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「ドッラガーン!お前に頼まれてた缶コーヒー買ってきてやって…あれ」

 片手に自分の缶、もう片手にドラガンについでにと頼まれた缶で両手が塞がっていたが、スタジアム控え室の扉は幸いにして自動開閉式だ。ブレイブは両手にしっかりと缶を持ったまま部屋に顔を出したが、室内のどこを見回しても、自分に飲み物を注文した張本人の巨躯が見当たらない。その代わり、ゆったりとソファに座ったチームのリーダーがこんなところでも優雅にティーカップを傾けている。
 ブレイブはひとまず部屋に入り、両手に持った缶をテーブルの上に置いた。高級そうな茶器と並べると自動販売機の缶というものはいかにも質素に見えるが、ブレイブからすれば無意味に高そうな茶を飲むより、安くてうまいものを飲む方がずっといい。

「なぁハラルド。ドラガンは?」
「入れ違いだったな。少し走ってくると言って出て行ったぞ」
「人に買わせといて、何だそりゃ。まぁいいか、オレが後で飲めば」

 言いながら、ブレイブは自分のために買ってきた缶ジュースのプルタブを上げた。そのまま飲み口に口をつけ、何故か腰に手を当て、豪快に中身を一気飲みする。

「くはー!炭酸はやっぱ一気飲みが醍醐味だな!」
「わざわざ一気飲みする必要があったのか?」
「ハラルド、お前はロマンってもんがわかってないなー」
「…缶ジュースにロマンを求める方がおかしいと思うが」

 わかってねえなぁ、とブレイブは肩をすくめて首を振った。高級そうな紅茶をちまちまと飲んでいるハラルドに、庶民のこの楽しみは一生分かるまい。その事を心の中で少し哀れみつつ、彼の隣にどかりと腰を下ろした。

「それよりハラルド。ドラガン、走りに行ったんだよな?」
「ああ、そのはずだが」
「アイツの少しは少しじゃねぇから、まだ三十分は戻ってこないなー」
「そうだな」
「じゃー後三十分は二人っきりなわけだ!」

 そうだな、と再び気のない返事を寄越すハラルドに、ブレイブは眉を顰めた。少しは察しろと舌を打ちながら、ハラルドの膝の上に頭を乗せる形でソファに寝転んだ。正直男の膝と言うものは心地良くもなんともないのだが、相手がハラルドだと思えば途端にいいものだと思えるのだから不思議なものだ。
 紅茶を飲みつつデュエル雑誌に手を伸ばしていたハラルドの瞳が、ブレイブを見た。にへら、と笑って見せると、ハラルドは小さく溜息をついた。

「二十分だ」
「二十五分!」
「……二十五分、ぴったりだぞ」
「さすが、気前いい!ハラルドの膝枕、頂戴するぜ!」
「まったく、……男の膝に寝て何が楽しいんだ」
「いやべつに楽しくねーし。正直こっちから願い下げレベルだけど、まあ、ハラルドだし」

 よく寝れるんだよなぁ、と付け足すと、ハラルドは困ったように微笑んだ。照れてるのかとも一瞬思ったが、いつも余裕綽々な彼に限ってそれはないだろう。それより今は、二十五分限りの休息を楽しむに限る。

 瞼を下ろすと、ハラルドのひやりとした手が一瞬額に触れた。かとおもえば、瞼をすかして差し込んでくる明かりが急に遮断された。おそらくハラルドの手だ。
 おやすみ、とささやく穏やかな声と冷たい手。二十五分と言わず、このまま一日中眠ってしまいたいくらいだ。すぐに却下されるであろうブレイブの願望も、睡魔に呑み込まれてだんだんと薄れていった。






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神様(オーディンとロキ)が見てる



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