Unlimited

about / main / memo / mail





 もしオレがどこか遠くへ行くと言ったら、どうする?そう問うてくる男は、いつもと変わらぬ様子に見えた。アメジストの瞳は落ち着いている。きっとただ、気まぐれで訊ねてきただけだ。そう思いたい。けれど普段の彼が、こんな、たとえ話にしても――こんな問いかけを、するものだろうか。

「……どこか、とは?」
「どこかは、どこかだ。お前の手の届かないような、どこか…」

 アメジストの瞳が不意に窓の外を向いた。同じくそちらに視線を向けると、見えたのは、かがやかしいネオン。高く立ち並ぶビルの光。町全体が光輝いているようだった。暗く淀んだサテライトとは正反対の、うつくしい町。ここの住民にとって、三百六十五日二十四時間光に包まれたあの場所は、天国にもひとしいだろう。

 光に溢れ、衣食住に困らない。夜中に出歩いて無法者に襲われることも、きっとない。

 ああ、そうか――なんとなく、察しがつく。ジャックはあそこへ行こうとしているのだ。どうやって行くか、何故行きたいのかは、わからない。聞くつもりもない。ただ、彼はこんな場所で終わりたくないのだ。


「お前が行きたいというのなら、俺は、止めない。…好きにすればいい」
「……本気でそう思っているのか?」
「俺にお前を止める権利はないからな」
「権利がどうなどと、そんなことを聞いているのではない。おまえ自身は、なんとも、思わんのか」
「お前が止めてほしいと望んでいても、……止めないさ。それがお前の選んだ道なら」



 がらん、と金属の音。手にしていたドライバーが床でさみしげに転がる。拾わなくては、そう思ったが、ジャックに胸倉を掴まれたこの体勢ではどうしようもない。
 遊星は奥に炎をちらつかせる紫水晶をのぞきこんだ。彼の瞳にぼんやりと映っているのは、驚くほど感情を宿さない、青い瞳。

「……仲間だ、絆だと。誰よりも口にしているのはお前だろう」
「仲間の選択を受け入れる事も、必要だ」
「オレはただの仲間で終わるつもりはない」
「だとしても、俺はお前を止めたりしない」

 淡々とした答えに、堪忍袋の緒が切れたのだろう――ジャックはぎゅっと眉間に皺を寄せ、遊星の唇に噛み付くように口付けた。傍若無人で乱暴なキス。遊星はそっと目を閉じて、それを受け入れた。きっと、これがさいごだ。


(なあジャック、ほんとうは、お前とずっと同じ道を歩きたい)
(だが、それではだめなんだ)
(だめなんだ、ジャック)


 どんなに美しく咲き誇った花も、いつかは枯れる。ならばその前にいっそ、摘み取ってしまえばいい。どうせいつかは枯れてしまうのだから。その時をどんなに先延ばしにしていたところで、むなしいだけだろう。

 たとえどんな手を尽くしたって、枯れてしまう、なら。



(さよならおれの、)








もどる





「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -