「……で、だからさぁ…」 「えー…そうかぁ?でもオレはやっぱり……」 勝手にやってろ、と小声で吐き捨て、万丈目は甲高い声を上げながら纏わり付く精霊を追い払った。翔と剣山も揃って顔を見合わせ、明日香も溜息をこぼす。 なんのことはないデュエルアカデミアの、日常で、日常だった。 ―――――― ツーカーっていいですよね…と思いつつ書かせて頂いた話でした。もうツーカーというよりはエスパーレベルで通じ合えるふたりが好きです…なんちって…。 アレとかそれとかまるで意味がわからん会話でも、ふたりにだけはちゃんとわかっているはずです(笑) リクエストありがとうございました!煮るなり焼くなりお好きにしてやってください…! もどる |