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 彼が好きだ、と改めて思った。両の腕を、ゆっくりと背中に回す。ぎゅう、とやさしく抱き寄せて、強く抱き締めた。風也?と呼ぶ声は、軽い。

 抱きしめた体は年相応に細い。背丈は、風也の方が僅かばかり高い。エスパー・ロビンのために鍛えた体のためか、体格も彼に勝っていた。細い体。風也も十二分に細い体つきをしていたが、抱きしめた彼はもっと細かった。もっと筋肉つければいいのに、と思いながら、さらに力を込める。あたたかい体だ。

 子供体温、とはよく言ったもので、彼はとてもあたたかい。もちろん風也も体温は低いと言うわけではない。けれどそれ以上に、彼があたたかかった。彼の体温はとても心地よい。


「……このまま」
「うん?」
「このまま、ぼくの体が溶けちゃってさ」


 きみと一つになれたらいいのにね。風也はそう言って、細く骨ばった肩口に顔をうずめた。

 彼の体温でとけてなくなって、一つになって、一緒に生きていけたらいいのに。こんな小さな自分、消えてなくなってしまえばいい。そうしたら彼ともずっと一緒にいられるのだから。ぎゅうぎゅうと細い体を力いっぱい抱きしめながら、願う。
 抱きしめる力が強すぎたのか、苦しい、と言う抗議の声があげられた。風也は謝りながら、慌てて力を緩める。溜息がこぼされた。たったそれだけのことに、胸がちくりと痛む。呆れられたかな、嫌われたかな、と不安が勝手に肥大してゆく。


 風也の背中に、あたたかい腕が回された。


「オレと風也は、べつべつの人間だろ。風也がとけてなくなったって、一つにはなれないよ」
「……でも」
「それに風也がいなくなっちゃったら、オレは寂しいよ。風也とたくさん話したり、デュエルしたり、こうやってぎゅってできなくなる。オレはそんなの嫌だ。だから、もしなれたとしても、一緒になんかなりたくない」

 力強く言い切られ、風也は唇を引き結んだ。ああ、やっぱり彼は、いつも自分を引き上げてくれる。
 どんなところにいたって、何を考えていたって。彼はこうやって、欲しい言葉をくれる。自ら泥沼にはまっていく自分を、引っ張りあげてくれる。それはきっと、意図して言っているわけではないのだけれど。

 少し、距離を開ける。あたたかい腕が背中から滑り落ちる。赤い瞳と視線が交わった。真っ直ぐな瞳。いつかのデュエルの時も、友達になってくれると言ってくれたあの時も、こんな風に真っ直ぐに自分を見つめていた。


(ぼくだって、この瞳がぼくを見てくれなくなるのは、嫌だ)


「……ゆうま」
「今度はなんだよ?」
「僕たち、別々の人間で、よかったね」
「当たり前だろ。別々じゃなかったら、オレ、風也と会えなかったじゃん」


 にい、と歯を見せて笑いながら、お前馬鹿だなあ、と彼は笑った。そうだね、と頷いて、もう一度抱きしめた。とてもあたたかい。いつまでもこの熱に触れていたいと思った。そう思うとやはり、自分たちは一つになってはいけないのだ。重なる心音も交じり合う体温も、すべて別々でなくては。どうしてそんな当たり前のことに気づけなかったのだろう、どうして彼は気づかせてくれたのだろう。いろいろな想いで胸がいっぱいだった。それらをすべてぶつけるように、せっかく抱きしめた体を離して、今度は顔を近づける。ゆっくりと唇が重なった。やわらかくあたたかい。数秒ほど触れ合わせて、また、離す。



 なんて、幸せなんだろう。そう思いながら、赤い瞳をじっと見つめる。別々の人間でよかった。まったくの他人としてうまれてきてよかった。とてもとても幸せだ!



配布元:ロメア



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