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「鬼柳、あれはなんと言うんだ?」
「アレか?アレはなー……えーっと、アルタイルだよ。あっちがベガで、向こうがデネブ。三つつないで夏の大三角形だ」

 遊星の指差した星を見つめて目を細める。一際明るく輝く星の名前は、以前にニコから聞いたものだった。父から教わったのか、本でも読んだのか、ニコは星空について色々と知っていた。いくつかは興味を持って聞いた鬼柳も、遊星に披露できる程度には覚えている。

「……夏の大三角形か。綺麗だな」
「ああ。広い空には、こんなに綺麗な星があったんだぜ」
「サテライトからでは、あまり星は見えなかったからな」

 澱んだ雲に覆われてばかりだったサテライトは、月も星も、あまり見ることはできなかった。チームが集まって夜空を眺めても、顔を出してくれることはめったになく――こんなにたくさんの星があることなど、知りもしなかった。この町に流れついて初めて知ったことだ。月はあんなにも明るく輝き、星は空一面に拡がっていると。
 本当に綺麗だ、と改めて遊星が呟いた。横をちらりと見遣ると、遊星はどこか寂しそうに空を見上げている。見慣れた横顔は、泣き出しそうにも見えた。

「…ネオ童実野シティは、明るすぎて、こんなに星は見えないんだ。同じ空の下にいるのに、この景色は共有できないな…」
「そう…なのか?昔はシティの綺麗な空なら…ってみんなで話したのにな」

 あの時はクロウやジャックも交えて。そこには遊星も居たはずだ。懐かしい思い出のひとつとして、鬼柳は笑う。けれど遊星はにこりともせず、星空から目を背けるように鬼柳を見た。月明かりに揺れる青い瞳が何を思っているのか、心を読むことができない鬼柳にはわからない。それでも遊星は何かを訴えるようにじっと鬼柳を見つめる。

 痛いほど、まっすぐな瞳。

「……鬼柳。また、星を見に来てもいいだろうか」
「な…何だよいきなり。そんなこと、オレに確認することじゃ…」
「聞きたかったんだ。…またお前と…お前と一緒に星を見たい」

 だから、と言いかけて、遊星は口をつぐんだ。……いちいち聞くことでもないし、なにか後ろめたいことがあるわけではないのにも関わらず。
 遊星が何にこだわっているのかわからないが、星を見るくらい、いつでも付き合うと言うのに。鬼柳はにっと笑って、遊星の髪をぐしゃぐしゃと掻き混ぜた。

「何変なこと聞いてるんだよ。星くらいいつでも見に来いよ、付き合うからさ」
「……そうか。ありがとう、鬼柳」

 遊星はようやく控えめに微笑むと、すっかり冷えきった鬼柳の手を握った。鬼柳も照れたように笑い、そっとその手を握り返す。

「……本当は、いつもお前と、…………」

 遊星の小さな囁きは、風に吹かれてそっと消えた。





―――――――
たぶんみんなが居なくなった後
ひとりぼっちは寂しいもんな…



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