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 うっかり突き刺してしまいそうな鋭い爪、細い身体を握り潰せそうな大きな手。倍以上あるこの身では、抱きしめたら骨を折ってしまいそうだ。長躯の彼も、今の自分から見ればただのか弱いひと、で。背中に回りきらない細腕をそっと退けようとしても、その腕を傷つけてしまわないか、不安になる。

「……パラドックス?」

 おそるおそる声をかけると、離すまいとするかのように、回された腕に力が込められた。パラドックス、もう一度呼び掛ける。……返事は、なかった。

「パラドックス、そろそろ、離れないか…?」
「………」

 嫌だ、ということなのだろう。パラドックスはアポリアに抱き着いたまま、微動だにしない。絶対に離さないという言外の宣言に、アポリアは溜息をついた。

「パラドックス、私はアンチノミーに用が…」
「アンチノミーはゾーンと話している」
「…………」
「そんなに私が嫌いか、アポリア」

 咄嗟についた嘘をあっさりと見破り、パラドックスは抑揚のない――わざと抑えたような声で、(…手が震えているのには、気づいてないのか)

「嫌ならとうに振り払っている。ただ、下手に触ると、傷がつくだろう」
「……触れてもいないくせに、なにを言うんだ」

 パラドックスはゆるゆると顔を上げて、真っすぐにアポリアを見た。飴色の瞳は不安に揺らいで、わずかに潤んでいるようにも見えた。ゾーンはどうしたことか、こうした人間的な機能を、アポリアたちに残している。

 泣くのだろうか。アポリアはパラドックスを見下ろした。人間の居ないこの世界で、涙は久しく見ていない。もしも泣かれたら、どうしていいかわからない。
 アポリアはそろりとパラドックスに手を伸ばし、長い金髪を梳くようにして頭を撫でた。(下手に力を入れたら、頭をつぶしてしまいそう、だ)

「……君の手は大きいな」

 いまさらなことを呟きながら、パラドックスはアポリアの手を取った。指先に触れる手からはかすかに体温を感じる。小さく白く、優しい、繊細な手。巨大でどこかいびつなこの手とはまるで、正反対だ。触れれば折れてしまいそうな、か細い手。

「君の手は優しいよ」

 まるでこちらの心を見透かしたように、パラドックスは小さく漏らす。

「……だから、そんなふうに逃げないでくれ、アポリア」
「私は、……逃げてなど…」

 逃げてなど、いない。アポリアは心の内でそう呟いた。言葉にすることはなぜか出来ず、軽く唇を噛む。ちくりと機械の心臓が痛んだ気がした。

「……私は逃げてなど、」

 ただ彼を傷つけたくないだけだ。言い聞かせるように呟いて、小刻みに震える手を、パラドックスの背中に回す。悲しそうな彼の飴色の瞳が、強く、焼き付いた。







配布元:めぢから



――――――――
この人たち誰だろう…

アポリアの人ひとりくらい包み込めそうな大きい手が好きなんですが、爪すごいし、気を抜いたら怪我させそうだなぁと



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